第21話 欲求欲望

…最悪だ。


あいつに愛の名前も、顔も知られた。


ニーナといる日は昼までダラけてるはずなのに、俺が余計なことを言ったせいか本家から2時間近くも距離が離れているあの分家にわざわざ早朝に来るとは思わなかった。


俺は自分の言動に反省しながら冬休みに入って、ずっと俺のアパートに入り浸っている愛ととと丸と一緒にゆったりとした年越しを過ごす。


愛「20時からお笑いフェスやるらしいです!大熱唱歌合戦も捨てがたいですがどっち見ます?」


結心「…愛は人生のタイムリミットが分かってたら何する?」


愛「タイムリミット?」


結心「そう、タイムリミット。」


俺はだらついていた布団から起き上がり、不思議そうに首をかしげる愛にまだ固まらない決心を固めてもらおうとする。


結心「例えば、今年の3月末までって決まってたら愛は何したい?」


愛「んー…、ととくんと結心さんと一緒にお花見したいです。」


結心「梅?」


愛「桜です。」


結心「桜って3月に咲くっけ?」


愛「…分からないです。」


と、愛は少し困惑した表情でポツポツととと丸と何か話しながらやりたいことの候補を決める。


けど、俺にはこれといった自分のためにやりたいことは無くて毎日のようにあの協会の終わらせ方を考えてしまう。


だから俺しか知らない家に愛ととと丸を招いたけれど、あんまりいい薬にはならなかったっぽい。


愛「あ…。」


突然、愛は何か思い出したのかずっととと丸と話していた口を止めた。


結心「どうした?桜咲くって?」


愛「…違います。えっと…デート、したいなって思って。」


結心「…3人で?」


愛「ひとり…、ずつ…。」


俺は初めてとと丸と離れてみようと思ってくれた愛の背中に抱きつく。


結心「愛は俺とどんなデートしたい?」


俺がそう聞くと愛はとと丸の垂れ耳をクルクルと丸めて声が入らないように自分の手で蓋をした。


愛「…ととくんと手を繋ぐとずっちゃうので、ちゃんと手を繋いでデートしたいです。」


結心「いいね。」


俺は愛の手に自分の指を1本絡めて予行練習をする。


愛「ととくんは偏食だからいつも半分こ出来なかったので、パフェ半分こして食べてみたいです…。」


結心「いちごパフェ食おうか。」


俺は愛の首元に軽く噛みつき、愛の可愛い顔を見ようとすると愛は少し肩を驚かせただけで少し顔を俯かせた。


愛「……ちゅーは恋人になってからで。」


愛は耳まで真っ赤にさせて恥ずかしそうにして俺が絡めていた1本の指を握る。


それに理性失いかけの俺はそのまま愛を布団の上に押し倒すように、抱きついたまま布団の上に落ちると愛はびっくりした顔をこちらに向けた。


愛「ど、どうしたんですか。」


結心「こっち見るな。するぞ。」


愛「だ、だめですっ。」


と、愛は慌てて顔を前に戻したけれど、俺は不完全燃焼過ぎて思わず愛の耳裏に鼻を埋めて気持ちの高ぶりを抑えようと必死に欲求と争う。


愛「くすぐったいです…。」


結心「黙ってろ。襲うぞ。」


愛「…ご、ごめんなさい。」


離れればまだこの高ぶりが今より落ち着くのは分かっている。


けど、理性が利かないほど自分の体が愛を求めてしまっている。


全部理解は出来てるけど、夢から覚めきれてない脳ミソお姫様の女に訳が分からないまましても怖がられるだけ。


だから、俺の鼻息だけでくすぐったそう震える体も、俺の指をずっと締め付ける手も、俺の腕を潰しているこの細いくびれも、今は離さないと。


俺は長い格闘の末、愛から自分の身を離しトイレに駆け込んでやっとのことで自制する。


愛「結心さーん。調子悪いんですか…?」


と、心配している声で愛がトイレ前から話しかけてきた。


結心「うるさい。あっちで待ってろ。聞かれたくない。」


俺がそう言い放つと愛は寂しそうな足音を立てて部屋に戻ってくれた。


きっとあそこで自分の気持ちに素直になり過ぎていたら、自分の父親と一緒になっていた。


だから、不完全燃焼でも今はこれでいい。


そう自分に言い聞かせて気持ちの膿を出し切り、その膿をトイレに流して愛の元へ戻った。



環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様

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