第14話 おそとへ

「ととくん、ハーベンってなんだろうね。」


私は結心さんの口から霧をかけられたおじさんが言っていたことが気になり、色々携帯で調べてみるけど検索にはそれらしきものは引っかからない。


とと「葉星のあだ名とか、ミドルネームとか?」


愛「ミドルネームってなに?」


とと「旧姓とか、先祖の名前とか、宗教の洗礼名とか苗字と名前の間に入れるらしい。」


愛「ととくん、物知りだね。」


とと「まあ、本は好きだから。」


そうやってととくんと色々意見を交わしあっていると、お母さんが私たちを食事に呼んだ。


私はととくんを連れていつものようにまだ帰ってこないお父さんの席にととくんを座らせて、自分の席につく。


愛「今日はサラダだけなの…?」


私は大きなお皿1つにレタス1個分かと思われるレモンとオリーブオイルだけのシンプルな味付けのサラダを目の前にして、自分だけ唐揚げを美味しそうに食べるお母さんに聞く。


母「あなた、少し太ったでしょ。成長期だから何食べても口は出さないけど私は調節させてもらうから。」


愛「…でも、1個くらい唐揚げ食べたい。」


母「何言ってるの。デブは黙って草食べてなさい。」


…そんなに太ってないのに。


太ったとしても最近体の調子がいいからきっとこのくらい食べた方がいいのにお母さんは少しむくんだだけの私にサラダを出す。


そういうお母さんだから冷蔵庫には最低限の食材しかなくて、一切冷凍食品や加工食品を入れていない。


だけど、私は知ってるんだ。


お母さんが今食べてる唐揚げも、ここ最近よく食べてる“手作りアイス”もお母さんが嫌いな添加物いっぱいなの。


だって、キッチンのゴミ入れに冷凍の唐揚げの袋が1つ入ってるのがここからでも見えるし、私が少し早くお風呂から上がると見かける大きなバケツに入ったバニラアイスだってお皿に移しただけで手作りとは言えない。


そういう嘘つきお母さんだから私は話す気も子どもの時のように仲良くする気も起きなくて、パパッとサラダを胃に入れてととくんと自分の部屋に戻る。


愛「…私も唐揚げ食べたいよ。」


とと「今日は少し塩分取りすぎたのかもね。明日はきっと大丈夫。」


愛「けど、あの唐揚げは食べれないよね。」


とと「俺は別に食べたいと思わないけど、愛が食べたいならコンビニで買ってランチの時に食べればいいじゃん。」


愛「学校に電子レンジないもん。」


とと「んー…、葉星に唐揚げ食べたいって頼む?」


愛「結心さんがご馳走してくれるから結心さんが案内するお店しか行きたくない。」


私がととくんと唐揚げ論争をしていると自分の部屋の扉が殴られた。


母「毎晩毎晩うるさいわよ。1人でいるなら黙ってなさい。」


愛「…電話中。」


母「あんたなんかに電話する友達いないでしょ。また私に嘘つくの?」


と、お母さんは鍵がかかっている扉を乱暴にこじ開けようとしてきたので私は自分で増やした10個以上の鍵を掛けてどっちの扉端にも蝶番をつける。


母「…ったく、このボロい家も、嘘つき女も嫌い!」


そう叫び捨てたお母さんの声はととくんが私の耳を押さえてくれた手を貫通してしまうほど大きい声だった。


愛「…ととくん、おそといきたい。」


とと「今日は遅いよ。明日にしよう?」


愛「……お水持ってくるの忘れちゃった。」


とと「和子が仕事行ったら取ればいいよ。」


愛「…早く行ってくれないかな。」


私はととくんの胸に抱きつきながらお母さんが夜の仕事に行く時に出す雑な玄関の音が聞こえるまでしばらく眠ることにした。



環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様

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