第325話 サーヤのハサミは

神様たちの迫力に、土下座のドワーフさんたち。

お道具箱もハサミも無事だったから大丈夫だよ?


『すまん。つい、あまりの職人技に夢中になっちまって』

『でも、そんな芸術品、分解なんて間違ってもしないよ』

ドワーフさんたち、必死です。丁寧にしてくれるなら見せてあげるよ?


『まあなぁ。親方たちの気持ちは分からないでもないんだよな。サーヤのハサミは特別だからなぁ』

おいちゃんがボソッと言います。


〖特別?〗

ジーニ様が聞き逃さなかった!


『ああ。俺の友達に刀鍛冶やってる奴がいてな?日本刀って言う独特な刀があるんだけど、俺たちの時代じゃ、ごく一部の者しか持つことが許されなくてな?このままじゃ、古くから伝わる技術が失われちまうってんで、ハサミとか包丁とかも打ってたんだよ』


おいちゃんがしみじみと言います。おばあちゃんも言ってました。

「ゆゆゆきじちゃい」

『由々しき事態。だな』

「しょーちょもゆう⋯」

『そうとしか言わないだろが』

「ぶー」

むずかしいんだもん。


『でもよ?そんなに凄いものなら、もっと広がっていいだろうに』

親方が不思議そうです。


『いや、俺たちの国では本当に優れた技術を引き継ぐために【一子相伝】とか【一家相伝】っていうのがあってな?その家だけ、一子相伝に至っては、子の中でも一人だけに技術を伝える文化があるんだ。技術の秘匿だな。そうやって代々受け継ぐ訳だが⋯』


『絶えちまうだろ?そのやり方じゃ』

うーんと唸りながら親方が言います。


『その通り。失われた技術は少なくない。もったいないよな。だからな?俺の友達は外からも弟子をとったんだよ。俺も少し必要に迫られて習ったよ。鍬とか鎌とかな』


トンテンカンテンやってたよね。でも、危ないからサーヤはお外からちょろって覗いてたんだよ。


『ああ、時々、座敷童子みたいに扉の隙間から見てたよな。目が合うと、ピュッと隠れてな(丸見えだったけどな)』

「ぶー」

サーヤ、座敷童子じゃないよ。


〖それで鍛治神が感心してたんですね。さすが、師匠です〗

エル様は、安定のおいちゃん信者感ですね。


『でもよ?なんでそんな友達がいたんだ?なかなか貴重な人材ってことだろ?よくいたよな?』

親方がますます分からんって顔ですね~。でもね?


「おいちゃん、たちゅじん。にほんちょう、じゅばっ!かっちょいい」

ズバッ!サーヤもおいちゃんの真似っ子です。じょうだんのかまえ?から、ずば!


『それは袈裟斬りか?』

「う?」

知らないよ?おいちゃんのまねだよ?

『そうか⋯俺も、もう一度修行しないとな』

「う?」

似てるでしょ?下からも、斜め上にも、ずばっ!かっこいいでしょ?

『うん、まあな⋯』

なんですか?その変なお顔は?


『ワハハハ!まあ、元気出せ!』

バンバンっ

『痛ぇっ!』

ふお~親方、いい音!おいちゃんの背中に紅葉出来てそうだね。


〖あ~可愛い♪⋯こほん。なるほど、そういうことね〗

〖納得ですね。ふふ。サーヤも強そうに見えますよ〗


「えへ~?」

そう?そう?


〖さすが、師匠です。武神が食いつく訳です〗

武神様?おいちゃんの信者、どれだけいるんだろ?


『あ~。まあ、そんなわけでな?サーヤのおばあちゃんにも、そいつを紹介したんだよ。包丁とかハサミとかはそいつの作品だよ。包丁は持ち出せなかったけどな。あ~、俺の道具もどうしたかな~?悔しいな。気に入ってたんだけどな』


おいちゃん、こだわり強いもんね。おばあちゃんが

『あれは、もはや病気かしらね?』

って、言ってたもんね。


『ちょっ、ちょっと待ちなよ。そんな業物を小さい子にまで?』

おかみさんびっくりしてます。


『あ~。サーヤのおばあちゃん、お揃いで道具を持ったりするのが夢だったみたいだぞ?それにな?よく切れるものの方がケガもしにくいってな?それでも、やっぱり、おばあちゃんの持ち物の方が良い奴だぞ?手入れもちゃんとしてたしな』


おばあちゃんも、こだわり強いもんね?

『あらあらまあまあ、私なんて、げんさんに比べたら、かわいいものよ?うふふ』

って、言ってたけど。


『なんてこったい』

『見てみたいね~』

『ああ。打ち方も知りたいな』

『凄いんだろね』

ドワーフさんたちが興奮してますね。


『まあ、鍛治は神事みたいな要素もあるからな。打つ前には禊もしたりするし、鍛冶場は神が祀られて祈ってから打ったりな』


『は~神聖なもんなんだな』

親方が感心してます。


『そうだな』


サーヤはお話に聞いただけだけど、おいちゃんのお友達のところは、神様がいて、熱いところだから、サーヤは見に行っちゃダメって言われました。そのお友達は

『俺の装束姿はかっこいいんだぞ!見せられなくて残念だ!でも、命懸けで打ってるからな。関係者以外は入れないんだぞ』って言ってました。


『は~ますます見てみたいね~。美しいんだろね~。このハサミだって、うっとりしちまうくらいなのに』

『そうだよ。俺の打ったナイフより上ってことだしな。俺のナイフは羊の毛に負けたけど、このハサミはそれに勝ったってことだもんな。それよりすげぇものなんて、いったい』


「う?ありゅよ?おばあちゃんにょ、はしゃみ」

おいちゃん、一緒に持って来てくれたから。

『あっ、おばか⋯』

「うにゅ?」

何が?


がしいっ!

「ふぎゃ?」

『あ~ぁ。やっちまったな~』

なに?なに?サーヤ両方の肩掴まれて捕まっちゃった?


『サーヤ!一生の頼みだ!見せてくれ!』

『頼むよ!見せておくれ!』

『そこまでの業物があると知っちまったんだ』

『見なきゃ死んでも死にきれないよ!』

『頼む!サーヤ!』

『絶対に壊したりしないから』

『『『頼む!』』』

『『『お願いだよ!』』』がばっ


「ふおおお?」

ど、土下座?

『あ~あ⋯』

みんな目が血走ってます⋯こ、こわい

「あうあう」

おいちゃん、助けて~

『あ~あ~仕方ねぇなあ』

おいちゃんが動き出そうとした時


『あ、あの~皆さん』

『すみません』

すっごく遠慮がちな声が⋯


『『『あ!?』』』

『『『なんだい!?』』』

ギンッ!


『『ひっ!』』

山桜桃ちゃんと春陽くんです。二人ともビクビクです。ドワーフさんたちダメだよ!


〖ちょっとあなた達〗

〖威圧しないで下さい〗

〖可哀想に怯えているじゃないですか〗

神様が、むーんと迫力です。

これは威圧じゃないのかな?


『『『す、すまん』』』

『『『悪かったね』』』

謝るドワーフさんたちに


『『い、いえ。大丈夫です』』

まだ、ちょっとガクガクです。頑張って。


『それで、どうしましたか?』

『何かあったかにゃ?』

アイナ様とニャーニャが気遣わしげに聞いてくれました。

いつも大人しい二人が声を震わせてまで言ってきたってことは、きっと大切なことを言いに来たはずだよね?


『あ、あの。すみません。でも』

『めーめーさんたち途中なので』

『『ご飯が⋯』』


え?


「ふあっ?」

大変!!

『そうだった!親方!後でな!先に飯食べさせないと!』

『あ、ああ。もちろんだ。悪かったな』

親方も待ってくれるみたいです。


『サーヤ行くぞ!』

「あい!」

そこからはおいちゃんにバトンタッチ。サーヤのハサミはこの人なら貸して大丈夫ですよ~ってすると、その人も使えるんだって。元からおいちゃんの方がめーめーさん達も信頼してるから、安心して切られてます。ぶー。


それにしても、はやいはやい!しかもキレイ。ちびっこ達まであっという間に切り終わって、しかも先に切った子達の手直しまでしてます。ぶー。


『まあまあ、サーヤ。年季が違うんだから仕方ないわぁ』

結葉様が慰めてくれます。


『ご飯食べれた』

『良かった』

『そうよ』

『サーヤがハサミ出してくれたおかげね』

『ありがとね』

「あい!」

精霊さんたちが褒めてくれます。じゃあ、いっかあ!そして⋯


『じゃあ、サーヤ』ぽんっ

『ハサミ、見せとくれ』ぽんっ

にぃっこりとしたドワーフさんたちが⋯


「あ、あい」

こ、こわい⋯


☆。.:*・゜☆。.:*・゜

お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m

「おいちゃんは、たちゃじん、き、ききゃきゅがい?」

『規格外って言いたいのか?』

「お~おやかちゃ、あちゃり」

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