第25話 Secret Time
「行っちゃったね…。」
そう寂しそうに呟いた愛は俺を抱いて、葉星に言われた通りすぐに布団の中に入った。
愛「私は結心さんが作った部活に入りたいのになんで知らない人が作った部活にしなきゃダメなんだろう。」
とと「参加資格がないとダメらしいからね。多分、体力勝負なのかも。」
愛「じゃあちょっと筋トレしよっかな。」
とと「いいね。俺、数数えとくよ。」
俺は愛が慣れない腹筋で苦戦しているのを眺めながらゆっくりと数を数えていると、玄関の扉がノックされた。
愛「…結心さん?」
とと「朝まで帰らないって言ってたよ?」
愛「でも、忘れ物したのかも。」
そう言って愛は玄関に走って扉を躊躇なく開けると、叫び声をあげたけれど口元を押さえられたのか苦しそうな声をする。
俺は何事があったのか心配で動こうと思ったけれど何も出来ずただ布団の上にいると、誰かが俺を抱き上げた。
愛「びっくりした。来るなら言ってくださいよ。」
と、愛は俺に侵入者の顔を見せるように体を真正面に向けると、そこには愛を怪我させた探偵が立っていた。
健吾「内緒で来たから言えないんだよ。というより、君はここに住んでるの?」
愛「君じゃなくて愛って呼んでください。」
健吾「あ、ごめんなさい。愛ちゃんはここに1人暮らし?」
愛「元々は結心さんが住んでて、今は一緒住まわせてもらってます。」
健吾「え!?高校生で同棲生活?」
と、探偵はブレザーのポケットから手のひらサイズのメモ帳とペンを取り出し、胸元から細長い機械を出して赤いランプを点灯させた。
愛「私たちの家がなくなったのでお借りしてる形です。」
健吾「私たち?他にもいるの?」
愛「私とととくんです。」
そう言って愛は俺を紹介すると探偵は俺と目を合わせて数秒固まると、目線を愛に戻した。
健吾「…ととくんは愛ちゃんの友達?」
と、探偵は聞きながら赤いランプを消し、細長い機械をポケットにしまった。
愛「そうですよ。幼馴染なんです。」
健吾「ほぇー…。イマジナリーフレンドみたいなもの?」
愛「いま…、え?」
健吾「それかペットが飼えないからとか?」
愛「…ととくんは私の家族みたいな存在です。」
そう言って愛は探偵に背を向けて布団の中に潜った。
健吾「もう寝るの?」
愛「寝たら結心さん帰ってくるので。」
と、愛は俺を強く抱きしめて目を力強く瞑る。
健吾「けど…、まだ19時だよ?ご飯は?」
愛「ちょっと前に結心さんと食べたのでいいです。」
健吾「ちょっと前って言っても、15:28に行った肉まん屋で半分こしていたあんまんだけじゃない?流しに使用済みの食器は見つからないし、この部屋自体に食べ物の臭いはチョコくらいしかないよ。」
愛「…なんであんまんのこと知ってるんですか?」
愛は不審そうに探偵に顔を向けてそっと起き上がると、探偵と距離を取るように窓際の壁に背中をつけて座った。
健吾「そ、それは…。」
とと「こいつ、ストーカーだよ。愛、逃げよ。」
愛「え!?ストーカーなの?」
健吾「ち、違う違う!落ち着いて!」
と、愛が立ち上がろうとした瞬間、ストーカーは愛の腕を掴み力づくで布団の上に座らせた。
健吾「俺は葉星 結心の事について調査してるだけ。だから愛ちゃんのストーカーじゃない。」
愛「でも、結心さんのストーカーじゃないですか。」
健吾「それも違うって。俺は葉星 結心が運営してる組織の実態を知りたいだけ。だからわざと軽音部から新聞部に変更して今追ってるんだ。」
愛「…組織って?」
健吾「裏部活の
ミーバイユニップ…?
葉星のメビュープとは関係ないまた別の団体なのか?
愛「なんでそんなに知りたいんですか?」
健吾「…俺の友達がそこで活動してるから。」
愛「じゃあ友達に聞けばいいじゃないですか。」
健吾「それが出来ないから自分で調べてるんだよ。友達はその部活に入ってから俺とも誰とも連絡取らずにその活動に打ち込んじゃってる。」
そう教えてくれた探偵はゆっくりと愛から手を離し、顔を俯かせる。
健吾「あいつ、親も兄弟もいなくなったから1人で寂しいと思うんだ。だからすごく心配で俺を頼ってほしいのにあんな訳分からない奴とつるむようになっちゃった。」
愛「結心さんはいい人です。だから大丈夫です。」
健吾「俺は自分が見て感じたものしか信じない。だからこうやって情報を集めてる。愛ちゃんの前ではいい人かもしれないけど、他の人の前では別の顔を見せてるかもよ。」
と、探偵は少し怒った言い草で言葉を吐き捨てて、立ち上がった。
健吾「だけど、愛ちゃんからの情報も欲しいからご飯買ってくるね。」
愛「別に…、いらないです…。」
健吾「ダメ!しっかり食べて大きくならないと!」
そう言って外に飛び出していった探偵を窓からそっと見送った愛は布団に潜り込んだ。
愛「お母さんにはこれ以上大きくなるなって言われたよ…?」
とと「もうお母さんはいないんでしょ?」
愛「…そうだった。」
とと「俺は愛が小さくても大きくても、そばにいるから大丈夫。愛が食べたい時にご飯は食べればいいよ。」
愛「分かった。」
愛は少し悲しそうな顔をしながら目を瞑り、また扉を開く音を待つように寝息を立て始めてぐっすりと眠りに入ってくれた。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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