ニャハハハ島 ~妖精たちが笑う島~
桜庭ミオ
0 ニャハハハ島に、テンキン!?
「ツムギー!」
夜。
お父さんの大声と共に、ドアがいきおいよく開いたので、アタシはビクッとしてしまった。
「もうっ! 開ける前にノックしてよっ!」
アタシが怒ると、お父さんは、「わるいわるい。これを言うために、会社から急いで帰ってきたんだ。お母さんに話すのに、すこし時間がかかったがな」と言って、ガハハと笑う。
「なにかあったの?」
不安な気持ちになったアタシに、お父さんは笑って答えた。
「ニャハハハ
「テンキン?」
「ああ。お父さんは先に引っこすけど、ツムギは、お母さんといっしょにきなさい。5年生が終わってから。ニャハハハ島はな、すごいんだぞー。妖精が、うじゃうじゃいるらしいんだ。大人が行っても、見えないらしいんだが、子どもには、妖精が見えるらしいぞ! しかも、島で育つと、大人になっても、妖精が見えるんだそうだ」
「お父さん、なに言ってるの?」
つかれてるのかな?
「フフフフフフッ。お父さんも見えたらいいなぁ。楽しみだなぁ。ケットシーもいるらしいしなぁ……」
ブツブツ言ってる。ダイジョウブかな? 妖精なんか、いないのに。
♢
海の匂いと、強い風。
フェリーから降りると、「3月なのに暑いわね。島だからかしら? 日傘を持ってきてよかったわ」と言って、お母さんが日傘をさした。
それを、ぼんやり見ていたアタシの耳に、「アッ! オンナノコッ!」という声が聞こえた。
幼稚園ぐらいの女の子の声だ。そう感じたアタシは、周りを見回したんだけど、子どもなんて、いなかった。
アタシ以外は。
えっ? なにっ? なんでっ?
って、思っていたら、「ツムギ?」と、名前を呼ばれた。
お母さんの声だ。
「――ねえ、お母さん」
「なに? どうしたの?」
「なんかね、今、声がした」
「声?」
「幼稚園ぐらいの、女の子の声、しなかった?」
「……いきなりこわいこと、言わないでよ。わたし、こわいの苦手なの、知ってるでしょ?」
お母さんはこわい顔で言うと、スタスタと歩き出した。
オレンジ色のトランクキャリーを、コロコロさせながら、離れていくお母さん。
アタシはあせる。
「ちょっ! 待ってよっ! 置いてかないでっ!」
さけびながら走ると、涙がこぼれた。
そんなアタシの耳に、子どもの笑い声が聞こえたけど、聞こえなかったことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます