第14話 ざ・ふ~る

 そして誰も居なくなった…。

 太鼓の音が響かなくなった神社、その池の畔に独り…。

『二階堂 夏男』職業不定


 体育座りで池を眺めていた。

 脇には、かつて右手を務めていた馬…クタクタにくたびれている。

 そして左手を務めた鹿…ツノが捥げていた。

「もう…もう…ツノが無ければ馬と区別がつかねぇんだよ‼鹿ーーーー‼」

 空しくも鳴り響くCD『チャンカチャンカ♪』だけが静かな神社で鳴っていた。

 どのくらい池を眺めていたのだろう…ふと後ろを振り返ると、数十のゾンビがフラフラと集まっていた。

「………踊っているのか?」

 陽気なリズムに誘われて、生前の『お祭り、ご陽気DNA』が活動を開始したのか、お祭り好きゾンビが「あぅあー」「おぉぉー」と踊っている。

「こいつ等…」

 きっと生前は、地元の祭りを基準にカレンダーが組まれていた連中だと推測される。

 確実にいるのだ、どこの町内会にも、こういう迷惑な連中が…。

 夏男は涙を拳で拭って立ち上がった。

「祭りか…フハハハ…ワッハハハ‼」

 馬鹿は反省を知らない、ゆえに立ち直りが異常に早い。

 深夜の『ウナギ神社』に、その馬鹿のバカ笑いが響いた。


 翌日…

「眠そうな顔だな小太郎会長」

「あなた方と違って、普通に登校してしまったもので」

「まぁ、立派ですわ、さすが会長‼ 紅茶飲みます?」

「立花先生は欠勤…冬華も来てない…青海も来てません」

「不良の鏡ですわ、青海くん」

「そうですね…無責任の鏡が立花先生で…自由の女神が冬華なんでしょうね」

「私も今日は昼から登校だしな、ハハハハ」

「秋季さんは、登校しなくていいんですよ‼」

「他に行く所もないものでな、つい来てしまう、ハハハハ」

「見上げた母校愛ですわ」

「狭い世間で生きてきたものでな、ハハハハ」

「井の中の蛙ですわね」

「褒めてないですよね…」

「小太郎会長、何を言う、井の中の蛙は海は知らぬが、空の青さは知っているものだ」

「空は…井戸の中でも外でも、青い時は青いです…外の蛙も知ってますよ」

「まぁ、そうなると、あのことわざは何が言いたいんでしょう?」

「…考えたことはないですね…言われてみれば…」

「ミツバチは空が紫に見えているらしいぞ」

「あらっ、青が紫ですと…紫は何色に見えるんでしょう?」

「そりゃ紫でしょ…」

「ふと思ったのだが…カエルは青色を認識できるんだろうか?」

「アレだけ色がコロコロ変わるんですから、自分が何色かくらいは解るんじゃないですか」

「あらっ意外にオシャレですわね」

「コーディネートしてるわけでもないんでしょうけどね」

 ガラッとドアが開く

「寝坊したです‼」

「14:00を回ったな…」

「寝坊のレベルを超えてるよ、冬華」

「この時間に遅刻と言えるなんて強者ですわ」

「青海は来ないし、来るだけ凄いのかもですね」

「来たから帰るです」


「うん…そうだね。今日は帰ろう」


 皆が生徒会室を出ようとしたとき…

「ずっと聞いてりゃ、お前等‼ 俺の名前が1回も出てこねぇ‼」

 ロッカーからバンッと飛び出た夏男。

 眼鏡が曇るほど泣いていたという…。

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