彼女は語り。

 ――私が人よりも優れていることを自覚したのはすぐだった。

 自分は普通じゃないのだとすぐに理解した。

 きっと君は知らないだろうけれど、私達は小さなイジメに遭っていたんだよ。優秀で、賢くて、大人びていて、そんな私達は浮いていた。協調性がないだとか、空気を読めないだとか、そんな風にこじつけて彼らは私達を自分よりも下に見ようとした。

 まぁそんな無駄な抵抗もたった半年くらいで終わったけれどね。私は『天才』で、愛果は『秀才』で、どれだけ欠点を探そうとしても『非才』な彼らよりも劣っている点なんて私達にはなかった。

 それに君という理解者がいた。私達の才能をそういうものだと理解し、受け入れ、側にいてくれた。君がいることで彼らはそれ以上手を出すことができなくなった。

 さて、大輔。君は、いや君を含めた多くの人が、それに私自身も私を『天才』と呼んでいるけれど、その定義って何だい?

 私を『天才』と呼ぶ、その根拠は?

 うん。そうか。

 なるほど、まぁ、そんな感じだろうね。きっと他にも、愛果に聞いたり、他の人々に聞いたりしても同じような答えが出てくるだろう。ここで重要なのは同じ答えではなくて同じような答え、だ。

 そして私はその『同じような答え』の全てを内包、包括し、それら全てを実現できてしまう。

 もっと簡単に言えば、私は何でもできるんだよ。全知全能には劣るかもしれないが、万知万能くらいにはできてしまう。

 重力を制御したり、永遠に使える電気回路を作ったり、或いは人の手で新たなる知性を作ったり。そして過去や未来を手繰る力を生み出したり。その程度であれば簡単に、ね。

 勿論、他の分野でも私は『天才』だ。正確な計測はしていないけれど、私の百メートル走の記録は約七秒だ。

 くくっ、そんな驚いた顔をしないでくれ。たかだが世界記録よりも二秒早く走れるだけじゃないか。

 さて。じゃあ、他には? 例えばもっと違う次元のところでは? ああそうさ、当然ながら私は『天才』なんだ。

 大輔は幽霊などを見たことがあるかい? いやまぁ君視点で言えば今の私もある意味では幽霊かもしれないけれど、それは例外として。

 うん。そうか。

 いやはや『愚か者』の君くらいなら見れそうだと思ったけれど、そういう訳でもないんだね。うんやっぱり、霊視の能力は神の気まぐれに与えられるものらしい。

 まぁ私に対して神は気まぐれに全てを与えてしまった訳だけれども。

 ああ、そうだよ。私には幽霊が見える。怪異が見れる。精霊も天使も悪魔も、人間界に擬態している者共がしっかりと見れる。ああ、安心したまえ、直接奴らのところに殴り込みに行って、不干渉条約をそれぞれで結んでいるからね、大丈夫だよ。私が奴らに余計なことをしない限り、奴らは私を、私達を見て見ぬ振りしてくれる。

 うん、いい協力者がいてくれて助かったよ。そういう人の縁にさえ私はきっと才能があるんだろうね。幸運の才能とでも言うべきかな。

 うん?

 へぇ、重力制御装置が、科学とは違う理屈で動いているんじゃあないかと推測している人物がいた?

 ああ、きっと奴のことだろうね。流石だ、そこにもう気付いているのか。

 ああ、そうだよ。あれは魔術の理屈を少し使っている。魔術と科学は対極にいるけれど、地球が球体であるように技術というのもまた球体だ。人々が認識する部分が日に当たる部分で、だから魔術を見ている人間には魔術に見えるし、科学を見ている人間には科学に見える。だけど、まぁ同じ球体だから簡単に掛け合わせることができる。

 そちらの時代の人々にはきっと理解ができないよ。魔術や魔法という神秘は秘匿されているし、多くの人々は魔術を理解できないようになっている。それが解呪されるまで、あの技術達は解明されないのさ。

 じゃあ、そろそろ前置きはこの辺りにして、そろそろ本題に入ろうか。

 どうして、私が私自身を消そうとしているのか。さっきも言った通り、私はバグなんだよ。世界が、本来は多くの人々に振り分けるはずだった才能全てをこの身全てに集約させてしまったのさ。

 だから私という存在を消して、その才能を再分配しなければならない。

 そうしなければ、世界が滅んでしまうから、ね。

 大袈裟に思うかい? だけどね、私は知っている。私のせいで未来の世界がどうしようもない程に終末へと向かっていることを。

 私が一番最初にタイムトラベルをしたのは、六年後だ。そうつまり君達にとっての現在だ。さて、その未来はどうなっていたと思う?

 ――何も、なかった。

 日本という国は無くなっていた。いや、大体の国が滅び、地図は大きく変化していたよ。国家と言われてぱっと思いつく国を思い浮かべてみるといい。その国は大体、消えているか名前が変わっている。

 どうしてだと思う?

 簡単だ。

 重力兵器、超電導兵器。そして、秘匿されなくなってしまった神秘を用いて、人々は再び戦争をしたのさ。

 戦争の理由はとても単純だ。魔術、魔法を行使する為に必要なマナを争ってだ。

 そうだ。人々は資源の奪い合いという同じ過ちを繰り返した。

 そして、今回は取り返しのつかない程の大きな力を使った。本来ならばこの時代の技術力ではない力を、世界は行使した。それらの力は各国にどうしようもないくらいの打撃を与えた。但し、それは相手国にではなく自国に、だけれどね。

 持て余す程の力を手にした時、人は大抵その力を暴発させる。重力制御も、超電導も今の人々は作り方を知っていても理屈の理解ができていない。科学と魔術を当時もまた別の軸で考えていた。そして、魔術や魔法について人々はあまりにも無知だった。デーモン・コアをそのまま爆弾として使おうとして、自爆するような、愚劣極まりない出来事が歴史に刻まれたのさ。

 ん? デーモン・コアが分からないか。じゃあ、そうだね、核爆発を人力で行おうとして、失敗したようなものだ。

 かくして、世界の主要国は全て崩壊した。結果、人々は生活を維持する為のライフラインを失い、技術を失い、残ったのはどうしようもない放射線や負のマナに満ちた死の大地だけ。しかもそれらはゆっくりと世界を侵食していき、世界を終わりへと導こうとしていた。

 そんな世界が、たった六年後に訪れるんだよ。世界の九割が死に絶えた世界が、私が存在していることが理由でね。

 私のせいじゃない、か。くくっ、君は優しいね。だけどね、違うんだよ。私のせいなんだよ。

 だって、私が消えてしまった君の世界では戦争は起こらなかっただろう? それが証明なんだ。戦争が始まらず、君がこの世界にやってくる。こうして私と君が出会えたことが、私のせいで世界が滅んでいて、私が消えることでそれが撤回できるという絶対的な証明なんだよ。

 私が生きていれば、次に発明するのは超高性能なコンピューターだ。

 どうして、だと思う? 単純。私が今のコンピューターに不満があるからだ。そしてその改善策を私は知っているからだ。少しだけ基盤の仕組みを弄る。それだけでこの世界のコンピューターは三つ程、次元を超える。そうだね、とりあえず私が生み出した人工知能が世界の全てのネットワークを牛耳る、なんて事態は回避できるだろう。

 だけれど、そうなると次に起こるのは超高度な情報戦だ。それは即ち、戦争のはじまりはじまり、だ。

 じゃあ、作らなければいい、なんて思うだろう? だけれど、それはできない。私の中の本能が、作りたいと叫んでいる。目の前の基盤にはんだこてで少し弄るだけなんだ。それだけ改善ができてしまうんだ。

 目の前の問題を解決せざるを得ない。世界にあふれる全てを改善したくて、改良したくて、新たなものを作りたくで、仕方がないんだ。

 私が生きている限り、私は未来を滅ぼす。滅ぼしてしまう。

 だから私は私を殺す。私という存在を無かったことにする。本来あるべき姿に世界を戻す。たった、それだけのことだ。

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