第50話 ユキト、寝る
「おい、お前ら。なんで俺を生かしたままにする?」
「どうしてだと思う?」
「アンリに世界を滅ぼさせようとしてるのか?」
「何だ、わかってるじゃないか」
「ちっ!やっぱりお前たちはクソだな」
「人間のくせに生意気な口を利くな!」
ウリエルに殴られる。イラっとしたんだろう。いい気味だ。
「人間だろーが天使だろーがクソはクソだろ。そしてお前らはクソだ」
目が覚めると拘束されていた。そしてアンリとの繋がりも途切れていた。俺とアンリの繋がりが一時的にでも切れるということは神の力か。目の前の天使二人はかなり手傷を負っている。今の状態じゃ天界へ帰れないんだろう。いい気味だ。
ウリエルはさっきから俺と話しているが、ガブリエルは後ろでまだ寝込んだまま。途中で神の邪魔が入ったとはいえヘイシのおっさんの攻撃はこいつらにかなりのダメージを与えたようだ。
特にガブリエルのダメージは深刻らしい。
「おい、女の方は重傷みたいだな」
「ん?ガブリエルか。まあ盾としてはそれなりに役だったな」
ウリエルがそう吐き捨てる。
「は?お前仲間の女を盾にしたのか?」
「両方生き残るにはそれが一番有効だったからな。この女はバカだが耐久力だけは四大天使の中でも随一だ」
「、、、その程度の理由かよ。やっぱお前らはいけ好かない。さっさとくたばれ」
「今お前はアンリ・マンユとの繋がりが立たれてるんだぞ?そんな状況で俺たちにそんな口をきいていいのか?」
「殺したいなら殺せよ」
「なに?」
こいつらは俺とアンリの契約を知らない。もしアンリが世界を滅ぼしてまた一人になるなら、一緒に死んだ方がいい。アンリと世界なら俺はアンリを選ぶ。あとは好きにやってくれ。俺たちは一抜けする。
『ユキト、私ユキトのこと好きだよ』
『ユキト、お腹すいた』
『かかって来いよ、このロリコン野郎』
『ユキト、ボクは絶対に君たちを守って見せる』
そう思った瞬間、邪魔するかのようにいろんな声が頭に響いた。そしてひとつひとつの言葉が張り付いて離れなかった。染みついた汚れのように。
「所詮そんなもんなんだよ、お前は」
また声が聞こえた。ん?でもこれは頭の中に響いたんじゃなくて普通に聞こえた。
「捕まってるんじゃねーよ。さすがに隊長が捕まったら副隊長が動かざるを得ないだろーが。俺に働かせてるんじゃねーよ。今日のクエストに参加できなかっただろ!」
『いや、ザノザ。諦めるのはまだ早いぜ!さっさと天使殺して帰ればギリ間に合う!』
俺の前に現れたのはまさかのうちの副隊長とその悪魔マモンだった。
「え、なんでお前いるんだよ」
「お前が捕まったりするからだろ!クソが!俺たちの能力『反転』はそういうことになってるんだよ!」
「あ、そういやそうだったっけ?」
「ったく!めんどくせーな!」
マモンの能力は『反転』。ひっくり返り、ひっくり返す。
俺とザノザが灰猫を結成した時、そう言えば確か俺たちは契約した。
『お前が隊長で俺が副隊長だ。だからお前が頑張れ。俺はあまり何もしたくない』
『いや、副隊長なんだから働けよ。そもそも灰猫って俺たち二人しかいないんだぜ?』
『うん、わかってるよ。だが断る!』
『じゃあお前はなにすんだよ!』
『基本的に副がつく役職って一番やることなくて一番楽なんだよ。そんな副に唯一与えられた仕事はアレだろ。お前が動けなくなった時の代理』
俺が隊長としての務めを果たせなくなった時、俺たちの立場はひっくり返る。
つまり今の『灰猫』隊長はザノザ・ハイイロだ。
「なんだ、貴様!どこから現れた!」
突然現れたザノザにウリエルが驚く。まあわかる。俺も大分驚いてるから。
「お前こそ何してくれてるんだよ!ユキトが弱ったから、『反転』の契約で俺たちだって勝手にこんなところまで飛ばされてきてんだよ!じゃなかった今頃クエストに向かってるわ!」
なんかザノザがウリエルにキレ返してる。こいつすげーな。目の前にいるの四大天使なのに全く緊張感がない。
『まだあきらめる時間じゃねーぜ!ザノザ!さっさとこいつらぶっ殺して帰ろうぜ!』
マモンも全然四大天使のことを気にしてない。てかこいつ全然諦めねーな。悪魔のくせに異常なぐらい前向きだ。
「マモン!!!」
ウリエルがマモンを見て大声を上げる。
「おい、マモン。お前のこと見てなんか態度変わったぞ、あの天使。知り合いか?」
『うーん、まあ古い天使なら会ったことぐらいあるかもなー。でも最近はアバターの区別はつくが基本的に生身の顔は区別つかなくなってきたんだよなー。誰だっけ、お前』
マモンがヤバすぎることをサラっと言った。
「このウリエルを忘れただと!?」
ウリエルは怒りに震えながら声を絞り出す。
『ん?ウリエル?、、、ああ思い出した。お前ウリ坊か。久しぶりじゃん』
ウリエルと違ってマモンは凄く軽かった。
「マモン、やっぱり知り合いなんじゃねーか」
『まあ知り合いは知り合いだな。ガキだったウリエルを俺が鍛えてやったんだ』
ガキだったとか言ってるが、どう見てもマモンの姿の方がガキだし、ウリエルは鍛え上げられた肉体の立派な成人男性だった。
「いや、お前の方がガキだろ」
あ、ザノザ言うんだ。
『いいんだよ、俺はこの姿が気に入ってるから。そもそも天使とか悪魔にとって姿形なんてそれこそアバターに過ぎない。いくらでも変えられる。ちなみに俺も昔は今のウリエルみたいな姿だったぜ?』
「へぇ、そういうもんなんだ。まあいいや、そっちのカルチャーは。とにかくさっさと殺して帰るぞ」
ザノザはあっさりと今のマモンの言葉を受け入れる。マジかよこいつら、ゲーム脳すぎるだろうとか思っていたら、急にザノザとマモンの雰囲気が変わる。
『わかっている』
「ああ、俺たちにはネット上に真の仲間たちが待っている」
―奪い尽くせ マモン―
ザノザとマモンが同化する。ていうかちょっと待って。こいつら俺よりネトゲのパーティーメンバーのことを真の仲間だと思ってるの?身体が動くなら今すぐまとめてぶっ殺してやりたいんだけど。
「なぜ神を裏切った!マモン!」
ウリエルが声を張り上げる。
『なんで裏切ったか?なんでだったけ。もう忘れたな』
マモンはあっけらかんと答える。
「忘れただと、、、ふざけるなぁぁぁぁ!!!」
ウリエルからオーラが噴き出す。
「おい、マモン。煽ってんじゃねーよ」
『覚えてねーもんは覚えてねーんだからしょうがねーだろ』
「お前たちが神を裏切って天界はどうなったと思っている!!!」
『知るかよ。あ、でも1個だけ思い出した。神も天界もクソつまらなかった。死にたくなるほどに』
「貴様ぁぁぁ!!!」
ウリエルが先に動く。だがその瞬間ウリエルの場所とザノザの場所が入れ替わり、ウリエルは誰もいない所へ突っ込んでいくことになる。
「そっちじゃないぞ?」
ザノザはウリエルを見下してムカつく笑みを浮かべる。ザノザとはそう言う奴だ。マモンと同化したザノザは金ピカの衣に身を包み、様々な種類の宝石を自分の周りに浮かべている大変イラつく姿となっている。マジでイラつく。
「反転か。相変わらずイラつく能力だ」
『おい、ザノザ。あいつマジで俺のこと知ってるよ。キモッ!』
「いや、さっきからあいつそうだって言ってるじゃねーかよ」
「マモン!ふざけるのもいい加減にしろ!悪魔に堕ちたお前じゃ俺にはもう勝てない!」
ウリエルが羽を広げる。その瞬間ウリエルに光が降り注ぐ。ここからがウリエルの本気なんだろう。というか俺はいつまでこの解説役をやっていなければいけないんだろう。解説役ってパワーインフレについてこれなくなった元ライバルで現雑魚がやることじゃないの?俺最強なんだけど。ちょっとマジでもう嫌だ。どうせ動けないし、解説することしかやることがないならもう寝る。これ以上解説をやってたら本気で雑魚臭が漂ってきそうだ。そんなことになったら解放されても意味がない。という訳でおやすみなさーい。
こうして俺は眠りについた。
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