第13話 Chicken Time

とても煙たい居酒屋の2階へ上がったとても生活感がある個室で愛は葉星とご飯を食べに来た。


けど、俺は相変わらず何も食べられないので愛の隣で2人の食べる様子を眺める。


愛「んー…!炭火焼きの焼き鳥初めて食べました!」


結心「うまい?」


愛「うましいです!弟子入りしたいくらい!」


「お話中失礼します。お食事お持ちしました。」


と、下で焼き鳥を焼いていたおじさんの声が襖の向こうで聞こえた。


すると、葉星はだらけた体制を正して部屋のど真ん中に置かれているテーブルの1番奥の席に座り直し、おじさんを部屋に入れた。


「お待たせしました。お飲み物はよろしいんですか?」


と、おじさんは葉星の目の前に全ての品物を置きながら質問した。


結心「いらない。」


「…そうですか。他にご要望はありますか?」


結心「らぶ子、他に食いたいのある?」


愛「今のとこは大丈夫です。」


結心「なんかあったらベル鳴らすから。」


と言って葉星は自分のすぐそばにあるベルを顎で指し、目を煌めかせるおじさんを追い出そうと鋭い目つきをする。


「あ、あの…」


結心「…分かったよ。こっちこい。」


葉星は少し嫌そうな顔をしておじさんを隣に呼ぶと、片手をおじさんのおでこに添えた。


結心「蓮華れんげが花開く春季しゅんきの暖かな幸せが貴様に訪れることを望み、認め、譲渡する。」


そう言って葉星は自分で持ってきていた水筒の中身を口に含み、おでこに置いていた手を取ると霧を撒くようにおじさんの顔へ口に含んだ何かをかけた。


「ありがとうございます…!後ほどハーベン様のお控え宿にお供え物をお送りさせて頂きます。」


と、霧を顔に浴びてびしょ濡れになったおじさんはとても嬉しそうにして顔を拭かないまま下の階に戻っていった。


結心「…らぶ子、ジンジャーエールうまい?」


愛「え?…あ、まだ飲んでないです。」


結心「飲んで。」


愛「は、はいっ。」


愛にジンジャーエールを飲むように促した葉星は少し愛の顔色を確認すると、口直しのためなのか愛のジンジャーエールを1口飲んだ。


愛「なんで自分の分頼まないんですか?」


と、愛は俺もずっと思ってたことを聞いてくれた。


結心「…そんないらないし。」


愛「結心さんってあんまり飲み物口にしないですよね?水分足りてます?」


そう言って愛は自分で飲んでいたジンジャーエールと学校で飲み残していたお茶を葉星の前に置いた。


すると、それを見た葉星は生唾を1度飲み込むと愛のお茶を一気に飲んだ。


愛「そんなに喉乾いてるなら頼めばいいじゃないですか。」


結心「いや…、それは出来ない…。」


愛「なんでですか?」


結心「…水は、生物を生かしも殺しも出来るから。」


愛「…どういうこと?」


と、愛が俺を見て首を傾げるけど俺も分からず答えられない。


けど、1つの案として思いついてものはあった。


でもそれは愛の事を傷つけてしまう可能性があるから簡単には口に出せない。


結心「ごめん…。」


と、俺が考えている合間に葉星がとても気まずそうな顔をしながら土下座した。


結心「愛に全部毒味させてた。今、信用してるのは愛ととと丸、ニーナしかいない。」


俺の案は当たっていたけど、俺の名前もリストに入れてくれていた葉星に愛は嬉しそうに目を輝かせる。


愛「いいですよ。みんながみんないい人じゃないのはととくんに教えてもらったので、結心さんの気持ちも分かります。」


愛がそう言うと葉星は顔を上げ、少し潤む目を愛に向けた。


結心「俺は愛を殺したいわけじゃない。けど、どうしても…。」


愛「大丈夫です。今度は2つ飲み物頼んでくださいね。」


と、愛は葉星に優しく笑いかけ、毒味役をさせていたことを怒らずにまた焼き鳥を食べ始めた。


それを見た葉星は愛の隣に座り、腰を抱きながら愛の手から焼き鳥を貰う。


それに恥ずかしそうに照れる愛だったけれど、初めて信用出来る友達が出来たことが嬉しいらしく俺のことなんか眼中に入れず楽しんでくれた。



環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様

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