第349話 完成!羊たち用!

ふむ。まあ、初めての素材で、初めての場所で打った割には、まあまあの出来か?


ゲンが出来上がったハサミをあらゆる角度から確認をする。


折り返し部分はバネの役割もするから補強もしたし。

刃も反りを入れて研いであるから、羊たちの肌をそうそう傷つけることもないだろう。

何丁か打ったから春陽達にも手伝って貰えるな。

持ち手は錆止めと滑り止めを兼ねて組紐でも巻くか。後で絹さんに糸をお願いしよう。あ、組紐を作るなら、丸台とかも必要だな。

などと考えながら、完成した握り鋏羊用を眺めていると


『完成か?』

親方が声をかけてきた。

『ああ。一応な』

手に持っていた一丁を親方に渡す。


『ふむ。やっぱり見せてもらった糸切り用の物より、大分でかいな』

手の平で質感を試しながら感想を言う親方。


『まあな。でかい分、打ちやすいから練習にはちょうど良かったかもな。小さい方がもっと気を使う』

『やっぱりそうか。素材は魔鉄と魔鉱石にしたんだな。ヒヒイロカネとか使われなくて良かったよ。まったく。なあ、これ握ってみてもいいか?』うずうず


そんな子供がおもちゃをお預けされたような顔で聞かなくても


『ああ。構わないぞ』

苦笑いしながら、そう伝えると


『そうか!ありがとよ』ニカッ


すごい笑顔だな、おい。くくっ


『ゲ、ゲン俺もこっちのいいか?』うずうず


弟もか。

『ああ。構わない⋯ぞ?』


気がつくと信じられない人数のドワーフ達がキラキラした目でこちらを見ていた。

『お、おお?』

いつの間に?


『ありがとよ!ゲン!兄貴っ』


戸惑う俺に構わず兄弟で語り出す親方たち。

お、おい。どうしろと?前髪と長い髭の間から覗く目が、みんな同じ⋯

『ど、どうも?』

な、なんだなんだ?


『鍛冶神様の眷属様、ワシらも見せてもらっていいだろうか?』


『は?いや、俺は眷属ではなく、ただの人間⋯』

『そんなご謙遜を!』

クワッと目をかっ開いて迫り来るドワーフ。この人はさっきの第一村人さん。


『いや、だから俺はただの人間のゲンで⋯』

『いいえ!眷属様!素晴らしかったです!火に向かった途端に纏われた気はまるで神が憑依されたかのようでございました!』

『そうです!そして見たことがないあの素晴らしい技!どうかご伝授頂きたくっ!』

『ずるいぞ!是非私にも!』


お、おおう?第二第三の村人さんまで?

『ま、待ってくれ!親方っ助けっ』

助けを求めて親方兄弟を見ると


『すげぇな!』シャキン!

『この寸分の狂いもない合わせ!』シャキシャキーン!

『なんとも言えないこの感触!』シャキシャキシャキ!

『早く使いてえな!』シャキシャキシャキシャキーン!


だ、ダメだ⋯


鍛冶神様、何とかしてくれよ。すっかり眷属とやらだと思われてるぞ?一緒に刀を打っただけなのに。

そういや、あん時は鍛冶神様に言われるまま、渡された石で刀を打ったけど、あれなんだったんだろな?やけにニヤニヤしてたような?今なら鑑定できるか?あの時は出来なかったからな。


鍛冶神様との会話を思い出してみるか。たしか⋯


〖いいか?ゲン。これからお前が行く世界は魔物がいる。人の命を何とも思わない連中もいる。今までの世界の常識は通用しねぇ。自分の命は自分で守るしかねえ。守りたいものがあれば尚更だ。難しいだろうが命を奪うことに躊躇するな。躊躇した時、それは自分や自分の大切なものが死ぬ時だと思え。力をつけろ。武器を持て。手札はあればある程いい。まずはお前の一番得意とする武器をここで打ってみないか?〗


そう言われて打った刀。鍛冶神様、初めて見る刀に興奮しすぎて


〖もっとねえのか?こんな美しく、しかも強靭でかつしなやかな剣は見たことねえ!片刃なんだな!この反り、それになんだこの刃の輝きに紋様?この世界の剣は両刃で無骨なんだよ!片刃のものは小型のナイフとかだろうが、やっぱりごついんだよな!なあ!俺に教えてくれよ!〗


とか、肩掴まれてガクガク揺さぶってくるからたまりかねて教えたんだよなぁ。馬鹿力め。

結局、俺のインベントリには馴染みのある刀の他に騎乗しながら使える大太刀から、脇差し、短剣、薙刀まで揃っている。弓矢までな。

しかも、全部鍛冶神様とお揃い⋯。

何が悲しくて野郎とお揃い⋯。


手裏剣とかバレなくて良かったぜ。あっ?でも、サーヤ用にクナイとかあってもいいか?まだ早いか。でも、山桜桃とかフゥに護身用に持たせてもいいしな。暗器こっちの世界にもあるのか?

親方に聞いてみるか?


『なあ、親方。おーい』

戻ってきてくれ~

『ん?ああ、すまん。なんだ?』

『どうした?』


そんなに、それ、気になるか?すごい笑顔だな⋯


『実はな?天界にいた時、鍛冶神様と一緒に打った刀があんだけどよ?あとな⋯』

『なんだと!?見せてくれ!』

『見せてくれ!』


おお?すげぇ食い付きだな。暗器のこと聞き損ねた⋯いや、聞かない方がいいか?

『わ、分かったよ。ただな?あの時は、鍛冶神様が渡してくれた素材で打ったからよ。何で出来てるか知らねぇんだよ』


なんか、ニヤついてたしなぁ。嫌な予感がすんだよなぁ?


『お前、鑑定できたよな?』


それがな~

『あの時はまだ出来なかったんだよ。作ってからはインベントリにしまったまま出してもないしな?』


親方兄弟も何か感じたらしい。眉間にシワが⋯

『なんか、嫌な予感するな?』

『奇遇だな。俺もだよ、兄貴』


やっぱり感じるよな?

『俺もだよ』


『『⋯⋯』』じとーぉ


なんだよ。その目は。親方達だって同じこと思ったろ?やめろよ、そのジト目。


『まあ、とにかく出すな。これが刀だよ』

拵えも、素材提供は鍛冶神様なんだよな?


〖ちょ~っと丈夫な木と、ちょっとした動物の皮だよ。気にすんな!ワハハ!〗


とか、言ってたけどな?不安だな。と、思いながら刀と脇差しを出すと


『おいおい。なんだよ、そりゃあ』

『な、なんか、ヤバい気配がビンビンするぞ』


あ、あれ?親方達が後ずさってる?あれ?第一村人さん達まで?


鍛冶神様、俺に何を使わせやがった?



⋯その頃、聖域では


「もっふ~ん ふへへ~」

ぴゅいきゅい『『すぴ~』』

『『ぷひゅ~』』

『『『すぴぴぴ~』』』

みゃ~『むにゃ~』

『うふ~』


〖うふふ。結局、こうなるのね〗

『あの勝負はサーヤが勝ったんでしょ~?』

〖そうよ。だから、サーヤたちみんな、ハクをぎゅうってしてるでしょ〗くすくす

『でも、ハクもみんなをくるっとしてるしねぇ。やっぱり同じじゃなぁい』

〖うふふ。いいじゃない。どっちも勝ちってことで〗

『そうねぇ』うふふ




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