第42話 学園祭
学園祭1日目が盛大に始まる。各クラスが今日のために各々準備して来た模擬店でしのぎを削っている。俺たちのクラスはもちろんメイド喫茶だ。メイドの接客もさることながら、本格的な洋食を提供すると言うのも謳い文句のひとつだ。
そして本格洋食を根底で支えるのはデミグラスソース。俺の担当だ。
俺は今まで試行錯誤を繰り返し辿り着いた最高のデミグラスソースを作るために、鍋に白味噌を投入していた。
「ユキト君、最高のデミグラスソースが出来上がってよかったね」
声をかけてくれたのは多忙なのに最後まで味見に付き合ってくれたヒロコ先輩だ。
「ソウデスネ」
「でもまさか白味噌をデミグラスソースに使うとは驚いたよ」
「デスヨネー」
「じゃあ頑張ってね」
「アザース」
ヒロコ先輩は生徒会の仕事に戻って行った。
・・・
その通りだ。俺は負けた。結局ミツキが作った白味噌デミグラスソースを超えることはできなかった。そして結局俺は今白味噌デミグラスソースを煮込んでいる。
笑えよ。こんな哀れな俺を。
「ひゃはははは!結局俺が作ったやつパクってんじゃねーか!」
俺を指さしながらミツキが思いっきり笑っていた。
「やめてあげなよ、ミツキ!自分のプライドを捨ててでもクラスのみんなのためにミツキのデミグラスソースを選んだユキトを評価してあげてよ!」
やめて、ユウカ。なんかよけい惨めになってくるから。
「知るかよ、そんなこと。おい!ユキト、俺のデミグラスソース使うんだから売り上げの一部は俺に寄越せよ!」
「、、、はい」
「いやぁ、思わぬ臨時収入が貰えそうでラッキーだぜ!ひゃははは!」
ミツキは上機嫌で自分のクラスへと戻って行った。
「ユキト、落ち込まないで」
「いや、ユウカ。これはあのクソ野郎より旨いデミグラスソースが作れなかった俺の責任だ。慰めはよしてくれ」
「じゃあ私の胸を貸すから存分に泣いて」
俺は泣いた。ユウカの胸に顔を埋めて、声をあげて泣いた。
「ちっくしょー!!!」
「よしよし、ユキト。また頑張ろうね」
*
俺たちのクラスの洋食店、というかメイド喫茶は大繁盛していた。もちろんほんの僅かだけミツキのデミグラスソースの活躍も若干あったかもしれない。しかし大繁盛の一番の理由は学校でもトップクラスの美少女たちによるメイド姿だ。
そして余りの大繁盛に用意していた食材が底をつき、かなり早めに閉店となった。一気に暇になった俺たちは皆で学祭を見て回ることにした。
イイダは「俺たちだってお前に負けないぐらいのかわいこちゃんをゲットしてきてやるぜ」と言ってマエダを無理やり引っ張ってナンパに行った。
いや、かわいこちゃんって。
という訳で俺たちは学園を回っている。
「ユキト!あっちのクレープもうまそうなのだ!」
アンリは甘いお菓子にしか興味がない。俺にねだっては肩の上でバクバク食べ続けている。食べカスが頭から降ってくるからやめて欲しいのだが。
「ユキト、あの綿みたいなの不思議。食べてみたい」
シンも食べ物中心だが、味とかより不思議なものの方に興味があるようだ。さっきも金魚すくいに興味を示してやらせたが、すくった金魚をそのまま食べようとしたから必死で止めた。
「ユキト、あそこの占い屋さんで二人の未来を占ってもらわない?」
ユウカは俺の腕にしがみつきながらカップルっぽいところに行きたがる。お化け屋敷にも行ったがひたすら怖がる振りをして俺に抱き着いていた。だって怖いわけないもの。自分に本物の悪魔が憑いてるんだから。むしろ俺たちの方がお化け側から怖がられる存在だ。でもユウカもこういうベタな楽しみ方がしたかったんだろう。
「ここは?」
「ここはA組の執事喫茶よ」
ユウカがパンフレットを見て答えてくれた。
「というかA組ってことはあいつがいるってことか」
はぁ、早くこの場所から離れたい。
「ほらあそこで執事の恰好して働いてるじゃない」
ユウカが指さした先では女子たちに囲まれているミナトがいた。あいつはA組の委員長でもあるし、学校中の女子から人気だ。それは情報として知ってはいた。だがその光景を目の前で見せつけられると、本当心の底から殺意しかわかない。
「お!ユキトじゃないか!来てくれたのかい?サービスするから寄っていきなよ!」
ちっ!毎度のことだがミナトは俺たちを見つけるのが速い。だから出来るだけ近寄らないようにしているのだ。
「ユキト、ミナトが呼んでるわよ」
「目を合わすな、ユウカ。このまま完全無視で立ち去るぞ」
「ええ!?」
「アンリとシンも早くこの場から去るぞ。あっちに美味しそうで面白そうな屋台が並んでいる気がする。いや、確実にある」
「マジでか!それなら急ぐのだ!ユキト」
食べ物に夢中で何が起きているかわかっていないアンリだったが、美味しそうなものがあるという言葉に反応して目を輝かせる。
「ユキト、私そこ行きたい」
シンも面白そうな物という言葉に惹かれてアンリと同じような反応をする。
「よし、じゃあ急いでいこう!」
「おーい!ユキトー!ちょっと待ちなよー!何か食べて生きなよー!」
背後から聞こえてくる声を俺は無視して進む。
「少しぐらい寄ってあげてもいいのに」
ユウカは呆れていたが、それでも俺はあいつの店になんか行きたくない。だってあいつキモいんだもん。
逃げるようにミナトの間合いから離れると、大繁盛している屋台が本当にあった。適当に言ったことから出た真だな。
「ちっ!お前らかよ。ちゃんと並べよ」
というかただのミツキの店だった。
ミツキのラーメン屋台はかなり繁盛していた。とっくに俺たちより多く料理を出してるみたいだったが、ミツキは俺たちの10倍もの食材を仕入れていたらしい。もし売れなかったらかなりの負債を抱えていただろう。でもこういう時こそ無謀な勝負に出るのがミツキって男だ。
アンリとシンに適当なことを言ってしまった手前、たとえどんな行列でも並ぶしかなかった。アンリとシンはかなりワクワクしている。
「ユウカもラーメンでよかったか?」
「もちろん!っていうかミツキの料理って本当にすごいわね」
「え?あいつが料理できることって結構有名なの?」
「え?だって去年の学園祭、売り上げ1位はミツキのカレー屋台よ」
「そ、そうだったの?」
「知らなかったの?てか去年の学園祭ってユキトなにしてたっけ?」
「去年か、、、。はぁ、そういえば去年は俺エジプトにいたわ」
「え?あ、そっか。ユキトはピラミッド壊しに行ってたんだっけ」
「はぁ」
そんな話をしてるうちにやっと俺たちの番が来た。席に座ってメニューの中から皆で注文を選ぶ。
「我はこれでいくのだ!」
「私はこれにする。一番面白そう」
「私はこれにするわ。スズネがいたら止められそうだからね」
「じゃあ俺はこれ」
ちなみにユウカが俺にべったりくっついてのびのびしてられるのはスズネがいないからということも大きい。
学園祭中、祓魔師は学園の警備を担当する。スズネは今その真っ最中だ。ユウカの元に戻ってこれるのはあと2時間ぐらい先だろう。
ちなみにアンリはラーメンパフェ、シンは虹色スープラーメン、ユウカは背アブラの最終形態ギトギトの果てラーメン、そして俺は激辛紅蓮ラーメンを注文した。
どれもゲテモノ臭が半端なかったが、イラつくことに全て絶品だった。ミツキはマジでヤバすぎる調理スキルを持っているらしい。ついでに神の舌とかも持ってそうだ。
心の底から思った。何じゃこいつ。
「麺とクリームが合うとは思ってなかったが、まさに究極のマリアージュだったのだ!」
「一緒に付いてきた調味料を一つずつ入れるたびにスープの色が変わっていった。まさに七色のスープ。私大満足」
「私のもパンチが効いてて美味しかったわ!これぐらい容赦なくギトギトしたラーメンが食べたかったのよ!」
「俺のもうまかったよ。クソ辛かったけど、ちゃんと味わい深かった」
・・・
「どうしたの?ユキト」
「、、、いや、何なのあいつ!なんでこんなに旨いもの作れんの!?不良が捨て猫を拾う以上のギャップなんだけど!」
「ユキト落ち着いて!世の中には納得できない理不尽が存在するのよ。だから私の胸で泣いて」
「ユ、ユウカ!」
「おい、お前らさっきからなに失礼なことばかり言ってやがる」
奥の厨房からミツキがやってくる。俺はユウカの胸に顔を埋めたまま動かない。絶対動かない。こんな不良料理人の顔なんて絶対見たくない。
「ちょっと、ミツキ!今のユキトを刺激しないで!やっと落ち着いてきたんだから!」
「知るかよ。飯を食わせてもらってごちゃごちゃ言ってるんじゃねーよ!」
「ユキトは傷ついてるのよ!あんたみたいなクズ野郎が美味しい料理を作れることに!」
ユウカは俺の言いたかったことを言ってくれた。俺はユウカの胸に抱き着きながらギャップを前面に押し出してくるビジネス不良を横目でみる。
「ふぅ。猪も猫もどうやら死にたいらしい。さっきのが最後の晩餐で文句ねーな!」
「ちょっと!学園祭で喧嘩なんかやめなよー!」
厨房の奥からちっこい女が顔を出す。というから第二使徒のナル・スメラギだ。
「スメラギさんって大学院生だよね。なんでミツキの店で働いてるの?」
ちょっと聞いてみた。
「え?だってミっくんに手伝ってって言われたから」
「二人って仲いいよね?もしかして付き合ってたりするの?」
もう少し聞いてみた。
「違う違う!そういうんじゃないよ!私にとってミっくんは弟みたいなものだし!確かに男らしいところはあるけど、その男らしいはそういう男らしいではなくて、比喩的なもので―
「こんなちびっこと付き合ってるわけねーだろ。俺を犯罪者にしたいのか?」
めちゃめちゃテンパってたスメラギさんを遮って、ミツキは呆れたように言った。
「ミっくん!ちびっこってなによー!」
「見たまんまを言っただけだろーが」
ミツキはスメラギさんにポカポカ殴られていた。なんか微笑ましくてイラっとしたので俺たちはサッサと店を出ることにする。
「ユキト君、ボクもご一緒していいかな?」
適当に見て回っていると声をかけられた。彼女は俺が学校を案内した転校生ナナセ・キリュウだ。
「ああ、いいぜ。一緒に行こう。てか今までなにしてたんだ?」
「ボクは一日目はメイドの仕事がないから、今さっき来たのさ」
「堂々と遅刻かよ」
「だって今日は出欠とか取られないからね」
そう言ってナナセは悪戯っぽく笑った。
「ところでナナセはどっか見てみたいところはあるのか?」
「そうだねぇ。ボクはこの3年C組が体育館でやる演劇が見たいかな!」
パンフレットを開いてナナセが言う。
「じゃあ次はそこ行ってみるか!」
「ナナセも来たのか!ガクエンサイは楽しいぞ!」
「ナナセ、一緒に行こ」
「ナナセちゃんも学園祭楽しもう!」
俺が他の女と仲良くすると嫌がるアンリもナナセとはすぐに仲良くなった。シンとユウカも同じくナナセを好いている。それはナナセの、、、ん?なんでだ。
「じゃあ急ごうよ、ユキト君。もうすぐ開演だよ」
「あ、ああそうだな」
まあいいか。みんな仲がいいんだから。
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