第63話 えすぱ~・すと~り~

「ほぉう…で夏男は?」

 大広間で食事中の秋季が春奈に尋ねた。

「風呂掃除ですわ」

「あのクソ広い露天風呂を掃除とは、天晴なことだな」

「湯に浮く肉片をどうやって掃除するんですかね~」

「ホントよね~先生、見当もつかないわ、考える気もないけど」

「レーザーで焼けばいんじゃね? 向井の」

「白くないのでどうにも…」

「焼くですか…焼いたらいいですか?」

「油をまいて、火を付ければいいアルよ」

 シレッとお膳を並べていた店主が話に入ってきた。

「ん? よければ撒くアルよ油」

「まぁ…良くはないでしょうね、というかなぜココに?」

 小太郎が店主に尋ねた。

「お代がまだネ、払ってくれる言うから付いてきたアルよ」

「ほぉう、我々は無銭飲食というわけか、なかなかな状況だなハッハハハ」

「この世界で食い逃げとかあるんだな~盗んだバイクで走りだしてきたから金とか気にしなかったぜ、ここのところ」

 青海が驚く。

「ウチは現金オンリーよ 払うアル」

「心配ないわ、初めて役に立つわね小太郎くん さぁ、サッサと払ってしまいなさい」

 立花先生が小太郎に振る。

「……それが…元がないと増やせないので…」

 そう小太郎の能力『バイバイマネー』は偽造紙幣を作る能力である。

 紙幣がないと意味が無いのである。

 そもそも、この世界においても意味のない能力でもある。

「会長先輩…なんでそんな能力を身に付けたん?」

 青海が小太郎の心をえぐり、小太郎が深いため息と共に沈んだ頃。

「冬華の能力は使えるです‼」

「いや…能力はいいアル…金を払ってほしいだけアルよ…」

 ドバドバと店主の御膳にオリーブが滴る。

「モコズキッチンです‼」

「あぁ…チッコイ先輩…和食が一瞬でイタリアンだぜ」

「ソレを中華料理屋の店主が食べるわけですね」

 向井くんが上手くまとめた。

「……何の話だったか?」

 秋季が刺身を食べながら、話を戻そうとするが…思いだせなかった。

「確か小太郎くんの能力で支払うつもりだったけど…ダメだったって話よ」

「まぁ、そもそも偽札ですわ」

「偽札は、お断りアル」

「そうだ‼ 思い出したぜ‼ 田中だ‼ あの男はどうした?」

「うむ…まさかの逃げたか?」

「まぁ食い逃げ犯ですわ」

「それは僕たちも同じです…」

「いや、そもそもアイツが連れてきたんだからアイツに払わせるべきだぜ」

「冬華、賛成‼」

「じゃあ探しましょうか? 見つけ次第レーザーでよろしいですね」

「よろしくはないだろ…向井くん」

 小太郎がお膳に箸を置いた。


 同時刻…

「ソッチじゃねぇって言ってるだろ‼」

 露天風呂でゾンビに風呂のお湯を抜く様に指示していた。

「肉が詰まったじぇねぇか‼」

 完全に忘れられている夏男であった。


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