第351話 問題の方々は?

〖ふっふっふ。やっとあの刀を使ったみたいだな〗


ここは天界のとある一室。


大きな肘掛椅子にどっかり座ってふんぞり返っているのは、武神。その周りには


〖そうだな。やっと日の目を見たか。待たせやがって。あれには俺のとっておきを使わせてやったんだぞ。工芸神だって相当気合い入れてたよな?〗

面白がって何も知らないゲンに、とんでも素材をどんどん渡した鍛治神。


〖その通りですよ。まったく、あれだけの芸術品を、いつまで眠らせているのかと、気が気じゃなかったですよ。グリだって、まだかまだかと気にしてましたしね〗

『クルッ。ホントだよ。せっかく俺の爪までくれてやったのによ。まったく気が付かねぇんだもんな』

見たこともない刀、しかも滅多にない最高級の仕上がりになった業物に、やはり興奮して夢中で細工を施した工芸神。


〖まあまあ、そう言いなさんな。わざわざ気づきにくくしたんだからよ。な?〗

〖ええ。苦労した甲斐があったというものですよ〗


満足気に頷き合う鍛治神と工芸神。

そう。ゲンの刀をとんでもないものにした張本人たちが集まっている。


『ガルル。それを言ったら俺の牙だってよ?あんな分かりにくくしやがって。本来なら有り難すぎて泣くやつだっているのによ~』

〖まあまあ、虎、お前だってあいつを認めてただろ?良いじゃねえかよ。今はもう分かったんだからよ〗

『ガルル~。そりゃ、そうだけどよ~』


『シュルッ。おまえたちはまだ爪だの牙だのかっこいいから良いじゃねえかよ。俺なんか、俺なんかな~、脱皮した皮だぞ!?皮!』

『ガル~。あ~、な~』

『クル~。それは、な~』

龍の嘆きに、流石に同情を見せるグリフォンと虎⋯


『鱗とかよぉ、他にもかっこいいもんがあるのによぉ、よりによって脱皮した皮だぞ?皮!やい!武神!なんでそんなもん後生大事にとってやがんだよ!』

〖良いじゃねえかよ!龍、お前の成長の証としてとっといたんだよ。今までの全部とってあるぞ?どうだ愛だろ?愛!ガハハ〗

『シュルルッ!何が愛だ!気色悪ぃ奴だな!捨てろよ!んなもん!』

〖やなこった!〗


カツン⋯

『ほ~。このような所で密談ですか?鍛冶神様、武神様、工芸神様?そして神獣の皆様』

不気味に響く靴音とともに、背後に現れたのは⋯


〖ゲッ!バート!〗

〖何でここが?〗

〖(二人とも黙りなさい!)これは、バート。どうかしましたか?〗

こそこそ

『クルッ。俺知らねぇ』

『ガルッ。俺だって』

『シュルッ。静かに!』


『ふふっ。何でここが⋯ですか?知られたくないのでしたら、もっと静かにすべきでしたね』フフ


〖武神と龍が騒ぐからだぞ!〗

〖あっ、てめえ!人のせいにするんじゃねえよ!〗

スパンスパーンっ

〖(だから、黙りなさい!)それで?何用ですか?〗


『いえね?実は天庭の庭師達から報告がありましてね?』


〖ほお。庭師から?何があったのでしょうか?〗ぴくっ


『天界樹の精がですね、ここ最近ずっと泣いているというのですよ』ふうっ


〖それはそれは。何があったのでしょうか?心配ですね〗う~ん


こそこそ

〖なんだ?このたぬきの化かし合いは?〗

〖さあな。俺はこういうの苦手だ〗

『『『しっ!』』』


『それで直々に話を聞くべく、天界樹の元へ行くとですね。天界樹の精が泣きながら飛びついてきましてね?』ふぅ~


〖ほぉ。それは、ますます心配ですね〗むぅ


『そうでしょう。ですので、何があったのか聞いてみたのですよ』にっこり


〖そうですか。それで何が?〗ひく


『ええ。どうも天界樹の精が大事に大事に育てた樹の枝をですね、無理やり奪っていった者がいるそうなのですよ』ふぅ~ぅ


〖そ、そうなのですか?〗ひくっ


こそこそ

〖あっ、やべえ〗

〖鍛冶神?お前、まさか〗

クルッシュルッ『『まさか』』

『⋯⋯』


『そうなのですよ。なので、誰が犯人か聞いたところ』にっこり


〖ところ?〗ごくっ


こそこそ

〖お、俺ちょっと〗

『⋯⋯』

〖お前、やっぱり〗

クルッシュルッ『『やっぱり』』


バーンッ!

『見つけたぞえ!貴様!鍛冶神!よくも妾の大事な枝を傷つけ奪い去ってくれたな!』わなわなわなわな


〖ゲッ!天界樹の精!〗

ガル~『⋯だからやめとけって言ったのによぉ。俺、知らねぇ』


『と、言うことなのですよ』にぃっこり


〖そ、そうでしたか(何をしてるんですか、鍛冶神!)〗


『あの枝は妾が特に気に入って、大事に大事に手入れをしながら育てておったに!それをそれを!〖おっ!この枝いいな。貰ってくぜ〗と妾の許しも得ずに乱暴にへし折っていきおって!この盗っ人が!』

〖人聞き悪いこと言うなよ!断っただろ〗

『何が断っただ!このたわけが!わざわざ貴様の神獣を使い妾の気を逸らして盗んだだろうが!この痴れ者が!』

〖うっ〗

ガルっ『だから止めろって⋯』


〖ほ~お。そうですか。神ともあろう方がそのような小賢しい真似を⋯そうですか〗ゴゴゴゴゴ


『そうじゃ!バート!頼む!取り返してたも!』さめざめ

『残念ですが、それはもう叶わないようですよ』

『な、なんと⋯』よよよよ

『残念です』

『わ、妾の天界樹がぁ』うわあああ

『すみません。私の監督不行届です。でも、今からしっかりとお話しさせていただきますからね』にっこり

『バート、頼む。仇を仇をとってたもっ!』うっうっうっうっ

『かしこまりました。お任せを』にいっこり


ぞくうっ

〖は、犯人が分かっているようですから、これにて失礼を〗

〖お、俺も〗

クルッシュルッ『『俺も~』』

〖あっ!ずりぃぞ!待てよ〗

ガル~『待てよ~』


ピシャーン!

〖〖〖ヒッ〗〗〗

『『『ヒャッ』』』


『ふふふ。皆様、どこへ行かれるおつもりですか?』ピシッピシッ


〖い、いやあのですね?〗

〖俺たちは話の邪魔だろうからよ〗

〖汚ぇぞ!〗

『『『⋯⋯』』』こそこそ


ピシャーンピシャーン!

『何を仰っているのですか?私が地上で何があったか知らないとでも?それから、そこの神獣達。こそこそしないで下さい。逃げられるとでも?』ふふふ。


〖〖〖あわわ〗〗〗

『『『⋯⋯』』』ガクガクブルブル


正に蛇に睨まれた蛙⋯

怒ったバート(笑顔バージョン)からは、誰も逃げられない


『あわわわ』

わ、妾はどうすれば?


ギィ~

〖天界樹ちゃん、天界樹ちゃん!こっちこっち〗こそこそ

『しゅ、主神様⋯』

〖はやくはやく!こっちおいで!〗こいこい

扉の隙間から手招きする主神を見つけ

『は、はい』

慌てて姿勢を低くしたまま、何度か足を滑らせながらも、何とか扉の所まで行く天界樹の精

〖大丈夫かい?とんでもない目にあったね~〗なでなで

『い、いえ。お気遣い頂きありがとうございまする』

〖すまなかったね。天界樹ちゃんの大事な枝を〗

『うううっ』

〖でもね?君の大事な枝は愛し子を必ず守ってくれるはずだから、今回はあれに免じて許してくれないかな?〗

あれ?主神様の視線を辿って後ろを見ると


ピシャーン!

『まったく!あなた方は何て物をゲンさんに渡したのですか!』

ピシャーン!

〖〖〖わ~あああ〗〗〗

『『『助けて~』』』


あれか⋯

『分かりました。では、愛し子様の守り人に妾の枝は渡ったのですね?』

〖うん。そう。きっと彼らの力になるはずだよ〗

『そういうことなれば。かしこまりました。妾の加護も授けましょう』

〖ありがとう。嬉しいよ。それじゃ、あれはバートに任せてお茶でもどうかな?美味しいお菓子でも食べて元気だして〗

『は、はい。では、お言葉に甘えまして』にこっ

〖うんうん。やっぱり天界樹ちゃんは笑顔でいないとね。それじゃ行こうか〗

『はい』

ギィー、パタン⋯


ピシャーンピシャーン!

『聞いているのですか!まったくあなた方は少しは自重というものを⋯!』


〖うううっ悪かった〗

〖申し訳ない〗

〖気をつけます〗

『『『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』』』



その頃⋯


ピカッ

『ん?なんか一瞬光ったか?』


『あ、兄貴、あれ』

『あ、ああ、加護が増えたな』

『おお⋯加護を授かる瞬間に立ち会えるとは』

『さすが眷属様』

『『『『『ありがたやありがたやー』』』』』


『ええ?』

おいちゃん、ますます普通ではなくなる⋯


☆。.:*・゜☆。.:*・゜

お読み頂きありがとうございますm(_ _)mフォロー、応援、いいねなどもありがとうございます。感想や星も励みになってます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る