第74話 ふろっく・か~ぷ

「鯉とフナしか寄ってこねぇ…」

 あまりの寒さにガクブルの夏男。

 振るえる身体でカチャカチャと皿とレンゲを鳴らしながら、炒飯を撒き続けること4杯目。

「………やぁ~ってられっかーーーー‼」

 クソでかい池の真ん中で不満を叫ぶ夏男。

 どしゃ降りで、かき消されバスの車内には届かない夏男の不満。

 それどころか…

「なんで…バスの中で喋ってんの私?」

 立花桔梗 保険医、当社の目的も忘れ、なんなら夏男の存在も忘れ去った。

 足元に転がるチューハイの缶のせいだと思いたい。

「冬華、河童を探しにきたのです‼」

「おぉう、そうだった、そうだった、河童獲りにきたのであったな、忘れてた、いやはや、いやはや」

「バスの中で河童は探せねぇぜ、今日は帰ろうぜ…もう」

「バカチンがー‼ 絶好の河童日和なのです‼ 雨ザーザー、カッパワーMAXなのです‼」

「なんですの?カッパワー?」

 春奈が首を傾げる。

「河童のパワーでカッパワー‼ なのです‼」

 冬華の口から、とっさにでたワード『カッパワー』大した意味はない。

「あ~…そのカッパワーMAXの河童がいたとして…そんな力強そうな生き物をどうやって捕まえるの?」

 小太郎の視界、遠くに見える夏男の姿。

「すいません‼ 僕のレーザーは、この雨の中では…威力が…すいません‼」

 バスの車内で片膝を付いて謝る向井くん。

「いや…獲るって言ってるからさ…撃ち抜いちゃダメなんだよ向井君…たぶん」

「じゃあ僕は何のために呼ばれたんでしょうか?」

「…それは~、なんでだろう?」

「むっ? その筋肉は見せかけですか? カッパワーMAXの河童に負けるですか‼」

 冬華、とっさにでたワード『カッパワー』を立て直してきた。

「そもそもさ~、河童なんているのかよチッコイ先輩」

 ギロッ‼

 ちっさい顔にアンバランスな大きな目で青海を睨んでくる冬華。

「ゾンビがいて、河童がいない理由を説明できるですか? 青海」

「……できま…すん…すんません」

「解ったら、早く様子を見に行くです‼」

 池を指さす冬華。

 言われるまで、すっかり忘れていた夏男のこと。

「うむ、コレを持っていくがよい」

 秋季が青海に日傘を手渡した。


 ………

「エロメガネ先~輩 様子はどうよ?」

 池の畔から夏男を呼ぶ青海、どしゃ降りの中、雨を遮る機能は瞬殺され、ずぶ濡れである、当然だが。

「バカヤンキーか…断わっておくが、俺の視力は悪くない‼よってエロメガネではない‼」

 唇、真っ青の夏男が池の真ん中から青海に怒鳴る。

「じゃあなんで、たまにメガネかけてんだよ‼ テメェわよー‼」

「日常に時折、訪れるエロスチャンスを逃さないために決まってんだろー‼ 備えあれば憂いなしだ‼」

「何に備えてんだコノ馬鹿ヤロー‼ そのまま鯉に喰われちまぇ‼」


 雨天の口喧嘩が勃発している頃、バスの中では、新たなミッションがスタートしようとしていた。

「キュウリです…か…?」

 冬華が設定の根幹を思い出したのである。


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