第36話 しざ~ず

 秋季が生徒会室に横たわる痩せた牛が夏男だと気づいた同時刻、いつもの面々は体育館でアイスを食べながら件の人物『チョコボール』こと『向井』の登校を待っていた。

「時間にルーズですのね~」

「遅刻よ、遅刻‼」

「遅刻ですか? 向井君は生徒じゃないような…」

「遅刻は何刑です? 冬華は執行するですよ‼」

「まぁ、見上げたエリミネーターですわ」

「ちっこい先輩、尊敬するぜ‼兄貴と呼びてぇ‼」

「呼んだらジャキン‼です‼」

 ハサミをシャキッと鳴らす冬華。

「ハハハ、ココだったか」

 体育館に扇子で顔を仰ぎながら秋季が入ってきてクーラーボックスから棒つきアイスを取り出し小太郎の隣に座った。

「遅かったですね秋季さん」

「うむ…生徒会室にな、牛が倒れて居いてな」

「牛ですか?」

「うむ…しかしよく見ると手足は人のようであり…」

「まぁ…恐ろしい…怪物ですわ」

「あぁ…ミノなんたらに違いねぇぜ‼」

「ミノタウロスね、先生見たことないけど…頭が牛で身体が人なのよ」

「冬華がジョキンッです‼」

「うん…違うんじゃないかな…」

「うむ…違ったのだ…アレはシンナー臭い夏男であった、ハハハハッ…」

「あ~オチが弱いわね…先生暑さが増した気がするわ」

「あらっ、アレでも牛のバケモノでも構いませんわジョキンッしてしまえばいいのですわ」

「じゃあ冬華、今度は首をジョキンッしてみるです、くっつくか試してみるです」

「頼みましたわ」

「ちっこい先輩に頼んでいいのか? やりかねねぇぜ」

 小さな身体、表情に乏しい顔、その背後から闘気がユラリと燻るような冬華。

(殺気が漏れている…)

 小太郎は夏なのにゾクリとする悪寒に一瞬ブルッと震えた。

 ゴリゴリ君レモン味のせいかもしれない。


「ミノ…牛のミノ…退治に早速出発です‼」

「冬華ちゃん、牛のミノは胃袋のことよ、ミノタウロスよ、迷宮の番人よ、序盤の小ボスよ」

「あらっ? 小ボスでしたの? まぁ…牛のミノですものね」

「小ボス如き、ジョキンッ‼です‼」

 冬華がハサミをシャキッと構える。

「すげぇぜ‼ ハサミを装備した勇者とか聞いたことねぇぜ‼」

「うむ…斬新なRPGだな、コレは名作の予感…買わずにはいられないな‼ ハハハッ」

「迷作…ですよね…多分クソゲー・オブ・イヤー候補ですよ…有力なね」

「うむ、対抗馬が見当たらないほどの…うむ? ぶっちぎりだな‼ ハハハッ」

「あの~…そのミノタウロスって…あの人ですよね…」

 ノソッと顔を出したチョコボールこと向井くん。

「うおっ‼」

 気配もなく背後にいた向井くんに驚く小太郎。

 いつの間に居たのやら…キャラに反して存在感の薄い向井くん。


「あの人なら、さっき廊下を這ってましたけど…笑いながら」

 向井くんの目撃情報に嫌な予感しかしない小太郎であった。




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