第51話 へいてぃど・ぱ~そん

 何やら騒がしい話声…。

 頭が痛い…。

 重い瞼を開けると、そこは教室でした。

「ココはどこだ?」

 目を覚ました田中さんの第一声である。

 かつて校長を務めた学び舎、久しぶりに校舎に来てみれば見覚えある小さな少女と見覚えのないガラの悪い生徒。

 背中に強烈な一撃を受け…気づけば床に転がっていたわけである。

「頭が痛い…主に後頭部が…強烈に…」

 主に階段でゴンゴンと引きずられていたダメージであろう頭痛を訴えるも、誰も聞いちゃいねぇ。

「いいさ…昔から存在を無視されることなんて慣れっこさ」

 田中さん、その存在感の薄さから発現したと思われる能力『リーダーシップ』こそ、その証であるといえよう。

(もう、ココの校長になっちゃおうかな?)

 そんなことを考えつつ、唯一の大人、立花 桔梗に話しかける田中さん。

「あの~…」

「なに? …えっ誰?」

 立花 桔梗、こんな世界で生き残っている僅かな人類ですら覚える気が無い唯我独尊な女性である。

「あ~、さっき拾ってきた人だ……ホント誰だオマエ?」

 田中さんの後頭部を中心とした頭痛の原因を作った男、青海がとりあえず眉間にシワを寄せて顔を近づけ威嚇する。

 不良のファーストコンタクトとは、そういったものである。

「冬華が仕留めたです‼ 誰だか知らないけど‼」

「いやいや…皆さん…いくらなんでも…ねぇ?」

 向井君が皆の態度をなだめる様に田中さんの肩をポンッ叩く。

「いや…アナタこそ誰?」

 田中さんと向井君は初対面である。

「ん、私は未来から来た向井です」

「……未来…あ~…ん~…なるほど…」

 しばらく旅に出ているうちに増えた新顔は画に描いたようなヤンキーと可哀そうな筋肉ダルマであった。

「ところで田中さん、いつ戻ってきたんです?」

 小太郎だけが普通に覚えていた。

 それだけで泣きそうな田中さん。

「キミは覚えていてくれたんだね…えっと…名前が…顔は覚えているよ」

「僕、軽くイラッとしたんですけど…」

 久しぶりの再会は、ヒリッとした空気の中で…。

 その中で唯一、ニコニコと笑っていたのが夏男であり、それは…。

(自分より下の人間を見ると…テンションあがるわ~)

 夏男のヒエラルキーでは、田中さん、最下層に位置しているらしい。

「元気出せよ、病院であった人」


 上から目線で声をかけ田中さんに近づく、意地汚い笑顔の夏男。

 その笑顔で思い出されるのは、あんなこと…こんなこと…。

「キミは、あの時に皆から死ぬほど嫌われていた子だね、確かに病室で一緒だったよね」

 夏男から汚い笑顔が一瞬で消えた。

「死ぬほどは嫌われてねぇや‼」

「いやいや、夏男よ嫌われていたぞ」

「そうですわ、今は更に嫌ってますわよ」


 ブワッと涙が溢れる夏男、田中さんがそっとハンカチを差し出して、受け取り…声を出して泣いた…。









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