第二話 そして、爆弾は落とされた。


※ 前話あとがきにて追記修正をしましたが、此方でも告知します。初期設定時間軸では、新型コロナ発生前の令和元年としていましたが、ヒロインの1人、柚子の最近のお気に入り曲が2021年公開アニメ作品に用いられた歌設定という背景上、令和3年に変更したことと共に新型コロナ終息の願いも込め、この世界においては、すでに早期終息した前提にて展開させていただきます。

 それでは、本編をお楽しみください。



          ◆



 午前最後の授業に幕が降りるチャイムが鳴り響いた。


 教室の中が俄かに活気付く、昼休みがやってきたからだ。勉強が苦手な生徒からすれば至高の時間かもしれない、案の定、哲太あたりのスポーツ推薦で入学した脳筋組は口から何かしら出ているようだったが無事に復活したらしく、仲の良い陽キャ軍団で昼食に向かうようだ。


 「お兄ちゃん、お昼、いこう?桃華ねぇが待ってるよ?」


 そんな中、いつもと同じく柚子が俺のそばにきた。


 俺たち姉兄妹(きょうだい)は、この春からほぼ確実に昼食は3人一緒に集まって食べている。理由は特別なものはさしてあるわけではない。強いて挙げるなら、姉桃華と柚子からの強い希望があったからくらいだ。だから、姉ちゃんも柚子も友人やクラスメイトからの誘いを完全にお断り姿勢を一貫して取り、この昼休みの時間を側から見ても分かりやすいレベルで楽しみにしている。


 ちなみに昼は俺たち姉兄妹が週替わりで交代して用意している。今週は姉ちゃんの当番で、来週は柚子が当番、更にその次が俺の当番だ。ん?野郎の料理スキル事情とか興味ない?まあ、確かに。


 「ああ、行くか。よっと!今日は何処なんだ?」


 俺が桃華お手製の洋風弁当3人分が入ったスポーツバッグを担ぎながら柚子に姉からの指定場所を確認する。


 「今日は快晴だから、屋上庭園で食べよう!だって。ほら、いこ?」


 今にもスキップでもしそうなほど、浮かれた様子の妹の姿に思わず苦笑した。


 俺と柚子の教室は新校舎1階にある、まだ昼休みが始まったばかりだし、姉ちゃんは3階とより目的地に近いから、普通に歩いて行けばさして待たせることもないくらいで合流できるだろう。まあ、あの姉ちゃんが俺たち弟妹が多少遅れるくらいのことで目クジラを立てる事もない。


 俺たち2人は仲良く連れ立って教室の扉を潜り、談笑しながら目的地へと向かっていった。



         ◆



 「陽平ーっ、柚子ーっ!こっちよーっ!」


 屋上庭園に続く階段を上がり、扉を抜けるとすぐ様に姉ちゃんからありがたいお導きの言葉がかかる。


 「桃華ねぇっ、お待たせっ!」


 姉ちゃんは、入り口から見える芝生が広がる中心部にシートを敷き、飲み物も展開済みという準備万端の状態だった。さすが姉ちゃん。


 「陽平、柚子、いらっしゃいっ♪」


 俺たちを出迎えてくれた桃華姉ちゃんは、名前通りに花咲く桃の華のように可憐な笑顔を魅せてくれる。すぐに2人で姉の待つ場所に移動して座る。柚子にはクッションを渡していた。いや、それどこに常備してんだよ。とか内申思いもするが、クッションまで用意済みな辺りが優しく気遣いの達人な姉ちゃんらしい。


 「はい、姉ちゃん弁当ね。今日も早起きして作ってくれてありがとう。」


 「ううん、気にしないで、ようちゃん。2人の入学前に決めたローテーションでやっていて、今週は私だっただけでしょう?まあ?ようちゃんがお礼を言ってくれるのは、お姉ちゃん、とっても嬉しいから、ありがたくお礼は受け取っておくわね?」


 俺が纏めて預かっていた弁当と今日のお礼を笑顔で受ける姉ちゃんは本当に嬉しそうに見える。


 ちなみに、姉ちゃんが俺をようちゃん呼びするときは完全なるプライベートモードな状態を表す。特徴はー、まあ、甘えてくることがあるくらいだろうか?3割マシでだだ甘成分が増量されている気もするが、そんなものでこの笑顔がプライスレスで拝めるんだ、安いものと言えるだろう。甘やかし、甘やかされ過ぎると疎外感を覚えるのか、柚子が拗ねだして面倒くさいことがあるのは、ある意味ご愛嬌というやつだ。


 そんなわけで?俺たちにとっては毎日見られるごくごく当たり前の表情なのだが、その他の人達には違う。


 大体、俺たち姉兄妹がこの高校に通い始めた最大の理由は、


 「あ、あのっ!朝方先輩っ!」


 「あら、こんにちは。私に何か用かしら?」


 姉弟の交流を和やかにしていた俺たちに、闖入者が現れたようだ。


 3人して声の聴こえた方向に顔を向けて見れば、3人組の女子生徒が立っていた。リボンタイの色から見るに俺や柚子と同じく一年生のようだが、学科は違いみたいだ。


 俺や柚子、ついでに言えば姉ちゃんが通うのは進学科、野郎は学ランという近年にしては珍しい古くさい感じだが、女子は今時の女子心を意識したブレザータイプ。しかも極端にスカートを短くしすぎたり等明らかに学校生徒としての視覚的品性が損なわれないなら、カスタマイズ自由という、多分、女子心にクる仕様だ。


 但し、各科の女生徒としての特徴だけは科により指定されている。俺たち進学科の女生徒はネクタイ、今目の前にいる3人組はリボンタイなので、普通科の生徒なんだと思われる。


 「貴女達はー、普通科の生徒さんね?私たち、、、いえ、私に何か用かしら?」


 先程までの雰囲気から、対俺たち以外の冷静な応対に瞬時に切り替えた姉ちゃんは、生徒会所属書記としての一面も併せて表に出していた。


 「あ、あのっ!わ、わたしたち、momo.の大ファンなんですっ!さ、サインお願いできませんかっ!?」


 彼女達を代表して、真ん中にいるサイドテールが特徴の可愛い女生徒が3枚重ねたサイン色紙とサインペン1本を勢いよく差し出してきた。


 「やっぱり、桃華ねぇのファンの子達みたいだね?」


 俺と共に事態の行く末を見守る柚子がコソッと耳に囁いてきた。ちょっとくすぐったくて背筋がゾクっとしたのは内緒だ。


 「、、、、、、、。」


 あ、なんか姉ちゃんに睨まれた。俺、なんかしましたでしょうか、、。


 「うん、そんなことで良ければ、喜んで。」


 胡乱げな視線を返すものの何一つ動じず、momo.としての仮面を被った姉ちゃんは自称ファンを名乗る彼女らへ柔かに応じている。


 ぷ、プロのモデル、ぱねぇ。


 俺も柚子も普段や本性をよく知る姉の魅せる学生プロモデルとしての顔を呆気に奪られながら見ていた。


 そう、これこそが、俺たち姉兄妹がこの高校に通う一番の理由である。


 遡ること3年前、平成と呼ばれた時代最後の春になる一つ前の春、プロモデルが多く在籍している中堅芸能事務所から熱心なスカウトを繰り返し受けた。


 姉ちゃんは両親や俺たち弟妹と散々相談をして、その今や姉のマネージャーを務める谷坂響さんの熱意に根負けして、華やかな芸能界へ足を踏み入れたのだ。そして、高校進学に際して、将来的には某超難関国立大学へ進学を考えている姉ちゃんが、響さんからオススメされて進学先に選んだのが、今通うココ、というわけだ。


 ん?俺たち?来ないとモデル業辞めると人気が出たあとで散々駄々をこねるという芸当をやらかしてくれたおかげで、俺も柚子もばっちり巻き込まれた、そういうオチである。


 「はいっ、こんなので良かったかしら?」


 アレコレ思考している間に、サササッとサインを終えていた姉ちゃんがファンだという3人組へ色紙を柔かなのまま渡していた。


 うーん、、、。そういえば、ファンと嘘をついて有名人にサインを求め、書いてもらったら、即某○○カリ等のフリマアプリを利用して現金化を計るとんでもないやつが最近は蔓延るらしい。本当に必要とする人に希少価値が高く、利幅が臨めるからとまともに働きもせずに悪質と言われても仕方ない転売行為を繰り返す転売ヤーなども含め、こういう浅ましい行為が横行するのは個人的には胸糞が悪い。絶賛、高校生という脛かじり期間中の俺でさえ、週3でアルバイトに勤しんでいるというにっ。


 姉ちゃんがプライベートな時間に割り込まれても、親切心で応じたサインをどうか無碍にはして欲しくないものだ。


 『朝方先輩、お昼中にお邪魔してすみませんでした。これからも応援してます!頑張ってくださいっ!サインありがとうございましたぁっ!!』


 どうやら、要らぬ心配を抱いていたようだな。彼女らは、とても嬉しそうにサインを抱えたまま、和気藹々と庭園を後にしていった。


 「ようちゃん、ありがとね?」


 「んん?どした?姉ちゃん。」


 「サインが転売されたりするんじゃないか、心配してくれてたんでしょ?眉間に皺寄せて小難しそうな顔してるんだものっ。」


 「あはは、ほんと、お兄ちゃん、すっごく複雑そうな顔してたよ?分かり易すぎぃー!」


 柚子が雰囲気を変えようと俺の頬をツンツン可愛らしく突いてきた。くっ、我が妹ながらあざとい!しかし可愛いすぎる!ぐぬっ、、、。


 「ほらほら、私の所為だけど大分時間取られちゃったし、お昼、食べちゃいましょう?はい、ようちゃん?大好きなハンバーグっ、あーんっ。」


 あーーーー、、、ってするかぁっ!?


 「姉ちゃ、、、「お姉ちゃん、ずるいっ!?ね、ね、お兄ちゃん。あたしも食べさせてあげるからっ、ほら、クリームコロッケ♪はい、あーんってしてー。」、、、。」


 いや、妹よ。お前までなに?その謎の対抗心。はぁ、、、。仕方ない。


 先ずは、姉ちゃんの差し出した好物のハンバーグをはむりっ!ムグムグ、ごっくん!


 続いて、柚子のハイ、あーんに応じて、クリームコロッケをもぐりんちょっ!


 んまんま、冷めても美味い手作りハンバーグにクリームコロッケ!


 うううううぅぅーまぁぁぁーいいぃぃぃっぞおぉーーーーッ!!


 とか、某少年料理漫画に出てくる○王の爺さんみたいに、口から金色の光が出てくるわけではないが実に美味であるっ!


 「やっぱり、姉ちゃんのハンバーグにクリームコロッケさいこー♪まじ美味い。姉ちゃん、将来は良い嫁さんになれるなっ!」


 「ッ!?」


 ん?なんか姉ちゃんが固まった気がするが気のせいか。に、してもうめぇーっ!味わいながらもがっつかない程度にバクバク夢中に味わう。


 じぃーーーーーーっ。


 バクバクモグモグっ。


 じぃーーーーーーーーーっ!


 、、、、、、モグモグ、、、。


 「なんだよ、柚子。」


 「べっつにぃ〜?お兄ちゃんが桃華ねぇに甘やかされて鼻の下が延びててだらしなーい!とか思ってないですよーっだっ!」


 明らかに拗ねているのが分かる。んべっ!と、可愛らしく舌を出してから、不機嫌そうにそっぽを向く妹にまたもや苦笑が漏れた。全く仕方ないやつだと思う。けど、昔から当たり前のように続いてきた姉兄妹の流れだ。


 「来週のお前の弁当、いまから楽しみにしてるから、そんなむくれんなって。飯は楽しく食べるがうちの数少ない家訓の一つだろ?」


 柚子の頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でくり倒す。


 柚子がやーめーてーよー!とか抵抗しつつもどこか嬉しそうにしているのが分かるだけ、まさに愛い奴めっ!ではある。


 、、、姉ちゃんも、柚子も、そう遠くない将来、未だ見ぬかもしれない誰かしらと結ばれ、俺とこうして仲の良い兄妹という範疇を出ない程度のスキンシップすらしなくなる未来が訪れる。そんなことに妙な寂しさを覚え、それを胸中に抱きながらも、いつも通りなんでもないように振る舞った。



         ◆



 楽しい楽しい昼休みを終えて、教室に戻ろうとした前にしっかりちゃっかり、柚子から昼分のダッツを所望された。当たり前だが、姉ちゃんも一緒だったから、姉ちゃんの分までしっかり奢らされた。


 まあ、来週の昼飯代がまるまる発生するに比べれば、この程度はなんてことはない。喜んで奢らせていただきやすっ!と、わざわざ、学内カフェに併設された某コンビニからダッシュで姉ちゃんのいる3階までパシらされるとは思わなかったが、、、柚子が幸せそうにダッツを味わう姿に理不尽への溜飲は下がった。



         ◆




 そして今は、本日最後の授業が終わり、各々が部活や塾、予備校などに向かう学生としての1日が終わる時間だ。


 俺は入学以来、すっかり日常化した我が校におけるオタクの巣窟その一、アニメマンガ総合研究部。通称アニ研に赴いていた。今日は一体どんな放課後オタ充生活をおくれるであろうか?内心ワクワクする自分を誤魔化すように部室の扉を開ける。


 そこには、


 「あれ?倉橋だけか?」


 クラスメイトの倉橋優奈が、自持ちの液タブでエロ同人の作画作業に勤しんでいる姿のみだった。


 「うん、そうだよ?」


 「部長とか、他のみんなは?」


 「若狭部長ほかはみんなでメイド喫茶にいったよ?」


 「ま、まじか、、、。」


 がっくりだ。いま、私的な現時点で今期一番の胸熱アニメ、SSSS.ダイナゼノンを語り合いたかったのにっ!?


 しゃーない、直ぐ帰るのも虚しいし、部室のマンガを適当に読んで、程良い時間になったら帰るか。




         ◆




 既に日が沈み始めた。一心不乱に同人作家活動に励む倉橋と2人きりになって、はや1時間は経過した。互いに無言で不干渉。なんと気楽なっ!!


 そろそろ帰るかな?そう思って、席を立つ。


 「おや、もうそんな時間?」


 俺の動きに反応した倉橋がペン?を置き、こちらへ視線を向けた。


 「あー、悪い。作業の邪魔しちゃったな。」


 「いいよ、気にしないで?ボクも休みたくなってたし。」


 倉橋も席を立つ。しかし、飲み物でも取りに行くのかと思ったが、何故だか部室の窓の外を眺めている。


 「、、、ついでだから、飲み物取ってやろうか?」


 「、、、、、、、、懐かしいわね。」


 「はっ?」


 「昔、、、あの日もこんな綺麗な夕焼けだったかしら。」


 倉橋の口調が突然変わっていた。まあ、倉橋だって女子だ。女の子らしい口調くらいできるだろう?そんな疑問と回答が勝手に頭に浮かんでは消えた。けれど、なんだ?この、、、なんとも言えない気味の悪さというか、、、、


 、、、俺はこんな光景を知っている気がする。あれはいつだったか?混乱し始めた思考でアレコレ考えようとしても、まともに機能するはずもなく、だがしかし、思考の言い知れない不快感のようなモノが警鐘を鳴らしているみたいだ。


 「まだ分からない?ふふふ、、、。昔から陽平くんってにぶちんくんだよね?ならー、、、これならどうかしら。」


 1人勝手に盛り上がる倉橋は、制服のポケットから、カチューシャを取り出し、それを身につける。


 「これなら、思い出してくれるかな?『、、、、、、。ょ、陽平くんのことが、すき、、です。つ、、、つきあって、、くださいっ。』、、なんて、、ね?」


 「な、、、、っ!?ぉ、おまえ、、っ!?」


 カチューシャを付けて顔を上げた倉橋の素顔にギョッとなった。


 それは、、、俺に、姉と妹以外の同世代女子に対しての苦手意識のタネを植え付けた女。


 「宵上、、、、ゆう、、奈、、?」


 「ピンポーン♪だい、せい、かいっ!」


 してやったりと怖いくらいの満面の笑みを浮かべながら、倉橋改め、宵上優奈は言った。




 「今でも、変わらず、貴方が好きです。わたしと、、、結婚を前提にお付き合いしてください。」




 その言葉に俺の思考は真っ白に染まり上がった。





        第二話

   そして、爆弾は落とされた。





 次回、第三話。


    エマージェンシー!?

    朝方姉妹、参戦す?に、続く。




あとがき


 はあい、おっさんだよー?


 なんとか寝落ちする前に書き上げられました。


 今回はお姉ちゃん説明回になってしまった。


 次回は、放課後B面回!柚子視点にてお送り致しますっ!


 さ、寝んべ。(( _ _ ))..zzzZZ


※ 11/14.am.06:46. 本編内に主人公、陽平がアルバイトをしているという設定を追加しました。


第三話タイトルをエマージェンシー!?朝方姉妹、参戦す?に変更しました。


来週、また再来週の執筆&アップ予定を近況ノートにて更新、報告しました。

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