第5話 すりっぷ・み~
「フハハハッ…藻掻け、苦しめ、泣き叫べー‼」
特攻服が指さしたゾンビの七転八倒を見ながら高笑っている。
「ほほぉ、そういう能力か…歪んでいるな」
秋季がスッと剣を特攻服に向ける。
「んっ? 俺とやるつもりか?」
「見切った‼」
秋季がふんぞり返る。
「何を見切ったです?」
「なんとなく雰囲を大事にしてもたのだが…特に何も見切ってないし、なんなら彼の能力も、よく理解できてない」
秋季がポーズを決めたまま、次の展開を見定め損なっている。
「そういうことです‼」
とりあえずオリーブでバチャバチャの指を特攻服に向けビショッと秋季のポーズを真似てみる冬華。
「その大層な剣で直接勝負すっかコラァ‼」
「ほぉう私に勝負を挑むとは…無謀なニューフェイスだな」
などという会話まで聞こえてこない保健室で寝ている夏男。
保険委員ゾンビに渡されたシップが上手く貼れずに悪戦苦闘していた。
「またグチャグチャになった‼」
シップを失敗せずに貼れる能力なら良かったのに…残念なことである。
同時刻
生徒会室では梅こぶ茶を飲み終えた小太郎が3階の窓からグラウンドの茶番を冷めた目で見ていた。
(神様から見たら、人間って、あぁいう感じなんだろうか?)
心はすでにニルヴァーナ、無我の境地である。
「新入生の名前を聞ければ、それでいいのに…」
ボソッと呟く小太郎。
「小太郎君、行きませんの?」
湯飲みを片付けながら春奈が小太郎に声を掛ける。
「行った方がいいんでしょうね…だけど不思議と、そんな気になれないんです」
振り返った小太郎の顔に『関わりたくない』とハッキリと書かれていた。
重い足取りでグラウンドまでやってきた小太郎と春奈が目にした光景。
オリーブで足を滑らして転んで藻掻いているゾンビ生徒多数、その中心で剣を振り回す秋季、それを捌く特攻服、ウロチョロと走り回る冬華。
とりあえず特攻服に指さされまいと攻防は白熱している。
「先生?」
小太郎が少し離れたところでボーッと眺めていた立花先生に事情説明を求めた。
「…御覧の通りよ‼」
「まぁ先生、御覧の通りというか…このザマの方が正しいような気がしますわ」
「じゃあ、この有様よ‼」
「うらぁー‼」
「むむっ‼」
ステーンッ‼
冬華のオリーブで足を滑らせ両者ノックアウトで決着がついた夕刻。
なんか面倒くさいので、翌日に持ち越すということで、本日は解散となったのである。
「明日、諸々、ケリつけっからな‼ 逃げんなよボケッ‼」
特攻服は後頭部強打でフラフラとバイクを押して帰っていった。
誰も居なくなった校舎、ゾンビも眠る丑三つ時、独り保健室のベッドで眠った夏男。
枕は涙で濡れていたという…。
(どうせ俺なんて…誰からも…)
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