第3話 プロローグ③


「構いません…!」


このままだとどうせ死ぬのだ。


「…わかりました。

 残すのは右腕でいいですか?」


「…はい。」


「わかりました。」


そう言うと、エテラナは目を閉じて蒼真に手をかざした。


蒼真の左腕が淡く光り、右腕へ移っていく。


「…成功です!

 左腕の分も、右腕が強くなりました!」


「あ、ありがとうございます!」


「でも、正直それでも厳しいと思います。

 ポイントの総数が普通の転移者の7割くらいですから…。」


「ポイント?」


「ああ、これは内部情報なので内緒ですよ?

 与える特典にはポイントがあって、転移者にはその中で調整してステータスやスキルを与えるんです。

 クソジジイのせいで、そのポイントが7割くらいになってるんです…。」


「腕だけにされたのに、7割って多くないですか?」


蒼真はクソジジイに対してはらわたが煮え繰り返っているが、生き残るために頭をフル回転させる。


「それは、私が与えられる特典があるからです。」


「ど、どんな特典をいただけるんですか?」


「あまり期待しないでくださいね。

 その特典をもらっても、転移者全員が死んでいるんですから…。」


そう言って女神が目の前に手をかざすと、半透明のゲームの画面のようなものが現れた。


「これです。」




***************************


【スキル】

 ・言語能力

 ・鑑定

 ・アイテムボックス

 ・マップ

 ・経験値取得2倍

 ・エテラナの加護


***************************




「え?

 めっちゃすごくないですか?」


「まあ最初はもっと少なかったんですけど、生存率がいつまでも0%なんで、頑張って増やしたんです。

 もうこれが限界ですけど。

 …これでも生存率は変わりませんでした。」


「…この『エテラナの加護』とは?」


「私の加護があると、スキルの習得・習熟が早くなります。

 剣を使えば【剣術】というスキルが習得できるのですが、普通の人が1年かかるところを3日くらいで習得できます。」


「す、すご…。」


「何度も言いますが、これでも生存できない世界なんです。」


考え込む蒼真。


「蒼真さん?」


エテラナの声が届かないほど考え込んでいる。


しばらくして蒼真は口を開いた。


「女神様、例えば【言語能力】を無くす代わりにポイント増やすことってできますか?」


「え!?

 できますけど、【言語能力】ないと向こうの世界でコミュニケーション取れませんよ?

 宿も取れないし、お店で買い物もできなくなります。」


「そもそもそこまで生き残れないんですよね?

 お願いします!」


「いいのかなぁ…。」


女神はそう言いながらも、蒼真の言う通りにする。


【言語能力】がなくなり、ポイントが増える。


「これを割り振るにはどうしたらいいですか?」


「ん〜、ではこの画面を編集できるようにしますね。」


「ありがとうございます!」


蒼真は増えたポイントを使って調整する。


ゲームのようなものなので、苦もなく操作することができた。


「あ!」


「どうしました?」


「これって腕だけが強くなると、体の他の部分が耐えられないんじゃ…?」


「…そうですね。

 …ポイントを使ってよければ、なんとかします。」


「お願いします!」


女神はかわいい顔でなにやら念じる。


「…ポイントが…、足りないです…。」


「うーん…。

 じゃあ…。」


蒼真は【マップ】を消してポイントを増やした。


「これでどうですか!?」


しかし、まだポイントが足りないようだ…。


それから3時間(地球基準)の間、蒼真とエテラナはポイントを調整し続けた。




「…できた!!」


「…本当にこれでいいんですか?」


「大丈夫です!」


「…まあこれならもしかしたら生き残れる…かも?」


「これでダメなら諦めが尽きます!

 女神様、ありがとうございました!!」


蒼真は深く頭を下げた。


「ああっ!

 そんな頭を下げないでください!

 神側の過失でご迷惑をおかけしたのですから…。

 

 蒼真さん、死なないでくださいね?」


「はい!

 本当にありがとうございました!」


エテラナはにっこりと微笑んだ。


「迷惑をかけられたのに、蒼真さんは優しい人ですね。

 …じゃあ、最後の特典を差し上げます。」


「本当ですか!?

 なにを…」


そう言いかけた蒼真の口をエテラナの瑞々しく可憐な唇がふさいだ。


「んっ…」


この世のものとは思えない柔らかく、それなのに素晴らしい弾力のある甘い唇から、蒼真に何かが流れ込む。


そして、スッと唇と唇が離れる。


「なにを…。」


あまりの衝撃に続く言葉が出てこない蒼真。


ファーストキスが女神のキスなのはヤバすぎた。


「ふふっ!

 恥ずかしいけど、特別ですよ?」


本来ならどんな効果があるのか聞きたいところだったが、童貞の蒼真にそんな余裕はなく、体がだんだんと透明になってきた。


「あ…。」


「じゃあ蒼真さん、生き残ってくださいね…。

 そういえばもうすぐ本来の周期で転移者が来ると思うので、協力してくださいね。」


「え…」


最後にサラリと大事なことを言われた気がするが、なにも聞き返すことなく、蒼真は異世界へ転移した。



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