第37話 くろ~る
「ふふふふっ…グフッ…」
白と黒のマーブル模様の痰を吐き出しながら、廊下を這う謎の生き物。
もはやUMAと言っても問題はない。
大量のスプレーを吸引したことで、体液として白と黒の異物を排出しようと全力で反応している夏男のボディである。
暑い夏の午後、塗料は乾燥し肌にカピッと張り付いていた。
発汗の妨げとなり、夏男の体温は急上昇しているのである。
そこにきて、体内からスプレーを体液として排出しようとしている夏男のボディ、こういう状況を悪循環というのだ。
「頭痛が痛い…」
軽い眩暈…鈍痛響く空の頭、そう熱中症である。
白と黒の謎のUMA、仮呼称『ミノタウロス』は戦う前からHPが削られていた。
RPGにおいて『ミノタウロス』とは腕力と体力で勝負してくるモンスターである。
双方を失われた状態では、ただの変態である。
這う変態のもとへ、ハサミの勇者御一行が現れた‼
「うむっ‼ すでに勝敗は見えた‼ ハッハハハー‼」
秋季の笑い声が廊下に響く。
「笑いごとじゃありませんよ…明らかに瀕死ですよ」
「笑いごとではないのです‼ これじゃあ戦えないです‼」
「まぁ、私は瞬殺でも構いませんのよ」
「先生、アンタ保険医だろ? なんとかしてやれよ‼」
「えっ? アタシが? コレを助けるの?」
「他に誰がいるって言うんだ? アンタは‼」
「はいはい…じゃあ…そうね…シンナーでぶっかけて、プールに落とせば、そのうち回復するんじゃない? 興味ないけど」
「よし‼ シンナーだな‼ 行くぞ向井」
「はい、特攻服先輩」
青海がダッシュで場を離れ、向井は青海の後を追った。
そう…自称、未来から来た男『チョコボール向井』から見れば現代人は皆、先輩なのだ。
「云わば最下級生といわけね…難儀なことね未来人って」
「そうですね…今を生きる僕らが先輩ですからね…」
「はははっ、そう自分を貶めるな小太郎会長、あそこでハァハァ言ってる生き物に比べたらミミズでも優越感を感じるであろう」
「シンナーお待ちどう‼ 向井、噴射開始‼」
「いいんですか?」
「先輩の言う事は絶対だ‼ 迷わず行け‼」
「はい‼」
この短期間で謎の上下関係が確立された青海と向井、一斗缶を逆さにして這いつくばる夏男にバシャバシャと掛けている。
「それにしても早かったわね~、この学校に一斗缶のシンナーなんてあったかしら?」
「そうですわね~缶の量も半端ないですわ」
「おう‼ 盗んだバイクでひとっ走りしてきたぜ‼」
「校舎の窓ガラスを割るよりはいいわね」
「いいんですか? 教育者としていいんですか?」
「冬華…目がシパシパしてきたです…」
6缶のシンナーを掛け終え、廊下はシンナーで充満していた。
夏だし…揮発性がね。
「よし‼ 次はプールだな‼ 向井足を持て‼」
「はい先輩」
意識がない夏男を粗く担いで2人は廊下を走り去っていった。
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