第12話 不能理解
怪我が治ったとと丸を抱きしめている愛と一緒に俺はそんなに興味がない文化祭の出店を回る。
愛「あ!焼き鳥!結心さん、鳥好きですよね?」
と、さっきまで泣きじゃくっていたとは思えない愛は元気に出店のフードを吟味する。
結心「金は出すから好きな分買え。」
愛「え!?いいんですか!」
結心「とと丸怪我させたお詫び。今日は全部奢るから。」
愛「ありがとうございます!やったね、ととくん!ネギまとモモと…カワもいいね!」
俺は何度もとと丸の声を聞こうとするけれど、どうしても愛にしか聞こえないみたいでたまに会話がずれることがある。
それは俺の耳が普通の人間と違うからだと思っていたけれど、身体的に問題のないニーナもそうらしい。
だからとと丸の声は愛にしか聞こえないし、理解してあげられない。
そんな愛に似た人を遠い記憶で知っているからこそ、俺はあの日声をかけたけれどこれからどうすればああならないのかが分からない。
愛「結心さんも食べます?」
と、どうすればいいのか分からない愛は呑気な顔で俺に皿に乗っている肉厚焼き鳥を見せた。
結心「デブ持ち上げて腕上がらないから食わせて。」
愛「はいっ。」
愛はとと丸を器用に抱きしめながら俺に焼き鳥を食わせて目を輝かせる。
愛「コンビニのより美味しいですよね!」
結心「まあな。けど、俺の知り合いのとこの方が美味しい。」
愛「焼き鳥屋さんですか?」
結心「居酒屋で色々メニューあるけど、売れるのは焼き鳥だけの店。行く?」
愛「行きたいです!」
結心「じゃあ明日な。とと丸が大丈夫そうなら行こ。」
愛「はい!けど、見た感じ大丈夫そうです…。」
と、愛は少し引き締まったとと丸のお腹を撫でながら一口焼き鳥を食べた。
結心「縫い目の甘いとこが1日経つとほつれたりするんだ。だから一応様子見。」
愛「そうなんですね…。今日はガーゼ貼ってあげるね。」
愛は少しきつくとと丸を抱きしめると最後の一口を俺の口に入れた。
愛「裏文化祭?の会場も行ってみたいです。」
結心「あー、じゃあ行くか。」
俺は愛ととと丸を連れて学校の情報がたくさん集まる女子更衣室の隣にある物置に入り、覗き穴の蓋を外す。
愛「何してるんですか?」
結心「あー…、ここはダメだ。まだ役者が来てない。」
俺は情報源の人間がいなかったので次に体育館裏に回り、鍵を壊しておいた地下倉庫の細い窓を開けてみる。
すると、実行委員のミネ先生と生徒がこちらに気づかず熱めのキスを何度もしていた。
俺はそんな2人を無音カメラでしっかり証拠を撮り、静かにしていた愛に手招きする。
結心「何見ても声を出さない約束な。」
愛「はいっ。」
俺は念のため、愛の口元に軽く手を添えながらそれを見せると案の定声を漏らしかけたので口を押さえながらその場から離れる。
結心「声出すなって言っただろ。」
愛「だ、だって、ミネ先生のズボンが急に落ちたから…。」
…もっといい蜜撮り逃したな。
俺は愛を一旦置いておっぱじまった証拠を撮ってから愛の元へ戻ると、愛は口を尖らせて拗ねた顔をしていた。
結心「つまんない?」
愛「劇とか短編映画とかそういうものだと思ってたのでちょっとびっくりしてて…。」
結心「現実に起きてるリアルストーリーを今さっき覗いただけだよ。劇も映画もそんなに変わらないよ。」
愛「そうなんですかね…。」
結心「嫌なら保健室戻る?俺は軽く情報収集してから戻るけど。」
愛「…どうしよ。」
と、愛が小さく呟くと少し間が空けて、そうだねと愛は言った。
結心「これからサッカー部の部室観に行くけど、どうする?」
愛「私、ちょっと疲れたのでととくんと一緒に保健室でお昼寝してます。」
結心「…そっか。じゃあニーナの腹に溜まるもの何か買っといて。」
愛「分かりました!」
そう言って愛は俺に手を振りながらとと丸と一緒に保健室に戻っていった。
俺は愛と出会う前の懐かしい日々を少し思い出しながら新着情報をたくさん手に入れ、学期末テストに供えた。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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