第350話 おいちゃん、動く!

ジリッジリッと後ずさる親方兄弟。と、第一村人さんたち。

なんだよ。見たくないのかよ。ってか、鍛冶神様、マジで俺に何を打たせたんだ?


『ゲ、ゲン。お、お前、今なら鑑定できるんだよな?』

『か、鑑定してみろよ。俺らはその間に心の準備しておくからよ』


親方兄弟、声が震えてるぞ。

そんなにヤバいのか?そんなの俺だって見たくねえぞ?


『ま、まあ、なんだ。とりあえず、抜いてみたらどうだ?その刀?剣とは言わないんだよな?』


『ん?ああ、両刃じゃなくて片刃だからな。片刃のものを刀、両刃のものを剣と区別するんだよ』

しかし、そういうのは分かるんだな?多少は見たのか?


『まあ、種類くらいはな?見えたけどな』

『それ以外は、見たくねぇぞ』


あっそうですか⋯

まあ、とりあえず、鞘から刀を抜くかな?

スラッと刀を抜くと⋯


『うおっ』

『ま、眩しい』


ん?光が反射したか?すまん。

ふ~む、刀は二種類の石で打ったんだよな、おや?こいつは

『アダマンタイトとヒヒイロカネ?』

俺、もう打ってたのか⋯


『『や、やっぱり⋯』』


ん?すげぇな。さすがドワーフ。見ただけで気づいてたのか。

しかし、刀は刀身だけじゃない。拵(こしらえ)も山ほどある。

柄やら、鍔やら、鞘やら、他にも小柄に笄(こうがい)、目貫に目釘、柄巻。

数え上げたらけっこうあるんだよな~。誰に見せるわけじゃないから目貫なんか省いていいと思ったんだけどな?飾りだし。


でも、なんかニヤニヤした鍛冶神様に、ついでに武神様と工芸神様まで出てきて、作れ作れってうるさかったんだよな。

なんか、付与がしやすくなるとか?親和性が高まるとか?三人でコソコソ話してたよな?

あれ?今思うとめちゃくちゃ胡散臭いな⋯


仕方ない。確認するか。ええと?まず、柄と鞘は確か同じ木から作ったよな?なになに?


『天界樹?はあ?天界に育つ木。神から溢れた気を何よりの養分として育つ?なんじゃそりゃ?怖ぇ~』


『『ヒィッ!』』


ん?今の変な声は親方たちか?まあ、いいか。


他はなんだ?柄巻、サメ皮ないか?って聞いたら、武神様が〖これどうだ?〗って、ニヤニヤして渡してきたんだよな。

そういや、周りの二人も笑いを噛み殺してたよな?嫌な予感しかしねぇ


『神龍(武神のペット)が脱皮した際の抜け殻⋯』


は?ってことは、龍の皮?あれか?武神様の腰から肩に絡みついてた日本的な龍の⋯。おい、なんちゅうもんを⋯


〖〖⋯⋯っ〗〗ガタガタッ


ん?なんか落ちたか?


しかし、てことは、他も?


『目釘、神虎(鍛冶神のペット)の生え変わる際に抜けた牙⋯』

あれか?鍛冶神様のいつも脇に控えて荷物とか運んでた白い虎⋯


うお~これ以上見たくねぇ


『目貫、オリハルコンにミスリル』

おお?これももう打ってたのかよ⋯

工芸神様がやけに手直しに力入れてたような?おかげでやたら繊細な鷲の彫り物に⋯あっ鷲の爪が本物だ?

『グリフォン(工芸神のペット)の爪⋯鷲じゃなくてグリフォンだった⋯』

あの頭に乗ってんだか肩に乗ってんだかわかんない奴かよ⋯

もうやだ⋯


『鍔、小柄は刀身と同じか。でも、細工が入ってんだよな~』

これ、絶対ヤバいやつだよな?マジで⋯


『親方⋯ん?』

何してんだ?

『親方、なんで兄弟で壁に張り付いてんだ?』

しかもベッタリと?


『お、お前、なんてもん持ってんだ~!!』

『そ、そんもん、誰が扱えんだよ!』

『え?俺だけど?試したしな?武神様に半ば強引に相手させられたしな?』

何言ってんだ?使えねぇもん持ってても仕方ないだろ?


『うわあ、よくみりゃそれ、目釘ってやつの頭!石が埋めてあんじゃねえか!』

『うわあ、まだ強くなんのかよ!その刀!』


『あ?目釘の頭?あっホントだ。空の魔石?うお?サーヤたちが散々探してるやつが!?』

すでにあったとは!?


『天界樹は別名、神樹!生命の危機に陥ろうが、その木に触れればたちまち回復しちまうって伝説の!常時回復付与ってなんだそりゃ!?持ち主絶対死なねぇやつ!』

『うおおおおぉ?状態異常無効!?神獣様たちの加護が!?』


はあ?なんじゃそりゃ?

『そ、そんなすげぇもんだったのか?』

そんなもん、どうしろと?


『お前、そんなもんじゃねぇぞ?そんだけ魔法と親和性の高い素材、使いまくってんだ』

『おまけに空の魔石まで⋯しかもそれ、脇差ってやつと対だよな?同じ仕様だよな?まだまだ付与だってし放題じゃないか!』


ええええ?そこまでか?

『どうするか?まだ、色々あるんだが⋯』

大太刀とか見せたらどんなことになるんだ?


『『わああああたっ言うなぁ!知りたくねえええ!』』


ひでえな?こうなりゃ、意地でも見せて⋯


『た、大変だ!』

『魔物が、ボアが集団でゲートを突き破りやがった!』


え?魔物?


『しまった!ここのところ平和だったから油断した!』

『全員を集合させた所を狙われたか!』


ええ?

『待ってくれ!魔物にそんな知恵が!?』

確かに日本のイノシシも学習能力があったが


『どうもアーマードボアの変異種らしい!格下のボアを従えてやがる!』

こっちの世界じゃ、そんなことがあるのか


『落ち着け!とにかく武器を持て!』

『女衆は子供達を守れ!男衆は前に出るぞ!』

親方兄弟がビリビリと体に振動が伝わるような声でみんなを落ち着かせる。

『おう!任せろ!あんな奴らに好き勝手させねえ!』

『おうよ!ボアごとき返り討ちだ!』

『とっとと片付けて夕飯は肉祭りといこうぜ!』

『『『『『おう!』』』』』

おお!さすがだな!親方達も村の衆もすげぇな!今夜は肉祭りか!ん?肉?肉!!


『親方!!』

『なんだ?ゲン』

『俺に行かせてくれねえか?俺はまだこの世界で魔物と闘ったことがない。いつかはやらなきゃいけねぇなら、頼もしい連中に囲まれた今だと思うんだ。安心して後ろを任せられるだろ?』

『⋯しかしよ』

う~んと悩む親方に


『それによ?これを試せるいい機会だろ?』

そう言って鞘に収めた刀をカチャっと鳴らせて見せる。


『⋯兄貴』

『分かった。お前の戦い方も見てみたいしな。任せよう』


よしっ!

『ありがとう』


『ただし、十分気をつけろアーマードボアはその名の通り硬い鎧を纏っている。変異種だとしたら尚更だ。いいな?』


親方の真剣な目に、俺も真っ直ぐに答える

『ああ。分かった』


くるっと踵を返し表に出る。ドドドドと音がするほうを見ると土煙が上がっている。俺は待ち構えるドワーフたちの先頭に立つと


『いいか!誰も俺の前に出るな!巻き添えを食うぞ!』

そう言って、腰を落として構えをとる。


『だが、眷属様っ!』

『みんな下がれ!この場はゲンに任せるぞ!だが、気を抜くな!うち漏らしはオレたちでやるぞ!』

『わ、分かった。眷属様、頼みます』

『ああ。任せてくれ』


親方、助かる。村人は一人残らず俺の後ろに回ったようだ。

さて、見えたな。あれか。確かに先頭にやたらごついのがいるな。だが、あとはでかいだけの雑魚。なら


すーっと息を吸って腹に力を貯める。

『抜刀術・風刃』シャッ!

足を踏み込み、鞘から刀を走らせ、抜刀した際の風圧を斬撃として飛ばす!

ドガーン!ズガーンッ!


『なっ』

後ろでドワーフ達が息を飲んでいる。


うん、やっぱりいくら数がいても普通の魔物ならこんなもんだよな。

目の前には一撃で倒されたボアの山。

武神様と撃ち合ってる時にたまたま出来たんだよな。これ。技に名前つけるなんて恥ずかしいって言ったのに、武神様が譲らなかったんだよな~。謎だ。


『でも、さすが、鎧を来てるだけあるな』

ヨロヨロと立ち上がるアーマードボア。

それに向かって走りこみ、とどめを刺すべく、目の前で刀を横一線⋯スパッと首を飛ばす。

どんな魔物でも、首を切り飛ばせば一溜りもないだろう。ヤマタノオロチのようなものでなければな。


『ふう。ま、こんなもんか』

肉、大量にゲットだな。聖域に土産に持って帰れないかな?これ。



そして、その頃⋯


「おにく!おにくにょ、やかん!」


〖ど、どうしたのサーヤ?急に叫び出して〗

〖おにくのやかん?なんでしょうか?〗

〖もしかして、お肉の予感と言いたいのでは?〗

〖〖あ~、そういうこと⋯〗〗

〖さすが、師匠ですね〗


「おにくーっ」


☆。.:*・゜☆。.:*・゜

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