第11話 いん・うぉーた~

 神社の境内

 チャンカ♪チャンカ♪チャンカ♪チャンカ♪

 境内の中から軽快なリズムが流れてくる。

「晴らさでべきかー‼」

 ギギッと木の扉が開いて、姿を現したのは馬と鹿。

「馬です‼ 鹿もいるです‼」

「……いつ追い抜かれたんだコラァ‼」

「そんなことより…青海くん…肩を貸しなさい」

「そうですわ…足がグキッですわ」

 ハイヒールで早歩きしていた立花先生と春奈、張り合った結果、ほぼ同時に足をグキッとして地に伏しているのである。

「メンドくせぇ」

「美女に肩を貸せと言われて面倒くさいとは何事‼」

「そうですわ…足がグキッですのよ」

「あそこの馬と鹿に乗ればいいじゃねぇか」

 青海が境内を指さす。

 扉の端からヒョコッと顔を出す夏男。

 あからさまに嫌な顔をする嬢2人。

「自分で立つわ」

「プライドの問題ですわ」

「晴らさでべきかー‼」

「キューキュー、キューキューうるせぇぞコラッ‼」

「いや全くその通り」

 遅ればせながら秋季が登ってきた。

「ゼハァー…ゼハァー…降りてください…」

 途中で足をグキッた秋季を背負って登ってきた小太郎、疲労困憊である。

「まぁ、神社の階段は危険ですわね~」

「冬華、大丈夫でした」

「そんなわけで小太郎会長、夜も遅いし帰りたいのだが?」

「何をしに登ってきたんです?」

「…はて?…何をしに来たのやら?」

「龍を呼ぶためでしょうが‼」

 いよいよ境内から飛び出してきた馬と鹿…と夏男。

「そうだったなコラァ、サッサと呼び出せやコラァ‼」

「低能なバカよ…簡単に呼び出せると思うなよ」

 夏男の右手(馬)が青海を指す。

「馬鹿男にバカ呼ばわりされる覚えはねぇぞコラッ‼」

「馬鹿男がバカとは限らん‼」

「オメェはバカだろうが‼」

「いよいよをもって…晴らさでべきかー‼」

 夏男が境内から青海に飛び掛かる。

 クテンッ…

 夏男の右手(馬・ゴム製)が青海の頬をかすめた。

「上等だコラァ‼」

 BGMは『チャンカ♪チャンカ♪チャンカ♪チャンカ♪』のまま戦闘は開始されたのである。

 静かな女の闘い、そして五月蠅い男の殴り合い。

 取り残された3名

「時に小太郎会長」

「なんでしょう?」

「龍とは、あの池に住まうのであろうか?」

 秋季が扇子で目の前に広がる無駄に大きな池を指す。

「そうなんじゃないですか…どうでもいいけど」

「ふむ…ではアレが龍なのであろうか?」

「アレと言われましても、とりあえず降りてはいただけないんでしょうか?下を向いているもので…見えないんですが」

「うむ…冬華くんが池に入っていったのだが、あの網では…無理なんじゃないだろうか?」

「はい?」

「いや湖面に写る影から推測するに…意外とデカいぞアレ」

「なんかいるんですか?」

「うむ…いるな、長くてデカいのが、見てみればよかろう」

「……だから降りてもらえませんか? ぶん投げますよ」


 背中から降りようとしない秋季にイラつく小太郎であった。

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