第12話 どらま~

 ドスンッ‼

 背筋を伸ばして小太郎が秋季を地面に落とした。

「なにをする小太郎会計」

「なるほど…アレか…確かにデカい」

 急に落とされたことに遺憾の意を表明している秋季を無視して湖面に浮かぶ影を目で追う。

 水面に映る月にゆったりとした長い影が、のらりくらりと泳いでいる。

 ソレを追うようにバシャバシャと池に入る冬華。

(食われるんじゃないだろうか?)

 キャバ嬢の冷戦もバカの乱打戦も、忘れて魅入ってしまうような不思議な光景であった。

「ところで、アレは龍なのであろうか?」

 小太郎の隣で扇子を広げてスクッと立ち上がった秋季が小太郎に尋ねた。

「アンタ、立てるじゃないですか」

「おかげさまでな」

「1回だけでいいんで…本気で殴ってもいいですか?」

「私がゾンビになったら許そう」

「なるべく早くお願いします、そう長くは僕の右手が正気を保っていられそうにないもので」


 小太郎の右手より、夏男の馬の右手は、すでに限界を迎えていた。

「馬クタクタね」

 木の棒で身体を支えながら立ち上がった桔梗嬢と春奈嬢

「鹿と入れ替えるべきですわ」

「それ以前に…夏男くんがクタクタね」

「池に投げ込んで龍に食べられたらよろしいのに」

「聞こえたぞ‼」

 青海と夏男の勝負は割と早い段階で勝敗は決まっていた。

 小学生の頃から特攻服を纏うのであろうなと思わせていた青海である、『天然危険物』それが青海なのである。

 青海に踏みつけられながら、夏男のヘルズイヤー地獄耳は自身の悪口を聞き逃さなかった。

「あら?聞こえまして?」

「龍に食われろだと? 愚かな娘だ…龍を呼び出し、操れる方法を知る俺が食われることなどないのだー‼ フハハハハ」

 バカ笑いする夏男。

「あの人は、あの状況で、なんでバカ笑いできるんでしょうね?」

「うむ、あの折れないメンタルこそ夏男の恐ろしいところなのだろうな」

(コイツは…侮れねぇ…)

 自らに踏みつけられているのに、そんなことをミジンコほども感じさせないセリフとバカ笑い、足元で這いつくばっている夏男の顔にゾクッと背筋が寒くなる青海。

「時に小太郎会長…気になることを言っていたな?」

「そうですね、龍を操るとかなんとか?」

「世迷言じゃありませんの?」

「世迷言じゃなかった場合…四方堂さんは大丈夫なのかしら?」

「絶妙な一口サイズかもしれませんね」

「チッコイからな、ハハハハハッ」

「笑ってる場合じゃないかもですね」


「その通り‼ 貴様らー‼ 今こそドラゴンテイマーの恐ろしさに震え上がれ‼」


「いつの間に…」

 知らぬ間に青海の足元から抜け出した夏男。

(ウナギみてぇな奴だな…)


 境内の中に戻った夏男の右手(馬)の代わりに三連の団扇太鼓を構え降臨。

「今、我は召喚士へジョブチェンジ‼」

 ご丁寧に神主の衣装に着替えている。


(ドラゴンテイマーは?)

 色々、定まっていない夏男に戸惑う小太郎であった。

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