第51話 ユキト、起きる

「おい、ユキトのバカ寝やがったぜ。頭おかしいんじゃねーか?」


『ザノザのことを信頼してってことじゃねーのか?』


「いや、どうせ解説役しかやることないから寝たんだろーよ。解説役って損な役回りだからな」


『なるほどな。てか新規クエスト開始まであと30分切ってるぞ!』


「マジかよ。それじゃあ急いであの天使をぶち殺さねーとな」


ザノザの目が本気となり、マモンの力が膨れ上がる。そしてザノザの手には黄金の鍵が現れ、何もない空間にそれを挿してゆっくりと回す。


その瞬間、何もなかったところから大量の金銀財宝が溢れ出した。


「マモンが奪い取って来た財宝は計り知れない。その中には伝説の武器やら何やらも腐るほどある。とりあえず伝説の武器100本ぐらい一斉に受けてみろよ」


財宝の中からおびただしい数の剣や槍、弓などが浮かび上がる。


「死ね」


そしてその全てが一斉にウリエルに向かって襲い掛かる。


「マモン、あまり私を舐めるな」


ウリエルから光があふれ出す。ウリエルは浄化の天使。彼の力は神に敵対する者たちを浄化すること。弱い悪魔であれば彼の光を浴びただけで消滅してしまうだろう。


さすがにマモンほどの悪魔が消滅することはないが、それでも弱体化はまぬがれない。


『はぁ、めんどくせー。そういえば思い出したけどこいつデバフ使いだった』


「どれぐらい弱体化されてんだ?」


『そうだな、3分の1ぐらいかな』


「やべーじゃん」


『確かに。今の俺の力じゃあいつには敵わないな。でも俺の財宝は俺の力とは別だから』


「あー、そうか」


「なに!?」


ウリエルに迫っていた100の伝説の武器は迫ってくるスピードは落ちたが、止まることはなかった。


「こんなスピードで向かってくる攻撃を私が受けるわけがあるまい!」


一瞬驚いたウリエルだが力の落ちた武具の動きを見て冷静さを取り戻し、その場から離れようとする。だが―


『動けないだろ?』


金縛りにあったように固まったウリエルの耳にマモンの声が響いた。


「こ、これは」


『言っただろ。お前が弱らせたのは俺の力だけだ。俺の宝たちには関係ない』


「神に歯向かったものはその力を失うはず!」


『これはただの道具だ。反逆者である俺に使われてはいるが、ただの物であるこれらに反逆

の意思などない。そもそも意思がないんだから。だから秘宝たちの力は問題なく発揮される。今お前の動きを封じてるのは宝刀『七聖剣』の能力だ』


「あと俺にはそもそもその浄化自体が大して意味ない。神に反逆してないから。俺は神のことなんて考えたことすらねーよ」


ザノザもどうでもいいと言った感じで答える。


「『さっさと死ね』」



―磔刑―



ザノザが手をかざすと100の武器は再びスピードを取り戻しウリエルに突き刺さっていく。



「うがぁぁぁ!!!」


「マモン、間に合いそうだな。思ったよりこいつ弱い」


ザノザは再び宝物庫から武器を取り出す。


『そりゃそうだろ。所詮よく覚えてない程度の天使だ。俺の宝物庫に敵うわけない。俺の宝物庫にはあと3000万の神器がある』


今度はさっきの10倍の数だ。


「後ろの女も一緒に死ね。これだけの量だ。どうせくらうだろう」


ザノザがめんどくさそうに手を振り降ろすとおびただしい数の武器がウリエルとガブリエルへ向かっていく。避けきれない数の攻撃に天使たちも死を意識した。


カッ!


だが次の瞬間、地に落ちていったのはザノザの方だった。


ザノザの攻撃が今まさにウリエルとガブリエルを捉えようとした瞬間、再び神の光がザノザたちに降り注ぐ。その光によってザノザとマモンは身を焼かれながら強制的に引き剥がされた。


「ごはっ!」


『おい!ザノザ!』


「神がまた邪魔して来たみたいだ。でもこれは計画どおり。マモン、神の位置を掴めたか?」


『お前が焼かれる瞬間に、神と俺との認識を反転させたからな。今なら神がどこにいるのか手に取るようにわかるぜ!』


「じゃあ最後の一手は頼んだ。あんなボケ老人に好き勝手させるな」


ザノザは気を失って空から落ちていくが、ザノザが最後まで信じたピースは消えていない。むしろこの時を待っていた。


『お前が俺たちに敵意を抱くのを待っていた。それを反転してやる』



―因果応報―



『クソじじい。お前はしばらく黙ってろ』


マモンはザノザが受けたものを反転する。つまりザノザが動けなくなったのならば神も動けなくなったのだ。


本当なら反転だからザノザは逆に何事もなかったように蘇るはずだったが、ザノザの意識は戻らず、そのまま地面へ落ちていった。


流石に神相手では自分と同じ状態にするのがやっとだった。まあ同じ状態と言ってもザノザと神では拘束される時間は全然違う。神はすぐに拘束を解くだろう。


『ごはっ!』


ザノザが落ちていくのを見ながらマモンは血を吐く。常時顕現型のマモンであってもザノザから引き剥がされた状態でこれだけの力を使えばもう力など一切残っていなかった。まさに満身創痍と言えるだろう。ザノザとマモンは限界以上の力で戦った。もうこれ以上何もできない。動くとさえも。


だがザノザもマモンも満足そうな笑みを浮かべていた。


「ほら、お膳立てしてやったぞ。さっさとぶち殺せ」


『俺がここまでやってやったんだ。腑抜けたことをしたら殺す』


ザノザもマモンも同じく空を見ていた。彼らはずっと待っていた。その為に神の力を抑えたのだ。


「ニートのくせにはよくやった。ザノザ」



―死の雨―



リヴァイアサンと同化しているミツキが上空からミサイルの雨を降らす。


「まさかザノザがここまでやってくれるとは。感謝するよ」


ルシファーと同化してるミナトはミツキの爆撃をすり抜けてウリエルの元へと飛んでいく。そして背後に回ってウリエルに触れる。


―弱き者よ―



「貴様!ルシファーか!?」


『おいおいウリ公。様が抜けてるぞ?』


ルシファーはニヤニヤしながらウリエルに話しかける。


「くっ!反逆者に敬称付けるわけがないだろう!」


『寂しいこと言ってんじゃねーよ。昔は俺みたいになりたいって俺の後ろをついて来てたじゃねーか』


「確かにそんな時期もあった。だからこそ貴様には絶望したのだ!お前と共に神を守ろうと思っていたのに、まさかその神に反旗を翻すとは。貴様にはがっかりした」


『そうかそうか。さすが俺だな。じゃあ今日は殺してやろう』


「何を言っている!」


『聞こえなかったか?殺してやると言ったんだよ』


「ちょっとぁ、ボクのことも忘れないで欲しいな」


ウリエルの横にはいつの間にか完全復活したガブリエルもいた。



ミナト、ミツキVSウリエル、ガブリエルの戦いが本格時に始まろうとしているとき、アンリとユウカはユキトを探していた。


一時的に繋がりを断たれているから一瞬でユキトの元に行くことはできないが、それでもアンリがユキトを見つけられないわけない。


ほどなくして傷だらけで木陰に寝ているユキトを見つけ出した。


『ユ、ユキト、、、』


「ユキト!」


ユウカは無我夢中でユキトに抱き着く。


「よかった、よかったよぁぁぁ!!」


ユキトの無事を知って緊張の糸が切れたユウカそのまま泣きじゃくった。


ひとしきり泣いて落ち着いたユウカは今の異常な状況に気付く。アンリがなぜ駆け寄ってこないのか。後ろを振り返るとアンリは立ち尽くしていた。


『我のせいだ、、、我のせいでユキトが。ユキトぉぉぉ!うわぁぁぁぁん!ごめんなさぁぁぁい!』


アンリはその場に膝をつき、本当の子供のように泣きじゃくる。


「アンリ、なんでお前が俺に謝るんだ?」


アンリの泣き声を聞いたユキトがゆっくり目を開ける。


「ユキト!目が覚めたの?」


「ありがとな、ユウカ」


ユキトは優しくユウカの頭を撫でる。そしてアンリの方を見る。


「アンリなんでお前が俺に謝るんだよ」


『だって我がユキトを守れなかったから』


「おいおい、忘れたのか?俺たちの契約を。俺たちは一心同体だ。全てが俺たち二人のせいで、二人のおかげだ」


『それでも怖かったのだ。ユキトを傍に感じられなくなった時に、まるでまたあの暗闇に取り残されるんじゃないかって』


「安心しろ、アンリ。俺たちは生きるのも死ぬのも絶対に一緒だ。どちらかだけが存在することはありえない」


そもそもがユキトとアンリの契約とはそういうものなのだ。


『それでも、、、』


「わかってるよ。それでも怖かったんだよな。俺だって怖かったさ。だからそんなところにいないで。おいで」


ユキトが両腕を広げると堰を切ったような勢いでアンリはユキトの胸に飛び込んでいく。


「ただいま、アンリ」


『グスグス、おかえりなのだ!ユキト』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る