第49話 ユウカとアンリ
アンリ・マンユの深層心理に飛び込んだユウカは上も下もわからない圧倒的な暗闇の中にいた。
「あのおバカはどこ!?」
『お嬢、本気であの悪神の暴走を止めるつもりなのかよ』
呆れたようにベルゼビュートがユウカに言う。
「もちろん!アンリとは一緒にユキトを助けに行かないと。それにこのままじゃアンリが世界を滅ぼしちゃう!」
『でもアンリ・マンユってのはそれが使命みたいなもんだしな。今まで大人しかったことの方が異常なんだよ』
「でも世界が滅んだらヤバいでしょ!」
『俺はお嬢以外の人間、俺以外の悪魔はどうでもいい。お嬢さえいいなら神の手が届かない空間でのんびり暮らすこともできるぜ?』
「無理よ。ベルゼビュートのことは好きだけど、私には他にも好きな人がいるもの」
そう言ってユウカは優しく笑った。
『まあそう言うと思ってたよ。そんなにあの男が大事かねぇ。嫉妬するぜ』
ベルゼビュートははじめから自分の提案にユウカが首を縦に振るとは思っていなかった。うん、わかっていた。それでも聞かずにはいられなかった。ベルゼビュートの望みはそこにあったから。
「ベル、ありがとね。でも少し違うかも。もちろん私にとってユキトは一番大事な人。でもね、それだけじゃないの。いつのまにかね、アンリも私にとって大切な人になってた。なんかね、ユキトを取り合って喧嘩するのも、一緒にユキトの話をするのも、すごく好きな時間になってた。きっと私はあの子を友達だって思ってる」
照れくさそうにユウカが言う。
『ははは!悪神が友達かよ、お嬢。そりゃあとんでもない友達が出来たもんだ!』
ベルゼビュートは楽しそうに笑った。
「力を貸して、ベル」
『ああ、わかってるよ。お嬢がそう言うなら俺に異論はねー。だがちょっと荒っぽくなるぜ?』
「お願い」
―悪食―
ベルゼビュートは精神世界さえも食い荒らす。実物がなかろうが、概念に過ぎなかろうが、何かよくわからないものであろうが、ベルゼビュートの『悪食』はその全てを食らい尽くす。もう細かいこととかどうでもよくて、なんでも食べちゃうのだ。
ベルゼビュートが反則的に食い荒らした空間の奥に膝を抱えてうずくまっているアンリ・マンユがいた。
「はぁ、やっと見つけた」
ユウカはアンリの前まで行ってアンリと同じ目線になるように腰を下ろす。
ユウカが目の前まで来てもアンリは微動だにしない。目の前にいるユウカの姿もアンリの目には映っていない。
「アンリ!」
ユウカはアンリの肩を掴んで揺さぶるが反応はない。
「ユキト、ユキト、ユキト」
ひたすらそう呟き続けているだけだった。
「そのユキトが今大変なのよ!それなのにあなたは何してんの!」
「ユキト?」
アンリが少しだけ反応を見せる。
「アンリがユキトを助けに行かないなら私だけで行くわ!あなたは一人で世界でも滅ぼしてなさい!」
「ユキト、、、」
アンリは縋るような目で虚空を見上げる。
「そんなだったら、ユキトは私が貰っちゃうんだから!」
ユウカは精一杯の強がりを涙をこらえながらアンリに投げかける。
「、、、」
それでもアンリは虚空を見つめガラ黙ったままだった。
「じゃあ私戻るわ。早くユキトを助けに行かないといけないから。こんなところまで来て時間の無駄だったわ」
「、、、」
もう帰ろうとしたユウカだったが最後にもう一度振り返ってアンリに呼びかける。
「アンリ、あなたはライバルだと思ってたのよ?私と同じぐらいユキトのことが好きだって!、、、がっかりよ」
ユウカは涙を浮かべながら再びアンリに背を向ける。
「、、、ユキトにまた会える?」
アンリが涙を流しながら呟く。
「会いに行くのよ」
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