第365話 その頃おいちゃんは?

聖域で、とんでもないことが起こっているとは、露知らず。いや、何かやらかしてるだろうなぁ。とは、思っていたが、聖域全体を巻き込んでの大騒ぎが起きているとは露知らず。

ドワーフの里のおいちゃんと親方たちは⋯


『おい、ゲン!こんなもんでいいか?』

親方が高々と掲げるそれは!


『お~!流石だな!俺の説明だけでこんなもんが出来るなんてなぁ。ありがとよ!これなら、うまい飯が炊けるぞ!やっぱり一流の職人が作る羽釜は違うな!竈は作れても羽釜はばかりは、工房でもなきゃどうしようもなくてな~。飯炊く量も半端じゃねぇしな!』

おいちゃんが受け取って、眺めて目を輝かせているのは、美味しいご飯を炊くのに欠かせない、羽釜!あ、抱きしめた⋯


大興奮ですね。おいちゃんのセリフがいつもより長いよ。

それにね、おいちゃん?めーめーさんたちのハサミ作ってたんじゃないの?

『ん?羊達のハサミなら作り終わったぞ?』

そうですか⋯


『ゲン、誰と話してんだ?』

『ん?誰とも?』

なんの事だ?と、首を傾げるおいちゃん。


『まあ、いいか。だが、たしかにあの人数だしなぁ』

『しかもフェンリルどころか、ドラゴンまでいるしなぁ』

親方たちも聖域のメンバーを思い出しながら考える。

『釜がそれひとつじゃ、とてもだが足りねぇよな~』

『俺達も加わるしな?既に他にも新しいやつらがいたりしてな?』

『『ガハハハハ』』

大笑いしている親方兄弟。

おいおい。いくらなんでも

『まさか、そんなことは⋯』

ないだろうと、言えたらいいんだが⋯


『『ありえるよな?』』

親方兄弟がニヤニヤしてるのが腹立つが

『ありえるな』

『『だよな~』』ニヤニヤ

やっぱり、なんか面白くないぞ。


『でもよ、実際問題、すげぇ勢いでおかわりしてるもんなぁ。神様達なんか、あの細い体のどこに入ってるんだと思うからな。教育に悪いからサーヤたちには極力見えないようにしてるくらいだ』

あれは、一種のトラウマになりそうだ。山桜桃と春陽が一生懸命見せないようにしてくれてるから、今も大丈夫だとは思うがな。


『そんなにか。なら、もっと必要だな』

『じゃあ、鍋なんかも足りないんじゃないか?』

親方兄弟が、その光景を思い浮かべたのか、若干引いてるが、実際見たら想像以上だと思うぞ?特にエル様が⋯まあ、とにかく


『そうだよな。大鍋とか、寸胴とか必要だよなぁ。本当は土鍋とかも欲しいんだよなぁ』

鍋物食べたいよなぁ。サーヤは肉団子鍋とか、鍋焼きうどんとか好きだしなぁ。


「ちょりだんご~♪おでん~♪なべやき~♪うきゃ~♪」くるくる~


うん。歌って踊りそうだな。



『『土鍋?』』

キラーん


ん?なんか今ヤバイ気配が?


『土鍋ってのは、土でできてるのか?』

『鉄じゃねぇんだよな?』

親方兄弟が、なんでもない事のように話しかけてきた。至って普通だ。さっきの気配は勘違いか?


『そうだよ。粘土って言う粘り気のある土を使って、作るんだけどな。これも焼き窯がないと、本格的なもんが出来ないんだよな。土鍋で作る料理はサーヤの好物ばっかりだし、欲しいんだよな。一人用も欲しいが、大勢でひとつの鍋を囲むのも良いんだよな』

何より俺も鍋好きだからな。やっぱりデカい焼き窯が欲しいな。登り窯⋯あっ無理だ。アルコン様の昔のヤラカシで山どころか坂すらない⋯でも、土魔法でいけるか?


『へ~そうなのか。粘土に窯か』

『粘土⋯それは他にも何か作れるのか?』

キラリ。親方たちの目は怪しい輝きを放っているが、ゲンを警戒させないように、なるべく普通に会話しているドワーフ兄弟。

鈍いゲンはまだ気づかない⋯


『聖域でもな、粘土を見つけたから、この間、湯のみと急須を簡単な窯を作って焼いてみたんだけどな。ろくろもないし、釉薬もないから、納得いかなくてな~』


『ゆうやく?』

『そりゃどんなもんだ?』

ん?聞いたことないのか?


『釉薬、上薬とも言ってな?これを塗って焼くと、陶器の表面に溶けたガラス質が、独特な模様を作るんだ。材料によってやはり色や質感なんかが変わるんだ』


『『へえ~』』ニヤリ


そういや、あの湯のみと急須はどうしたっけな?確か⋯?


『あっ?』


あれは⋯ギギギッと錆びた扉のように首を回すと、ぎょっ


ニターァ

『そうかそうか、色々できるんだな』

『そういやな?この土地にも、その粘土?とかいうのがあるんだよ』

『粘土ってのは、とれる土地で特長が違うんだってな?』

『後で案内するぞ?』

『あとは窯がありゃいいんだよな?』

『あと、ろくろ、だったか?』

『まかせろ』

『俺たちが作ってやるよ』

『『くくくくくく』』

みなさん、悪人がいます!


『あ、ああ』

し、しまった


おいちゃん、うかつすぎです。まんまと親方たちの罠にかかりました。親方たち、楽しそう⋯


『あとな?ニャーニャに渡した水筒?時間が経っても麦茶ってやつが冷たいままのやつだよ』

『兄貴、そんなものもあったのか?』

『ああ、分解しようとしてニャーニャに阻止されたんだよ』

『そうか、それじゃそいつも』

『教えてもらうしか』

『『ねぇよな~』』

ニタァ~ァ


『うっ』

し、しまった


『どうした?』

『逃がさねぇぞ』

『『くくくくくく』』


う、うおお?サーヤの心配してる場合じゃなかった!?


おいちゃん、仲間だね。


うお!?サーヤの声の幻聴が!?

んなわけないな。気のせい気のせいっ


ひどいな~


『わ、分かったよ。で、でもそれは後でな?ほら、今は早く聖域に帰らないといけないだろ?早くハサミ持って帰って、羊を楽にしてやらないとっ』

これ以上墓穴を掘る訳にはいかねぇ


『む、そうだな。そりゃそうだ』

『おう、早く帰ってやらないとな』

『野郎ども~!気合い入れていくぞー!』

『『『『『おー!!』』』』』

野太い声が響き渡る。


『ハ、ハハハハハ』

親方が集めた移住希望者たちだ。自分の工房で作業してくれてる人もいる。

親方が声をかけた結果、ほんとに村人全員手を挙げやがった。だが、全部って訳には行かないからな、親方と同世代のいわゆる長老たちとその家族が来ることになった。


『やっぱり、村半分来ちまったな~ガハハハハ』

『あたりめぇだろ!この年でこんな面白いことねぇぞ!ワハハハ』


『いやいや、笑いこっちゃないだろう』


『仕方ねえよ!諦めな!ガハハハハハハ』

『そうだぞ!腹くくれよ!ワハハハハハ!』


『うぐぐぐ』

あ~早く帰りてぇ⋯

サーヤのちょっと間の抜けた寝顔でも見て癒されてぇな~



その頃サーヤは⋯


「ふい~」ちゃぽ〜ん

『ほらほら、サーヤぁ、そろそろ上がるわよぉ』つんつん

「あい~」ふにゃあ

『うふふ。サーヤちゃんのお顔がとろけてますわねぇ』

『お顔がふにゃふにゃにゃ~』

〖溶けてるのは顔だけじゃないみたいだけど?〗くすくす

きゅるる『全身溶けてる』

寝てはないけど、温泉でかなり間の抜けた顔になっていました⋯


☆。.:*・゜☆。.:*・゜

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