第22話 Fly Time
年が明けて、新学期が始まった。
あの日から愛は葉星のアパートに住むようになり、元の家には寄り付かなくなった。
まあ、それで良かったと思う。
あれから愛の母親は愛が帰ってきた瞬間、服の匂いを嗅いでなにを食べたかピタリと当てるとどんなに少量しか食べてなくても夜ご飯も朝ご飯も昼ご飯の食費さえ出さなくなった。
それで愛の体力は日に日に消耗しているのに、自分が怠っていた家事を愛にさせ、それが気にくわないと愛の部屋がある2階の窓から愛のお気に入りの物をどんどん捨てていった。
俺もその仲間入りしかけたけれど、愛が必死の抵抗で守ってくれたおかげでなんとかなった。
けれど、その代わりに小学生からずっと使っていたベッドが切り刻まれてしまって海に行く日までずっと畳の上で切り刻まれた掛け毛布を集めて暖房がない部屋でなんとかやり過ごしていた。
そんな時に気晴らしの校外実習が先生の勝手な判断で行けなくなって、愛は自暴自棄になってしまった。
そんな愛とずっと一緒にいたけれど、俺はただのぬいぐるみでみんなが言う本当の友達ではない。
きっと、葉星のことをそう言うんだろうけれど、やっぱり不思議な行動が多い葉星は信用には値するけれど信頼まではまだ届かない。
今日もそれが届かないまま、葉星は愛と俺と一緒に何十年ぶりという日食を一緒に見るとイベントを企画し始めた。
結心「この日食をきっかけに“
愛「花畑作るんですか?」
結心「…まあ、そんな感じ。」
愛「いいですね!見てみたいです!」
結心「愛が見たいなら頑張るか。」
そう言って葉星はため息のように長く深呼吸をして、日向ぼっこしていた屋上の原っぱに倒れるように寝転がった。
結心「花畑はやりたいことリストの1番最後な。」
愛「分かりました!じゃあ今日はなにしますか?」
と、愛は自分のやってみたいことをまとめた紙を葉星に見せて、今日の遊びを決める。
結心「回転寿司行くか。」
愛「わ…!楽しみです!」
そう言って愛は俺にやっと初めて回転寿司に行けることを嬉しそうに報告してくれると、葉星が愛を呼んだ。
結心「飛行機しよ。」
愛「…飛行機?」
結心「俺の上に乗っかって愛が飛行機やんの。」
葉星はそう言うと、愛を呼ぶように体制を構えて目で愛を誘う。
すると、愛は俺を座り直させて自分の体重を葉星に任せるように素直に体を倒し、葉星の上で飛んだ。
愛「うわー…ぁ。なんだか懐かしい。」
とと「一緒にやったよね。」
愛「あ!そうだったね。一緒に…」
結心「…どうした?」
急に涙をボトボトと自分の顔に落とし始めた愛を葉星は着陸させてそのまま抱きしめる。
愛「おじいちゃんとしたの思い出した…。」
結心「愛はおじいさんのこと、好きなんだ。」
愛「はい…。ずっとそばにいてくれたから…。」
結心「とと丸も同じくらい一緒にいるけど、どっちの方が好き?」
愛「…え?」
愛は俺の代わりに抱きしめていた葉星の体から少し離れて顔を見合わせた。
結心「おじいさん、とと丸、もしくは俺、誰が1番好き?」
その質問に愛は俺と目を合わせてじっと見てきたけど、俺はなにも言わずただ愛の気持ちを素直に言ってほしくて口出しはしなかった。
愛「みんな…、好きです。」
結心「俺は平等の愛は好きじゃない。俺だけ好きって言ってくれる愛が好き。」
愛「…そういうの、分かりませんっ。」
と言って、愛はまた葉星の胸に顔を置き、まばらなコンクリートのヒビをぼーっと見てなにかを考える。
結心「俺は愛が好きだから一緒にいるよ。」
そう言って葉星は愛の頭の雲に触れるように優しく撫でて、片手で強く抱きしめる。
そんな2人を見て俺はもう少しでいなくなってもいい存在になれるんじゃないかとまた期待してしまった。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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