親に失踪された可哀想な子供を演じろ
『あの人達は、いない方が面倒が少なくて済みます……』
冷めた目でこともなげにそう口にする琴美に、担任の大垣も学年主任の山崎も言葉がなかった。ここで、
『なんでお前はそうなんだ!? 親がいなくなったんだろう!? もっと気にしろ!!』
的に声を荒げたところで何になるというのか。それで琴美が、
『お父さんとお母さんに帰ってきてほしいです!』
としおらしく泣いたら問題が解決するというのか? 彼女の言うとおり、あの両親は琴美や一真にとっては負担でしかなかった。子供のためには指一本動かしたいとは考えず、子供のために支給された給付金さえ自分達の遊興に使い込んでしまうような人間だ。そんな人間が帰ってきてそれでどうなるというのか?
大垣も山崎も、その程度のことは理解できる者達だったため、琴美に、
『親に失踪された可哀想な子供を演じろ』
という趣旨の発言はしなかった。
それよりも、
「
と念を押す。しかしそれに対しても琴美は平然とした様子で、
「はい、それで構いません……」
こともなげに答えた。とは言え、学校としても、
「そうか。一応はそういう方針で対応させてもらうが、念のため、お兄さんからも話を伺いたいんだが、時間の都合はつけられるだろうか?」
と提案を申し出る。対して琴美は、
「兄にはそう伝えておきます……」
そう応えただけだった。
こうして話は終わり、琴美は課題を済ませるために図書室へと向かった。
そんな彼女を見送った大垣と山崎は、進路指導室に残り、
「相変わらず、超然とした生徒だな……」
山崎が正直な印象を口にすると、
「家庭環境が彼女にそうすることを強いたんでしょうね。感情的に反抗しようとすれば余計に状況が悪くなるでしょうから」
大垣が苦々しく応える。
二人はそれから、教頭と校長も交え、情報を共有した。
『釈埴家の両親が失踪したのは事実であるということ』
『釈埴琴美がその事実に動じていないということ』
『釈埴琴美がそのことで学校側に救援を求めていないこと』
『釈埴琴美としてはむしろこの状況を好ましいものと捉えているらしいということ』
について、確実に認識をすり合わせた。
教頭も校長も、
「学校側としてはできうる限りのサポートを行えるように準備だけは整えておきましょう」
と確認を取る。
幸いなのは、それが決して口だけでなかったということだ。琴美が必要とするのであればスクールカウンセラーの派遣も辞さないし、<養護教諭>すなわち<保健室の先生>とも情報を共有。琴美が気軽に相談できる体制を改めて整えることを確認したのだった。
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