第52話 祓魔師たち

悪魔対天使の戦いはもちろんまだ続いていた。押しているのはミナトとミツキだが、ルシファーとリヴァイアサンの様子がおかしくなってくる。


『ミナト、このままだと分が悪い』


「どういうことだ?」


『俺たちは今のこれが最大出力だが、向こうの天使たちの力はどんどん上がってくる。四大天使はやっと地上に降りてこれた段階、まだ全然本調子じゃない。まあ召喚酔いならぬ降臨酔いみたいなものだな。だから本調子になる前に殺した方がいい。でなければそのうちこの優勢もひっくり返される』


「長引く前に決めるってことだな」


『ああ、もう少し遊びたかったが、少し舐めていたようだ。まあ他者を舐めることを許されるのがこのルシファー様だがな』


ミナトとルシファーが方針を決めた時、はるか上空にいるミツキとリヴァイアサンも同じ考えだった。


ルシファーはリヴァイアサンなら天使の事情も知っているため、同じ結論になるだろうと意思の疎通などという無駄な行為は行わなかった。



「あいつらのその降臨酔いとかいうのが冷めたらどれぐらい強くなるんだよ」


『強さといっても色々な種類がありますから一概には言えませんが、単純な身体の強さで言えば3倍ほどにはなるかと』


「じゃあ最初に来た3天使の奴らもほっとけばもっと強くなったってことか?惜しいことしたじゃねーか」


『いえ、降臨酔いにかかるのは四大天使だけです。3天使ごときの力ならそんな制限は受けません。それぐらい格が違うのです』


「それは手合わせ願いて―もんだ」


ミツキは獰猛な笑みを浮かべる。


『しかし主!』


「わかってるよ、リヴァイ。俺だって今回の目的ぐらいわかってる。ここで殺すさ。リヴァイ!準備しろ!」


『はっ!』



―爆撃の津波―



リヴァイアサンは空からだけでなく四方八方、更には地面からまで回避不可能の爆撃を浴びせ続ける。


「はぁはぁはぁ、後は頼んだぞ。ミナト」


終わりが来ないと思われた爆撃が収まるころにはミツキは全ての力出し尽くしていた。


しかしこれだけの攻撃を受けて原形をとどめていないただの肉片になったウリエルとガブリエルだったが、そんな姿にさせられても二人の天使は凄まじいスピードで再生していく。


「俺たち四大天使はほんの僅かでも残っていれば何度だって神の加護で再生する。残念だったな、リヴァイアサン!お前の全ての力を出し切った爆撃でも俺たちを消し去るには至らなかったようだな」


「うんうん!ウリエルの言う通り!」


最大の攻撃を耐えきった天使たちは勝利を確信していた。



―ふりだしに戻る―



だがそんな彼らの前に悪夢のような光景が広がる。


「なんだと!?」


ミツキとリヴァイアサンが放った最大火力の爆撃は巻き戻されていく。そしてもう一度始めから爆撃はスタートする。


ルシファーの『可逆』により超火力の爆撃が何度も巻き戻され際限なく繰り返されていくのだ。





ミナト、ミツキ、ユウカの行動は命令違反である。会議の決定では敵とユキトの詳しい状況を情報班がある程度把握するまでは待機が言い渡されていた。だがそんなものを待っていられる3人じゃなかった。


命令違反であるから3人とも隊員は一人も連れずに単体で乗り込んできていた。


この3隊長の独断専行には、神殺しの槍ロンギヌスだけでなく聖十字協会タナハも混乱していた。


隊長たちは祓魔師を連れずに出動したのだから。


「ったく!これだから悪魔憑きたちは信用できないんだ」


突然の知られを聞いてめんどくさそうに四元素の一人シュウゲツ・ユキミヤが会議室に入ってくる。


その場には緊急で呼ばれた第一使徒セイヤ・センエイ、第二使徒ナル・スメラギ、第九使徒ヤイタ・ヒスレ、そして十三番目スズネ・イチノセが先んじて集められていた。


「急に集まってもらって悪かったな。でも俺を恨むなよ。恨むなら悪魔憑きども恨め。で、あと数分でお前らが担当してる悪魔憑きたちの場所がわかるだろう。そしてわかり次第向かって。まあ俺たち祓魔師の仕事は天使と戦ている時の悪魔憑き監視だからね。という訳でいってらっしゃーい」


言うだけ言ってシュウゲツは会議室から出ていく。椅子に座ることもせず、滞在時間は1分に満たなかった。心の底から早く帰りたかったんだろう。


「はぁ、四大天使か。祓魔師じゃなかったら俺が戦いたかったぜ。てか監視なんて怠いんだよな。俺は悪魔憑き全員が完全に悪魔化して雪崩れ込んできてくれる方が燃えるんだが」


足をテーブルの上にのせてセイヤがめんどくさそうに言う。


「セイヤ君!悪魔になりそうになった時に止めるのも私たち祓魔師の役目だよ!」


ナルが小さな体を乗り出してセイヤを戒める。


「はいはい」


こんなやり取りはいつものことだからセイヤは相手にしない。第一使徒と第二使徒の意見が正反対というのも聖十字協会(タナハ)の内部構造がめんどくさくなっている一因でもある。


「私は早くユウカ様の元へ駆けつけなくては!そして目的地についた時にユキトが死んでいれば最高なんですが」


スズネはズレてる。彼女には天使も悪魔も何もない。絶対的正義であるユウカと邪魔者ユキトの二つだけだ。


あとのことは彼女にとっては無いに等しい。


「うるさい、お前ら。少し黙れ。あとスズネ、ユウカは俺の担当だ。お前は猫のことだけ考えていればいい」


呆れたように目を閉じてヤイタが淡々と言う。


「ユウカ様には様を付けろ!」


「そんな義務はない」


スズネが怒りに声を荒げるが、興味ないといった様子でヤイタはめんどくさそうに答える。


全く意見の合わない4人の元にユキトたちの居場所を特定した研究員が息を切らして会議室に入ってくる。


研究員の報告を聞いて4人は立ち上がる。各々意見はあっても任務を達成するという目的だけは同じだ。


ちなみにナルとヤイタの仲は悪くない。特別よくもないが互いに反発しあうこともない。


まあこのぐらいのドライな関係がビジネス上では最もうまく行くのだが、今回は互いに天敵も加わっている。


「さて行くか。悪魔殺しに」


「悪魔にさせないことが最優先なんだからね」


「ユウカ様!スズネが今馳せ参じます!」


「いや、だからお前はユキトの方を守れよ」


チームワーク?なにそれ、美味しいの?と言ったチームが十三槍隊長たちの元へ向かって飛び出していく。


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