第26話 おなかま

「ここにします!」


部活を決めた私は結心さんを連れて部室前に到着する。


結心「…ここ?」


と、結心さんはとても嫌そうな顔で部室と教えてもらった図書室の奥にある資料室を見る。


愛「はい!湊さんが是非って。」


結心「なんで?なんであいつと同じ部活するの?」


愛「お菓子がいつもあるって言われて…。」


私は結心さんに嘘をつくのが少し嫌で合っていた目を逸らすと、結心さんが両手で私の顔を挟んで無理矢理目を合わせた。


結心「…別にいいけど、俺はなんの情報も売らないぞ。俺がここで生きるために集めたものだからこんなつまらない新聞に載せない。」


と、結心さんはそばにあった掲示板に貼ってある今週分の学内新聞を目線で指した。


結心「しかも、俺はあと3週間で卒業する。素人探偵も卒業する。愛はこの廃部寸前の新聞部に本当に入りたいのか?」


部員は湊さん入れて3人。


湊さんと不登校の1年生と籍だけ入れてもらっている2年生で構成されていて、活動をちゃんとしているのは湊さんだけと教えてもらった。


だからこの部室にはいつも湊さん1人で寂しそうだし、少しでも賑やかな部活動を私も味わってみたいなと思ったので廃部寸前だと分かっていても入りたいと思ってしまった。


愛「はい。2人が卒業したら私も辞めます。」


結心「…ただ、遊びたいだけなら入らなくていいんだぞ?」


愛「ずっと誰かと何かを一緒に作ってみたかったんです。だから入りたいです。」


私がそう言うと、結心さんは小さくため息をついてずっと私の顔を固定していた手を離した。


結心「分かったよ…。あと2号分しかないけどやるだけやろう。」


愛「ありがとうございます…!」


私はととくんと一緒に飛び跳ねて喜んでいると、資料室の扉が突然開いて湊さんがイヤフォンをつけたまま出てきた。


健吾「…っくりした。賑やかだったから久しぶりに誰か本を借りに来たと思ったよ。」


愛「入部します!」


健吾「え!?本当に?」


愛「はい!結心さんとととくんも一緒ですよ!」


健吾「…本当に?」


と、湊さんが結心さんの顔を見上げて返事を待っていると、結心さんは一度頷き私と入部することを伝えた。


健吾「やったー!とりあえず、みんなでお茶しよ!」


湊さんはとても嬉しそうに私と結心さんの腕を引っ張り部室に連れ込むと、少し埃がかかっていた椅子3つを雑巾で拭きあげ、私たちに席を用意してケトルでお湯を沸かし始める。


健吾「今日はマドレーヌ作ってきたんだー。」


愛「え?湊さん手作りなんですか?」


健吾「そうそう。お腹がぷくっと上がったからすごい美味しく出来てると思う。」


そう言って湊さんは北側の窓際で冷やしていたお菓子を机の上に置くと、席に座っている私たちに1つずつ手渡してくれた。


愛「いただきまーす。」


結心「…いらない。」


私が一口食べると同時に結心さんは湊さんのマドレーヌをそっと机に置いてしまった。


愛「なんでですか?美味しいですよ?」


結心「…他人が作ったもの、…信用出来ないから。」


と、結心さんはとても辛そうな顔をして呟いた。


愛「でも…、今まで一緒にいろんなとこでご飯食べたじゃないですか。」


結心「それは絶対的に安心な所だったから。こいつは俺のこと好きじゃないし、妬んでるから食べない。」


愛「じゃあ私が食べたの食べます?」


結心「…いい。」


そう言って結心さんは私たちの間にいるととくんの耳をいじって暇を潰し始めた。


健吾「…毒なんか入ってないよ。」


結心「言葉ではなんでも言えるから。俺がそういう存在ってことは知ってるんだろ?」


と、結心さんはととくんを自分の膝の上に乗せると、お茶を淹れる湊さんを少し睨むように見上げた。


健吾「知ってるけど…、それは今と関係ないよ。」


結心「お前が求めてる情報の根源には関係ある。そういう生半可なことしてるから求めてる物が手に入らないんだよ。」


健吾「けど…」


結心「俺はあそこで神扱い。俺が『湊 健吾を刺せ』って言ったら俺の“家族”全員がお前のことを殺しに来る。それでもまだ友達ごっこしたい?」


健吾「…俺はただ自分の友達を救いたいだけ。」


結心「あいつは俺で救われた。だから俺についてくる。」


健吾「なんで…、お前なんだよ…。」


そう悔しそうに呟いた湊さんはとても悲しそうな顔をしてその場にしゃがみ込んでしまった。


結心「俺とあいつは仲間だったから。だからお互いの復讐のために手を取り合ってる。」


健吾「仲間…?」


と、湊さんは涙いっぱいの顔で結心さんの顔を見て首を傾げる。


結心「そう、仲間。これで俺とお前の友達がしたいことが分からないのなら、本当にお前は役立たずの友達だったってこと。」


そう言って結心さんは膝に置いていたととくんを席に戻すと、自分が作った部活の活動があるからと言ってどこかへ行ってしまった。


愛「…湊さん、調べに行きますか?」


健吾「いい…。分かったから。」


湊さんはずっと悔しげに涙を流していたけれど、私とととくんにホットティーを作ると自分が調べたという結心さんの情報をまとめ始めた。


これ以上協力出来ない私は湊さんの友達がまた湊さんと仲が良くなりますようにと願いながら、ととくんと一緒にお茶タイムを過ごした。



環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様

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