第73話 ふらいどらいす・すぴんくる・うぉ~た~

「コレなに?」

 冷めた炒飯を抱え、パンツ一枚で池の畔に立つ夏男。

「エサです‼ それで河童をおびき寄せるのです‼」

 冬華、おやつに持ってきたポテチを食べながら夏男に指示する。

「冬華ちゃん…河童は炒飯食うのかな?」

「だよな、新説だぜ、ちっこい先輩」

 しばしパリパリとポテチを食べながら考えていた冬華。

「………河童は中国から来たのです‼」

「マジか?」

 青海もビックリである。

「ハッハッハッ、原産国が中国とは、コレは意外」

「あらっメイドインチャイナでしたの?」

「………そうです‼ だから中華料理は好物なのです‼ すぐに食いついてくるから準備するのです‼」

(とっさに付けた設定だな)

 冬華の顔を見て河童、中国産説、その根拠の薄さに気づいた小太郎、でも特に自分が関わるわけでもないのでスルーすることにした。


「えっ? 撒けばいいの?」

 お盆に乗せた冷めた炒飯が水面に浮かべられた、それを紐で手繰り寄せた夏男。

「まず一皿いってみるです‼」

「そうだ、何事も行動が大事だぜメガネパイセン」

 無責任な面々は、池の畔でスナック菓子を食いながら好き勝手なことを言う。

「なんか雨になりそうですわ」

 春奈が、どんよりした空を気に掛ける。

 心なしか、雲が重くなり、沈んできたかのような空模様である。

「先生、雨降りそうだからバスに戻るわよ」

「あっ僕も…湿度が高いとレーザーの威力が…」

 立花先生、向井くん、早々にバスに戻る。

 クルッとバスの方へ振り返る冬華。

 一時考えて

「……そういうことです‼ 河童捕まえたら戻ってこいです‼」

 小走りにバスに戻る冬華、それに続く面々。

「じゃあ…炒飯、ココに置いとくので…」

 最後に小太郎が、冷めた炒飯を畔において、バスへ戻っていった。

 グスッ…

 涙ぐむ夏男。

「なんで…この世界は、こんなにも俺に辛くあたるのか…」

 呟き、炒飯をレンゲで救い池に撒き始めた。


 ………

 バスに戻りお菓子が無くなった頃

「あっ…雨降ってきたわ」

 立花先生、窓にあたる雨に気づいた。

「降るとは思っていたぜ、朝からよ~」

「ハッハッハ、私は傘も持ってきたぞ」

 秋季がバスの車内でパンッと傘を開く。

「派手ですね…」

 小太郎、自分は選ばないな~という柄に引き気味である。

「まぁ、見事な日傘ですわ」

「……狭い車内で傘広げないでください秋季さん」

「よければ撃ち抜きましょうか?」

「向井、よせバカ‼ 天井に穴が開くだろが‼」

「まあ、穴が開いたらバスの中にいる意味がなくなりますわ」

「誰が好き好んで、濡れネズミになりたいものか、日傘とはコレ失敗だ、ハッハッハ」

「そんなバカがいたら、見てみてぇぜ」

 秋季の日傘で、一笑い起きたバスの車内で窓の外を無言で見つめる少女がいた。

(絶好の河童日和になってきたのです‼)


 池の真ん中では夏男が震えながら2杯目の炒飯を撒いていた。



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