地域に住む大人達の傾向が子供の行状にも影響する
どれほどロクでもない親であろうとも、突然失踪されて琴美が平然としていられるのは、兄の一真をはじめ、周囲の大人達がそれなりに頼りになるからだろう。
実際の生活は一真がいれば問題ないし、学校も丁寧に対処しようとしてくれている。問題を放置して状況が一層悪くなって取り返しのつかない事態になってから狼狽えるということがないのだ。
だからこうして超然としていられるというのもある。
実の親には恵まれなかったのは事実でも、
<それを補ってくれる大人>
の存在には恵まれていたのだ。
だから琴美自身、自ら問題を大きくするような真似はせずに済んでいた。
図書室で課題をこなす彼女を揶揄するような者もいない。そういう学校だった。
その事実を、<地域性>で説明しようとする者がいるが、それはすなわち、完全に、
『地域に住む大人達の傾向が子供の行状にも影響する』
というのを自ら認めているということだ。子供がどう振る舞うかは<環境>が大きく影響するという事実を裏付ける発言でしかない。
言い換えれば、
『<親>や<周りにいる大人>がどんな人間かによって子供がどんな人間になるかが決まる』
と言ってるのと同じではないか。琴美の通う学校でイジメがエスカレートしないのは、
『親をはじめとした地域に住む大人達がイジメを是とせずそれぞれが具体的に対処しようとする者達である』
からこそそうなるのではないか? それが<地域性>というものではないか?
琴美が通っているのは公立の高校であり、別に<元々育ちのいい子弟が通う学校>というわけでもない。ゆえに、そこに務める教師達も、他の地域の学校から赴任してきた者達も多い。いわゆる、
<ガラの悪い地域にある学校>
から来た者も少なくないのだ。にも拘らず、この学校にいる限りは、<イジメの疑い案件>の時点からちゃんと対処してくれる。
『朱に交われば赤くなる』
という言葉もあるように、基本的な体制がそうであれば、個々の教師もその方針に倣うというのが<人間の習性>というものだろう?
『長い物には巻かれろ』
という言葉はあまり好ましい意味では使わることのないものかもしれないが、実は良い方向に『長い物に巻かれる』場合もあると言えるのではないか?
かように、実の親には恵まれなかった彼女も、周囲の大人には必ずしも『恵まれていない』わけじゃない。この部分は、琴美自身の<努力>ではないのも事実なのだ。その上で琴美自身が、
<自ら状況を悪くするような振る舞いをしないという努力>
をしているからこそ、彼女は平穏でいられるのである。
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