第19話 こんでぃしょん・ぐり~ん
「死ぬかと思ったね実際」
体中に歯形を残したまま翌朝、元気に登校してきた夏男。
卒業しても母校へ登校するくらいなら卒業に拘らなければいいのにと思うのだが、それこそが学び舎に対する愛であるのかもしれないと思う小太郎である。
「おはようございます…卒業成された二階堂さん」
「……嫌だな~小太郎く~ん、そんな他人行儀な挨拶はやめてくれよ~」
夏男がグイッと小太郎と肩を組み顔を近づける。
「そんな、ちょっとゾンビの群れに放り込まれたくらいで怒る俺じゃないぜ~」
言葉とは裏腹に目が血走っている。
明らかな殺意を感じる小太郎。
「ハハハッ、しかし夏男よ、なんでゾンビになってないんだ?」
秋季が楽しそうに扇子で夏男の頬に残るゾンビの歯形を突く。
「まぁっ、ゾンビって腐っている割に歯は丈夫ですのね~」
「驚きだぜ…こんなにガッツリ噛んでくんだな~アイツ達」
「冬華のタコも噛み千切ってたです」
夏男の腕から逃れようと藻掻く小太郎。
「そういえば今日は立花先生は?」
「まぁ、ご存じありませんの? 先生は足を噛まれたようで、今日は発熱したから休むと連絡がありましたのよ」
「うむ、グループラインでな」
(僕…そのグループライン…知らないな…)
こんな連中でもグループから外されていると知ると、なんだか切なくなってくるから不思議なものである。
「俺も、そのライン知らねぇな~」
血走った眼が春奈の方を向く。
「当然ですわ‼ 教えてませんもの‼」
目を合わせぬまま紅茶を飲む春奈。
(僕も同類なんだ…)
「ハハハッ、気にするな夏男よ誘う気が無いだけの事よハハハッ」
「ソレに傷ついてるんだよ俺はー‼」
(同感…)
「しかしアンタ…何ともねぇのか?」
青海が怪訝そうな顔で夏男を見た。
「ん?」
「いや…ほらっ…死なねぇまでも体調が悪いとかよー」
「……ない‼」
「まぁっ‼ バカの見あげた鈍感力ですわ‼」
「天晴と言わざるを得ないな‼」
「立派なものです‼ 佃煮をあげるです」
冬華がビニール袋からイナゴの佃煮を夏男の手にポトッと1匹落とした。
「…あぁ…ありがとう?」
複雑な表情の夏男、嫌がらせなのかも?と一瞬思ったが、コレは好意だと前向きに受け取ることにした。
「キミの気持ち、受け取ったよ」
引きつり気味に冬華にウインクする夏男。
「どうしたですか? 顔が変です…はっ!?」
何かに気づいたように冬華が右手を広げて夏男を眼前に突き出す。
「モコズキッチン‼」
ドボンッ‼
溢れるオリーブオイルが夏男に、ぶっかけられる。
「何を? ゴボッ」
「仕上げです‼」
左手から適量の塩が振りかけられる。
「除霊完了です‼」
「いや…ゾンビ化しねぇし…祟られてもいないんだが…」
「危ないとこでした‼ 間に合って良かったです‼」
(一日一善)
そんな言葉が小太郎の脳裏を掠めた。
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