第509話 あの時、天界では?

聖域でサーヤたちが、お口ぱんぱん、ハムスターほっぺで、エビを食べている頃、天界では⋯


『あらあらまあまあ、うふ、うふふふふふ』

『ぐふ、ぐふふふふふ』


二人の怪しい笑い声が⋯その正体は


『ぐふふふふ⋯凛、料理と食材が続々と届くな。もちろん、食わせてくれるんだろ?』

『あらあらまあまあ、もちろんよ料理長。あなたには、この食材たちを更においしい料理に、昇華させてもらわないといけないのだもの。期待してるわよ』

『おうよ!任せな!』

『それじゃ、まずは賄賂⋯コホン。味見しないとね』

『悪いな。ぐふ、ぐふふふふ』

『あらあらまあまあ、おほほほほほ』


天界のおばあちゃんと、料理長である。


あまりの不気味さに


『しゅ、しゅしゅ主神様っ、バート様っ、どうかお助け下さいっ』

『あの黒い笑いと、ゆらゆら揺れる不気味なオーラで調理場にいられませんっ』

『と、とにかく恐ろしくて⋯』

『『『『『どうかお助けを~っ』』』』』


調理場の料理人や給仕係たちが、イル様とバートさんに泣きついていた。


〖う、う~ん、そもそも、あのお供えって神にくれるものだよね?神ってぼくたちのはずなんだよね?ね?バート〗

『そうですね。本来であればそのはずなのですが⋯やはり、駄⋯主神様に威厳がないのが問題なのでは?』

〖ええ?バートひどいっ!それにまた駄神って言ったでしょ!?いい直せてないからね!?〗

『では、初めから言われないようになさって下さい。しかし、困りましたね』

〖そうだよね。ここで働いてくれてるたくさんの子たちの為にも、調理場に入れないのは困っちゃうよね。怖いけど様子見に行こうか。ボディガードに武神も連れてく?〗

『やめておきましょう。脳筋を連れて行っても、混乱を深めるだけです』バッサリ

〖そ、そうだね?じゃあ、二人で行こう⋯か?〗

イル様とバートさんが、重い気持ちで、料理人たちと調理場へ向かおうとした、その時



バタバタバタバタっ

『⋯⋯まっ』

『⋯ち、くださっ』



〖ねえ、バート?〗

『⋯なんでしょうか?主神様』



バタバタバタバタっ

『⋯⋯さまっ』

『⋯お待⋯くださっ』



〖混乱、手遅れな気、しない?〗

『⋯そうでございますね』



バタバタバタッ バンッ!


『主神様ーっバート殿っ!どうにかしてくだされ~っ!また、また武神共が~っっ!うわぁぁぁんっ』

『天界樹様っお気を確かにっ』ゼェゼェッ

『せめて入室のお伺いをっ』ハァハァッ



〖···やっぱり〗

『···手遅れでしたね』


『うぅぅ~っ』

『『え?』』


〖···こほん。大丈夫だよ。何かあったんでしょ?〗

『⋯天界樹様、如何されましたか?』

〖それに、今回は『武神共』っていったよね?〗

『『共』とは?』


泣きながら飛び込んできたのは、天界樹ちゃんと、天庭の庭師たち。また天界樹ちゃんの大事な枝を武神が折ったのかな?


『うううっ、聞いて下され、また武神が妾の大事な天界樹や、庭の木を~っ、う、うわぁぁぁんっ』

『『天界樹様っ』』

『『おいたわしいっ』』ううっ


う~ん、余程のことがあったのか、泣いてしまって話が出来ないね。


〖うんうん。武神がまた何かやらかしたんだね。庭師長、代わりに説明してくれるかな?〗


『おいおいおいおいっ』

うん。天界樹ちゃんには無理だね。


『は、はい。実は先程、天界樹様が天庭で、精霊様たちと野点を楽しまれておりましたところ、武神様と工芸神様がおいでになりまして、あろうことか⋯』


ん?武神だけじゃなく工芸神まで?


『⋯あろうことか、どうしたのですか?』


言葉を詰まらせた庭師長に、バートが続きを促すと、内容はひどいものだった。


『は、はい。あろうことか、天界樹様の皮を剥いでしまいまして』


〖『は?』〗

皮を剥いだ?


『悲鳴をあげて止められる天界樹様に構わず、他にも香りの良い木の枝を折ったり、皮を剥いだりして立ち去ってしまわれたのです』

『今は、庭師総出で木々の治癒を施しているところでございます』

『うわぁぁぁんっ』

ああ、今度は床に突っ伏して泣き出しちゃった。一緒に野点をしてた精霊たちかな?天界樹ちゃんの周りをおろおろしながら、飛んでるね。しかし、


〖何してんのさ、あの二人は〗

そりゃ、泣くよね

『何たる暴挙。まったくもって理解に苦しみますね』

だよね。あ~あ、バートの眉間のシワがあんなに寄っちゃったよ。完全に怒らせちゃったね。

今はとにかく、天界樹ちゃんをどうにかしないと···


〖天界樹ちゃん、大変な目にあったね。大丈夫、僕も治療に手を貸すよ。調理場に行く途中で寄っていこう。いいよね?バート〗

『もちろんでございます。武神様と工芸神様にもしっかり反省して頂かないといけませんね。ふふふ⋯』

ほら、めちゃくちゃ怒ってる。


『ほ、本当に?ああ、妾と大切な子らの為にありがとうごじゃります』

『『ありがとうございます』』

『『感謝いたします』』

天界樹ちゃんと庭師たちが涙を流してお礼を言ってきた。

うん。かわいそうだし、武神たちを捕まえなきゃだし、行こうか。


〖それじゃ、バート、天界樹ちゃんたちも行こう。あ、天界樹ちゃんを支えてあげてくれるかな?〗

『もちろんでございます』


『ささ、天界樹様、お手を失礼致します。参りましょう』

『あ、あいわかった。よろしく頼むぞよ』ぐすっ

うんうん。女性には優しくしなきゃね。なのにあの二人は、まったく。


途中、天庭によると、みんなが必死に治癒を施していた。


〖ああ、たしかにひどいね。香りも良くて、綺麗な花が咲く木ばかり狙われたのかな?〗


『そうなのじゃ。何が目的なのか、中にはもうじき蕾を持つものもあったでおじゃるに。主神様よりお預かりしている大切な庭を⋯うううっ』

『『天界樹様っ』』

『『天界樹様のせいではございませぬっ』』

ああ、また泣いちゃった。


〖気にしないで。神二人相手じゃ何も出来ないでしょ〗

『そうですよ。あなた方は悪くありませんよ。···主神様』

〖分かってるよ〗

手をかざして神気を流すと、木々は元に戻った。


『ああ、ありがとうございますでおじゃ』

『『ありがとうございます』』

『『お流石でございます』』

必死に働いてた庭師たちも頭を下げてくれた。


〖気にしないで。こちらこそ、阿呆な神が迷惑かけてごめんね〗

『まったくです。さあ、行きますよ』

〖ええ!?バート、先に行くなんてひどい!〗

『はやく行かないと逃げられますよ』

まったく、僕、一応主神だからね?君の上司だからね?


天庭を後にして、厨房に近づくと


ドッカーンっ


〖え?なになに?〗

『おや、あれは?』


厨房のドアを突き破って何かが飛んできた?


〖うおおっ?〗

〖ま、待ってください、凛っ!話せばわかります!〗


武神に工芸神?


ゆら~

『あらあらまあまあ、私はたしかに、工芸神様に「工房に香りのいい木片が余ってたら少し分けていただけないかしら?」と、お願いしましたけど、天界樹様の大切なお庭から強奪してこいとはお願いしてないですよね?』


『してなかったなぁ。しかも凛は『無かったら別に大丈夫だから』とも言ってたなぁ』


あっ、料理長もいた。


〖だ、だからな?美味い飯が食えるなら、より香りが強いやつがいいかなと〗

〖ですから、庭に行けばたくさんあると思っ⋯〗


ドカーンっ


『り、凛、お前模擬戦の時より強えじゃないかっ』

『料理長も落ち着いてっ!その筋肉は凶器なのですからっ』


武神と工芸神が阿呆な言い訳をしていると、凛さんの回し蹴りと、料理長のパンチが飛んできた。


『あらあらまあまあ、そんな言い訳が通じるとでも?』ごごごご

『料理はみんなが幸せになるもんだ。それを、天界樹様になんて酷いことを』ずおおお


怒り心頭の凛さんと料理長。


『天界樹様と庭師さんたちに土下座して謝って来なさい!』

『出来ないなら飯抜きだ!』


『『そ、そんなっ』』


どうやら、凛さんたちが成敗してくれたようだけど、話は聞かないとね。


〖凛さん、料理長、何があったか聞かせてくれるかな?〗


『『え?あっ』』

声をかけた瞬間、二人は


シュバッ!ザザザーっ


〖『『『ヒイッ』』』〗

『おやおや』


『ごめんなさいっ!』

『すまんっ!』

二人が一瞬で目の前に来て土下座した!?


『天界樹様、庭師さんたち、ごめんなさいっ!私が食材に浮かれて、軽い気持ちで工芸神様に聞いてしまったがばっかりに!』

『俺も新しい料理の可能性に浮かれてお二人の性格を忘れてたんだ!すまんっ!』


『『『え?え?』』』

あまりの勢いに、天界樹ちゃんたちがどうしていいか分からなくなってるね。


〖え~っとね?とりあえず、順を追って話してもらえるかな?〗


『『はい⋯』』


うん。ようやく話ができるかな?その前に⋯


そろ~

『おや、武神様、工芸神様、どこへ行かれるおつもりですか?』

ひゅおお~っ


〖〖バ、バート⋯いや、その、あのな〗〗ダラダラダラダラ


『御二方にもお聞きしたいことがございますので、お付き合いいただきます。よろしいですね?』

ヒュオオ~


〖〖いや、ちょっと〗〗ダラダラダラダラ


『よ・ろ・し・い・で・す・ね?』

ビュオオオッ


〖〖は、はい〗〗ダラダラぶるぶる


あ~あ、初めから素直にすればいいのに。

凛さんたちに話を聞くと、海鮮と一緒にたくさんのお肉や、ソーセージ?なるものなんかが送られてきたらしく、どうせなら燻製を作ろうということにしたらしい。

そこに料理の匂いに惹き付けられてきた二人に、香りのいい木片がないか聞いたところ、任せろ!と言った二人がとった行動があの暴挙。

意気揚々と戻ってきた二人の話を聞き、責任を感じた凛さんと料理長が、天界樹ちゃんたちに謝ったということみたいだね。


『あ、あの、妾の木は主神様が治してくださったのじゃ。それに話を聞く限り、凛や料理長のせいでは無いと思うのじゃ』

『『そうです。頭をあげてくださいっ』』


『『すみませんでしたっ』』


凛さんと料理長は頭を下げ続けてるけど、天界樹ちゃんたちも、凛さん達のせいじゃないと言ってるし···


〖ん~、凛さん、料理長、悪いと思うならさ、天界樹ちゃんたちにさ、その作ろうとしてた美味しいのをご馳走してあげたらどうかな?そうすれば、剥がされた皮や折られた枝も無駄にならないし。あと、できれば僕たちにもご馳走して貰えたら嬉しいな〗


『そうですね。庭師たち一生懸命治してましたしね。あっ、もちろんこの御二方の分は必要ありませんよ』


〖〖そんなっ〗〗


『何か?』

ビュオオオッ


〖〖いいえ⋯〗〗


バカだな~バートにかなうはずないのに


『それは、そんなことでいいなら』

『喜んで作るが⋯』

ほんとにそれでいいの?って顔だね。


『それがいいのじゃ!妾も皆も喜ぶのじゃ!』

『そうですね、できれば精霊様たちにも』

『よろしくお願い致します』

ほらね、大丈夫でしょ?


『分かりました!』

『全力で美味いもん作るぜ!』

『料理長っ』

『凜っ』

『『やるぞーっ』』


うんうん。良かった良かった。これで一件落着だね。


〖おーい、凛、頼まれてた、たこ焼き器ってやつ、作ってきたぞ。これでいいのか?って、なんじゃこりゃ?〗


あっ、鍛治神もしっかり巻き込まれてたんだね。


その後、広い庭でみんなで楽しくバーベキューを楽しんだのでした。


〖〖うううっ〗〗

『しかたねぇな、罰なんだからこれだけな』

大男二人がめそめそと鬱陶しいからな。お情けでひと皿ずつ渡すと


〖〖料理長~ありがとう~っ〗〗


『うおっ抱きつくなっ!鬱陶しい!離しやがれ!』

結局鬱陶しいのかよっ!



地上では、天界がそんなことになってることなど知る由もなく⋯


『あらあらまあまあ、次は何を送れるかしらね?』

『さあ?』


次は何が起こるのか⋯


☆。.:*・゜☆。.:*・゜


お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m

久々の天界の、凛さんたちでした。

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