第13話 いぇーが~
「獲れないです…」
すでに腰まで水に浸かった冬華が少し前を悠然と泳ぐ黒い影の大きさに、装備した網では入りそうにもないという事実に遅ればせながら気づいた頃、岸の方では太鼓の音が夜空に響いていた。
「龍神や~」
デデンデデンッ♪
「龍神や~」
デデンデデンッ♪
夏男が団扇太鼓を軽快に叩き倒す。
「どこかで聞いたようなリズムですね…」
「偉大なコメディアンを思い出すわね」
「大丈夫ですわ~♪」
デデンデデンッ♪
『アハハハハ』
一同、大笑いである。
「皆さん笑っている場合じゃないですよ」
小太郎が池の方を指さす。
そう特攻隊長 四宝堂 冬華 その人である。
「やれやれだな、獲りにいったんだか…獲られにいったんだか…」
秋季が扇子をパタパタと仰いで口元を覆う。
「獲りにというか…食われにいったという表現が近いですね」
月明かりに照らされた黒々とした影は、うねる様に冬華に近づいてくる。
「そこで私の出番となるのだ‼」
いつの間にか背後に立っていた夏男、小太郎の耳元で団扇太鼓をアホほど叩く。
「うるさいんですよ‼ このバカ‼」
「そんな口が利けるのも今の内だと知れ‼ 知れ者がー‼」
「知れ者? 何ですの?」
「思うに…コイツが太鼓を叩くから、アレが寄ってくるんじゃねぇのか?」
『………』
一同絶句。
スーッ…バキッ‼
立花先生、杖代わりに持っていた木の棒で一撃、夏男が手にしていた団扇太鼓を粉砕した。
「コレで解決‼ 帰るわよ」
冬華を池から引き揚げて、その場に立ち尽くす夏男を残し、帰路についたのである。
「冬華…龍の赤ちゃん獲ったです‼」
どうやって呼んだのか、帰りのタクシーで嬉しそうにバケツを眺める冬華。
バケツの中には、1匹のウナギが泳いでいる。
「あの影は、ウナギの群れだったんですね」
「手を叩くと鯉が寄ってくるようなものかも知れんな」
「ウナギが食べたくなったら、あの池に行けばいいのね、それだけでも収穫よ」
その後方、春奈と青海を乗せたタクシーが走る。
「アイツは、残してきて良かったのか?」
「アイツ? 誰のことですの?」
「……いや…べつに…」
助手席の窓を開けて、バックミラー越しにノロノロ遠ざかるウナギ神社を眺める青海。
(あぁは成りたくねぇもんだな…ヒトとして)
「飛べ‼ 飛べ‼」
タクシーの助手席でウナギに無理を強制する冬華。
「ハハハ、冬華くん、ウナギは飛ばないぞ」
「羽があるです」
「それは…羽じゃなくてヒレよ、四宝堂さん」
「羽ばたいているです」
「ハハハ、さすがに長時間水から離れていると苦しんじゃないか」
ヌルンッ…
手に持っていたウナギがヌルッと滑ってゾンビドライバーの節穴の目から体内へ入ってしまった。
「あっ‼ 食べるなですー‼」
ゾンビドライバーの目に手を突っ込む冬華。
「こんな状況でも運転できるんだ…ゾンビって凄いな」
改めてゾンビの底知れぬスペックに感心した小太郎であった。
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