第5話 もぐもぐ
結心さんのごはんの食べ方にはびっくりだ。
食べ進めるたびに腰を滑らして牛丼半分になる頃には背中半分しかない背もたれに首を置くようにして寝半蔵なりながら食べるし、食いにくいって言って犬食いに戻っちゃうし、ぶすっと顔で暇そうにするし、なんで私たちをランチに誘ったんだろう?
結心「なんで俺と飯食ってくれんの?」
愛「え…?結心さんが誘ったからですよ?」
私がしたかった質問を何故か結心さんがしてきて私が首を傾げると、結心さんは小さいパックに入っていた紅生姜を私の日の丸弁当に乗せた。
結心「なんで俺と喋ってくれんの?」
愛「結心さんが話しかけてくれたからじゃないですか。」
私は結心さんの質問の意図が分からなすぎて目の前に起きている事をただただ言語化するだけのお話ロボット気分になる。
結心「じゃあ俺がらぶ子と2人で遊びたいって言ったらとと丸は家に置いてくんの?」
愛「え…?」
結心「とと丸もたまには1人でいたいって思わないの?」
私は結心さんの質問責めに答えられず、ととくんの方に目を背けると、ととくんは目を伏せて顔を俯かせていた。
やっぱり1人は嫌だよね。
だから私としか話さないんだもんね。
愛「私はととくんの親友なのでいつも一緒にいたいんです。だから結心さんと遊ぶにしてもととくんを連れてきます。」
結心「…そっか。じゃあ明日からも一緒に昼飯食うぞ。」
愛「分かりました。でも、席取りは自分でしましょう?」
結心「なんで?暇人にやらせようよ。」
と、結心さんは私の提案にきょとんとした顔の口元にご飯粒をつけたまま見つめてきた。
愛「お昼時間はみんな忙しいですよ。屋上はどうですか?」
結心「…あそこ、非公認体操部のヤリ場だけど?」
愛「部活…?」
結心「まあ、いっか…。俺のクラス、屋上に続く階段の真ん前にあるクラスだから行く前に呼んで。」
愛「分かりました!」
私は残っていた白米と紅生姜を胃に入れて水筒で持ってきていたお茶を飲んでいると、口を離した瞬間結心さんが水筒を取って水分補給し始めた。
そんなに喉が乾いてたら教えてくれればよかったのに。
そう思っていると、ととくんがあと5分でお昼休みが終わると教えてくれた。
愛「そろそろ教室戻らないとです。」
結心「授業でんの?」
愛「え?」
結心「遊びに行こうって言ったじゃん。」
とと「ダメだよ。ちゃんと授業受けないと怒られるよ。」
愛「う、うん。そうだね。」
結心「じゃあ行こ。」
そう言って結心さんは私がお弁当箱をまとめたと同時に私とととくんの手を持って階段を下り始める。
けれど、結心さんは自分のクラスと私たちのクラスがある階も降りて玄関へ向かい出す。
愛「ち、ちょっと待ってください!行くって言ってないです。」
結心「え?『うん』って言ったじゃん。」
愛「それはととくんに返事しただけ…。」
私がそう言うと結心さんは昨日のように眉を寄せて頭をかいた。
結心「らぶ子は遊びたい?勉強したい?どっち?」
そう言って結心さんは私の俯いた顔を覗き込むように聞いてきた。
愛「…遊びたいけど、授業に出ないとノートを見せてくれる人がいないから困るんです。」
結心「ノート見せてくれる奴がいればいいの?」
愛「んー…、まあ、そういうことになりますね…。」
結心「それなら明日の俺に任せて。だから今日遊ぼうよ。」
愛「…荷物は?」
結心「放課後になったら持ってきてもらうから。」
結心さんは私のお弁当袋を下駄箱に詰め込むとそのまま靴を履かせて駐輪場に行き、カゴなし自転車の鍵を開けた。
結心「らぶ子たちはチャリ通?」
愛「バスです。けど、最近は歩きです。」
結心「家はこっから歩いてどのくらい?」
愛「2時間くらい…。」
結心「なんでバス乗んないの?」
愛「…怒られるの嫌だから。」
私はととくんとバスの中で少しお話しをしてただけで怒られてしまったことを思い出し、足元に目線を俯かせていると横から私をすくいあげるようにととくんが抱きついてきた。
結心「とりあえず今日はらぶ子の家までサイクリング。3人乗り初めてだからちゃんと腹掴んどいて。」
と、結心さんは自転車にまたがると私とととくんに目を向けて後ろの荷物置きを軽く手で叩いた。
私も初めて3人乗りするので、ととくんと一緒に結心さんのお腹にしっかりと掴まり抱きつく。
結心「行くぞー。」
とと「ちゃんと俺の手持っといて。」
愛「うん。」
私はととくんと結心さんに抱きついて、初めて学校をサボって遊びに行くことにした。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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