第41話 い~と・みー
「とりあえず、あの不快なメガネを叩き割って差し上げますわ」
春奈が銛を構えた。
「待て…待ってください…皆さんの水着を透けて見ようとしていたのは事実です」
海藻が流暢に喋り出した。
「うむ、その潔さ天晴‼」
「しかし…勢いに任せて近づいたはいいが…見えません‼ 涙で何も見えません‼ 砂も目に入って何も…何も見えないのです‼」
「まぁ、今がチャンスということですわ‼」
いよいよ牙突でも繰り出さんばかりの勢いで春奈が銛を構えだす。
「ワカメ…カニ食うですか?」
ジュッ‼
こんがりと必要以上に焼けたカニの甲羅が夏男の顔にビタッとくっ付けられた。
「熱っ‼」
飛び退く夏男
「もう…家畜に入れられる焼き印のようだ…」
小太郎がドン引く。
「ハハハッ、自前の海藻で火傷を癒すといい夏男よ」
「炎天下で乾きつつあるけどなワカメ…残念だぜ」
「乾燥ワカメですか? 水かけたら増えるですか?」
言うが早い、冬華が夏男にバケツに入った海水を浴びせる。
「痛っ‼ えっ? カニ…エビ?」
海水のついでにバケツの中で蠢いていたカニ・エビ、やたら貪欲な甲殻類が夏男を捕食せんと襲い掛かる。
フレッシュな肉をハサミで千切らんばかりに夏男の体に食らいつく甲殻類。
頬にカニ型の火傷を負い、乾いた海藻を纏った夏男が甲殻類に襲われている。
その光景は、もはやホラーを超えたコメディである。
「先生、平成の偉大なリアクション芸人を思い出したわ」
「あぁ…鼻をザリガニに挟ませたりしていた人ですね」
「そうよ小太郎君、彼は偉大な芸人だったわ」
「ゾンビになっても痛いよ、痛いよってやってそうですね」
「そう願うわ」
あまりの光景に現実の事とは思えなくなっていた立花先生と小太郎、興味のないTV番組を観ているかのような冷めた目で焼けた砂の上を転がり回る夏男を見ていた。
「悲惨とは…こういうことを言うんだろうな…今、分かったぜ俺」
「追い甲殻類するです‼」
冬華が2杯目を夏男に浴びせる。
「痛いんだよ‼ 熱いんだよ‼ なんか染みるんだよ‼」
「それは罰ですわ、悔い改めよとの神の意思ですのよ」
「夏男のアレに飽きたら、昼食にするかな、ハッハハハ」
「笑ってる場合じゃねぇんだよ‼」
普段食ってるゾンビと違い、やたらと暴れるフレッシュミートに甲殻類まっしぐらな状況。
ワサワサと群がる甲殻類を振り切るために、夏男は海へ走った。
海水より濃い塩分を蓄えた涙を流しながら…。
甲殻類の塊に食欲を刺激されたゾンビ、甲殻類に肉を食われたスケルトンが夏男というかカニとエビの塊に襲い掛かる。
「アンギャー‼」
海岸に夏男の叫びが轟き、それが合図だったようにバーベキューが開始されていた。
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