第五章 自宅にご招待01
とある日の放課後。
(なるべく自然にあいさつを……ん?)
もう数歩ばかり近付くと、写真を
画面に映る写真は、様々な
「そういうの、よく見るんだ?」
「……っ!? ……っ!!」
「ご、ごめん」
「べつに……いいけど」
「
少なくとも、先ほどの
「だって……こういうのを男子が見ると、バカにするから……」
「……そっか。
「べつに……パパラッチはパパラッチだから。これくらい気にしない」
「呼び方がパパラッチだといまいち場が
いつものように顔をそむけるかと思いきや──
心臓をわしづかみにされた。
あの日、
「どうしたの?」
「え、あ、いや……なんでもない」
「パパラッチ、どうしたの?」
「パパラッチはやめてくれ……」
「じゃあ……パパラッチ
「売れない芸人みたいなんだけど」
「それじゃあ、どう呼べばいいの?」
「え……っ」
いつもと何ら変わらないトーンで
(どう呼んでもらうか……俺が決めていいのか!?)
そんな権限を
まず
それではあだ名はどうだろう。
名前呼びは心臓が
となれば……。
「ええっと……
「パパでいい?」
「話聞いてた!? ていうかなんでそこだけ切り取ったんだよ!?」
「パパ~」
「
(ああもう、
「さっき見てた画像……俺にも見せてくれない?」
「え、やだ」
手を
「ご、ごめん……
後ろから
「かっこいいなぁ……」
「……っ! わ、わかる……?」
「日本だと、私みたいな人ってあんまりいないから……。だから、このアプリでよく、同じような女の人の写真を見てるの」
「住んでる場所はちがっても……毎日を
「急に冷静にならなくても」
目をぱちくりさせる
スマホの画面を一心に見つめる彼女を見ていて、ふとそんなことを思った。
けれど……それでも、
少なくともこの学校ではいじめのような目にはあっていないと思う。
そんな中にあっても、
「俺はさ、他の人がどう思ってるかはわからないけど……
「……っ」
どうしたら
「えっと、俺の家庭
我に返る。めちゃくちゃ
「そっか。
(うわ、うわ、うわ……っ)
心臓に焼き石を放り込まれたかのように、
「だから、その、お、俺、俺……
(あれ? 俺、何言おうとしてんだ? おい!?)
「ん……どうしたの?」
(とはいえ、この流れでいきなり言ったらびっくりさせちゃうだろーー……!?)
真っ二つに分かれた自分が数秒のあいだ目まぐるしく対立していると、不意に。
「
「────っ」
あまりにも
「いおりん? どしたの?」
「ぷっ、くっ、くく……っ」
「えーっと、じゃあ俺はこれで! また明日!」
「え、ちょ、いおりん!?」
「……?」
× × ×
この出来事があってから、
またどこかで、ふたりで話せる機会がないかな……と考えていた、とある日の放課後。
(ううん、
遊歩道のすぐ横には広々とした公園があり、子ども連れのお母さんがおしゃべりに興じている。テニスコートも
車が通らないというだけでこうも落ち着くのか……と思っていると、
(んんん? 何がどうしてそうなったの?)
ぱっと見では訳がわからなかったが、よく見てもなおのことよくわからない光景だった。
フェンシングのごとき構えをした
そして下げられた視線の先には、目をキラキラさせた茶トラ
無表情の美しい顔には
「ほ、ほ~ら、あそ~、び、ましょ~」
信じられないくらいぎこちない遊びのお
「にゃー?」
茶トラ
「い、いい、子、だね~、ほんといい子だと思います~」
(なんだこれ?)
「にゃー? にゃっ!」
「うひゃぅわっ」
茶トラが
「にゃ~? にゃ~」
「うぅ……遊びましょ……こっちに来ちゃだめ……」
甘えたがりの茶トラと、
「……えっと、何してんの?」
なるべく自然を
「────っ」
「あ……」
(ん? これは……おもちゃか)
「えっと……その、ごめん。それにしても、なんであんな不思議な
(そういえば、入学式の日も……)
「
「……うん、好き」
「えっと……入学式の日も、あの
「うん。……あの子、すっごい
「でも、思ったように遊ぶことができない……って感じ?」
整った
「
「……話、聞かせてもらってもいい?」
公園のベンチをちょいちょいと指差すと、
ベンチに
(なんだか
それなりに
「小さいときに、近所の公園の
「ふむふむ」
目の前で
「おばあちゃんからエサの入った
「ふむふむ、
「~~~~~っ」
「ちょ、待ってっ、鼻の下をくすぐるのは反則……くしゅんっ! ちょ、
顔を真っ赤にした
「私がエサの
「待って、なんかすげぇやな予感がする」
「
「うっぷす」
「その
「わかった、もういい、
目のハイライトが消えた状態でぷるぷるしだした
「あのときの光景が頭から
「文学的表現でトラウマを
顔の前でぶんぶんと手を
「そういうわけで……今も、
「なるほどなぁ……」
「
「……
もはや
「協力できるならしたいけど……。どういう
「あんまりアグレッシブな
あ、そうだ……とぽしょりとつぶやく。
「あのとき公園で見かけなかった種類……それこそ、
「ええと……うちで
「……どんな
空いた
「写真はだいたい毎日
「だいたい毎日って……」
「引いた顔すんのやめてくれる?」
ちょっとショックだった。
スマホのライブラリをすいすいと
「この子なんだけど」
先週末
「え、あ、え……?
「お、おう、お気に
(
このときはひよりが起きたあとに
『待ち受けにしてもいいけど』
『いや、それはちょっと』
『あぁん?』
とヤンキーのような
「ひより……ああ、妹のことなんだけど。ひよりももう帰ってきてるだろうな」
なんとはなしに言った言葉だったが、
(まさか……いやいやいやいや、まさかまさかまさかまさか)
頭によぎった可能性を
『言っちゃえよ、言っちゃえよ』
これで引かれたらどうする、いや、あくまで軽い提案というテイストで話せば……と、数秒のあいだに目まぐるしく考えた末に。
「えっと……うち、来る?」
「え? …………。……………………」
「無の顔になるのやめてくれる?」
スン……と無表情になってしまった。感情が読めないので
「べつに変なことは考えてないか「変態」食い気味に
「うちの妹と
「えっ。えっ、と、それ、は……でも、いや、えっと、そういうのも、やぶさかではないというか……」
「もし
「う……えっ、と……」
「軽い顔見せくらいの感覚でもいいし。あと、妹も
「ぅ、あぅ、
「忘れた
なんというめんどくささ……とは思うものの、こんなやりとりがだんだん楽しく思えてきた。
「そうか……じゃあやめとく? 残念だけど。ほんと
「あ、ぅ……」
さすがにやりすぎたか……と謝ろうとすると、
そろりと目を開け、
「い、行く……っ」
「カシコマリマシタ」
「なんで敬語……?」
不意打ちの言葉と仕草に色々とアレな想像をしてしまい、
(俺に気があるとかではまったくないにしても……これはひよりとコタローに感謝だな)
思いつつ、トークアプリでひよりに
『今から帰る』
数秒で
『
楽しげに文字を打つ妹の姿が目に
『なに、友達でも連れてくるの?』
『その通り』
『
小学生のときから付き合いがあるため、ひよりは
けれど、今日の俺は一味ちがうぜぇ……と我ながら
『いや、女子』
『え』
一文字だけ返ってきて、そこから十秒ほど待つ。
『それって例の?』
どうやら短いあいだに、ひよりの脳内で高速
『まあ、そんな感じ』
自分の功績ではないが、それでも勇気を持って
『え』
『ちょ』
『マジ?』
ひよりの
『うん、マジ』
『お兄、こういうイベントは最低でも一週間前には言ってもらわないと困るんだけど』
『こっちにも色々と準備というものがですね』
『え、そんなに? そんな気張らなくても……』
『ひよりとコタローを見たいらしく』
『え、あたしとコタローの身体目当てなの?』
『
『まあ……そんな感じらしい』
『はぁ……お兄の道のりはまだまだ長いねぇ』
『だまらっしゃい』
『とにかくわかった』
『コタローといっしょに待ってるとしようではないか~』
『(マンチカンがシャドーボクシングをするスタンプ)』
ひよりから送られた、やたらめったら
ちらりと横を見やると、
「ひよりに
「おうちまではどれくらいなの?」
「ここから歩いて十分もかからないくらい」
「あ、結構近いんだ」
「そうそう」
何気ない会話をしながらふたりで歩く。
(自宅までの道のりを、好きな女の子と歩いてる……!)
家につくまでのわずかな時間での話題は、ひよりとコタローのこと、それから
マンションの入口にたどりついたときは、ここまであっという間だったようにも、一時間以上過ごしたかのようにも思えた。
「ここの五階だから」
「え、あ、うん」
「……?」
急に歯切れの悪くなった
「
「……男の子の家に行くの、初めてだなって……さっき、気付いて……」
「あ、そ、そう、ですか……」
思わぬ報告に
エレベーターが開いたところで同じ階の住人とすれちがう。顔なじみのおばちゃんだ。いつも通り
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