進路指導室
かように、琴美自身はただただ平穏に過ごしたいだけではあるものの、学校側としては彼女のような生徒に状況の変化があるとなれば放置しておくこともできなかった。なので、
「
担任の
「……はい……」
琴美としては図書室で課題をしに行くつもりだったのだが、呼び出されては仕方ない。他の生徒達も、彼女には複雑な家庭の事情があることは薄々勘付いているので、それを理由に呼び出されたのだろうというのは誰もが察した。だからことさらあれこれ詮索する者もいない。『自分には関係ない』として各々がいつも通りに行動するだけだ。
そして琴美は帰り支度だけを済ませて進路指導室へと向かった。それが終わればすぐに図書室に行って課題を済ませ、そのまま帰宅するためだ。
「……失礼します……」
普段から何かとこうして呼び出されることの多かった琴美は、やはり淡々とした様子で進路指導室へと入ってきた。そこにはすでに大垣が控えていて、しかも学年主任の
『ああ……』
それを見た琴美は、状況を察した。彼女の推測を裏付けるように、席に座った琴美に、大垣が口を開く。
「実は、
との言葉に、
『やっぱりか……』
表情は変えずにそう思う。
「申し訳ないとは思ったんだが、お兄さんから聞いて、
本当に申し訳なさそうに口にする大垣に、
「いえ……いいんです。事実ですから……」
と応えた後、続けて、
「宝くじで一億五千万が当たったとかで、家を出ていきました『お前らの所為で台無しになった人生を取り戻しに行く』とか言って……」
とも、包み隠さず話す。両親が家を出ていくという、普通ならとんでもない出来事を、なんてこともなさげに告げる琴美に、担任の大垣も学年主任の山崎も戸惑いを隠せなかった。しかし彼女の家庭はそういうものだというのもある程度は把握していたので、
「それで、生活とかは、どうなんだ? できそうなのか……?」
聞きにくそうにはしながらも尋ねてくる。なのに琴美はそれこそ平然とした様子で、
「別に……今までと同じですから……兄と私だけで家のことはやってました……あの人達は、いない方が面倒が少なくて済みます……」
そう告げたのだった。
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