第50話 ろんり~たふねす

「時に小太郎会長?」

 秋季が小太郎に話しかける。

「なんでしょう?」

「校庭で何が起きているんだろうか?」

「さて…何があったんでしょうかね~」

「まぁ、校内に運ぶ気ですわよ」

 気絶しているであろう田中さんを青海が引きずって校舎に入ってくる。

「アレじゃねぇか? 冬華ちゃんギター欲しかったんじゃねぇかな?」

 夏男が指さす冬華。

 白いギターをベローンッ♪ベローンッ♪と鳴らしながら青海の後から付いていく。

 ゴンッ…ゴンッ…と階段を一段上がるたびに鈍い音が生徒会室にも聴こえてきた。

「完全に引きずってますね、この音は…」

「ギターの音は聴こえなくなったけどな」

「あらっ、冬華ちゃんギターに飽きたのね~」

「欲しいものは奪う…先生の教育が間違っていたのかしら?」

「いやなに、立花先生、こういう時代に生きているのです。仕方ありますまい」

 秋季が扇子を広げてパタパタと立花先生を扇ぐ。

「そうですわ、時代のせいですわ」

「そうさ、むしろ前向きに生きていけてるよな俺達」

「…………」

 夏男が皆に同意を求め皆が無言になった数秒間。

「なぜ…夏男さんは生きているのか? ふと考えちゃいました」

 小太郎の一言に夏男を除く全員が深く頷いた。

「不思議ですわ…ワタシもですわ…死ねばいいのに」

「ゾンビ以上に無駄な存在って、いるのだなと背筋が寒くなったぞ夏男よ」

「楽に貫きましょうか? 僕のレーザーで」

「生きている理由は知らねぇが…死なねぇよな~エロメガネパイセン夏男のこと…ホントに人か?」

「先生思うのよ~、性犯罪者だけは死ななきゃ治らないって」

「…死ねば治るですか?」

「そうだね…ゾンビになれば性的な思考はなくなるんじゃないかな」

「いや‼そうとも言えないのが夏男の凄いところかもしれんぞ‼ 小太郎会長」

 秋季が真剣な顔で夏男を扇子でピシッと指す。

「そうですわ、あの生き物に限ってということは充分に考えておくべきですわ」

 春奈が露骨に嫌な顔で夏男を見ている。

「ふふっ…女子の視線独り占めと考えれば、この状況もパラダイスだ…」

 気持ち悪く笑う夏男。

「見ろよ、会長先輩、アイツ…笑ってやがるぜ」

「この状況でなぜ…やはり彼は未来の魔王なのではないでしょうか? 今から焼き払うべきなのかも…」

 向井くんが真剣に悩みだす。

「考えようね、先生、あのメンタルだけは凄いなって思うわ…ただ状況と思考の切り替え方が気持ち悪いだけで」


「夏男も、あぁなるですか?」

 冬華が外を指さす。

 窓の外でパンティを被ったゾンビがノロノロと歩いている。

 その少し後で警察官と思われるゾンビがノロノロと追いかけている。


「ふ~っ…死んでも…治らないみたいだね」

 小太郎が深くため息を吐く。

「だからと言って生かしておくべきとも限りませんわ」

 春奈の視線が夏男に向けられる。

 照れるように視線を逸らす夏男。

 一同の背中にゾワッと悪寒が走った…。

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