第39話 さまーし~ずん

「夏は海ですわね」

 砂浜に突き刺したクソデカいビーチパラソルの下で春奈が青い海を眺めている。

「人も多いぜ」

 小太郎と2人で主に重い荷物係を命じられた青海が混雑している海水浴場に驚く。

「うん…人っていうか…ゾンビだけどね…きっと僕たち以外は」

「ゾンビも泳ぐですか?」

「うむ、溺れても死ぬこともないだろうしな、安心して海水浴を楽しめるというものだ‼ ハハハハッハー」

「そうね、窒息とかなさそうだもの先生、ゾンビが遊泳できるなら見てみたいわ」

 立花先生の言葉にしばらく空を眺めて考えていた冬華がタタタッと海岸に走り出す。

 そしてしばらく波打ち際を歩いて帰ってきた。

「冬華、確認しました‼ 浮かぶか沈むかしかしてないです‼」

「そうだろう、そうだろう、走るゾンビはいるかもしれないが、泳ぐゾンビはいないだろうな‼ ハッハッハー」

「ゾンビのクロールか…見て見たかったぜ」

「まぁ、やれたらやったで肉が剥がれ落ちてくんじゃありませんの?」

「泳いでいるうちにスケルトンね」

「スケルトン?」

 海水浴とは思えぬほどの荷物を背負わされた、向井が遅ればせながら海岸に姿を現した。

「着いた早々に戦闘モードとは天晴‼ さすがチョコボール家の血を引く者だな‼ いや天晴‼」

 秋季が汗だくの向井を扇子で仰ぐ。

「チョコボール家ってなによ?」

 立花先生が怪訝そうな顔で秋季に聞き返した。

「またまた昭和世代、解っているくせに、おとぼけとは?」

「今度、元号の話をしたら殺すわよ…」

「さて、石器時代の話はそれくらいにして、バーベキューの準備をしませんこと?」

「石器時代じゃないわよ‼」

「化石の話ですか? 僕はちょっと詳しいですよ」

 間が悪い小太郎がギロッと立花先生に睨まれたことは言うまでもない。

「冬華、カニを獲ってくるです‼ 青海‼」

「おうよ‼」

「海岸は甲殻類で溢れてるです‼ さっき確認済みです‼」

「マジか?」

 捕獲する気満々の2名は岩場へダッシュしていった。

「向井くん、バーベキューセットをセット‼」

 立花先生がテキパキと指示を出し、向井と小太郎が額に汗して火を起こしている最中、秋季は波打ち際で蠢く奇怪な生き物をロックオンしていた。

「アレはなんだろう…」

 人のようではあるが、ゾンビではなく…当然スケルトン化もしていない。

 強いて言うなれば海藻を纏ったゾンビといったところであろうか?

「どうされましたの?」

 日陰で優雅に寝そべっている春奈がサングラスをズラして秋季の視線を追った。

「まぁ…この不快感…間違いありませんわ」

 春奈の生体センサーに反応し認識した個体の名は?

「うむ…間違いあるまい…」

「ん? 二階堂くんじゃない?」

 海岸で光るメガネ。

 立花先生…正解でした。

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