第25話 駆け落ち
あのネトゲ事件から数日。クソくだらない事件だったがミナトからは本気で感謝された。
「ありがとう。ユキト、ミツキ」
ミナトは孤児院のメンバーに何かあると本気で心配する。中でも実の弟であるカナタは特別だ。だから俺たちに頼んだんだろう。
そしてあいつは俺たちに破格のお礼を寄越した。
「破格のお礼って言ってなに?ねぇユキト、教えて、教えて」
シンが俺の腕を掴んでくる。
「我も知りたいのだ!」
「いや、アンリは一緒にいただろ!」
「話が難しくなりそうだったから早めのうちから聞いてなかったのだ!」
「いよいよ早めのうちから聞かなくなったんだ。聞いて驚くなよ。今回ミナトがくれたのは100万円だ!」
「100万円ってすごいのか?」
「アンリの大好きなケーキを大体2000個ぐらい買えるな」
「なん、、だと、、」
アンリは驚愕の表情を浮かべてフリーズする。
「ねぇねぇ、ユキト。100万円って楽しい?」
「ああ、楽しいよ」
「なら嬉しい」
シンがにっこりと笑う。
さて、シンの可愛い笑顔も見れたし、とりあえず100万の使い方は後々考えるとしよう。今日は朝から任務に向かうことになっている。学校は欠席だ。
「おい、アンリ。いつまで固まってるんだ?天使ぶち殺しに行くぞ」
「ケーキがそんなにいっぱい」
アンリはうわ言のように呟きながら天を崇めている。悪神のくせに。
「いや、ただの例えだから。本当にケーキ2000個は買わないぞ?」
「なに!?」
アンリは肩を落として天を睨みつける。これでこそ悪神。
「まあ天使を殺したら帰りにショートケーキとシュークリームを買ってやるよ」
「本当か!よし、天使どもは皆殺しなのだ!」
「やっと元に戻ったか。じゃあシンは留守番だ。もし何かあったらザノザの部屋の扉をぶち破れ」
「わかった!」
シンは手を挙げて返事をする。いい子だ。
「あ、あと100万円もらったことはザノザとマモンには言っちゃだめだぞ?」
「なんで?活躍したって聞いた」
「いやアイツらただネトゲやってただけだから。それに今までずっとただ飯喰らって来たんだ。むしろまだ全然マイナスなんだよ。ちなみに誰からそんなこと聞いた?」
「マモンが自慢げに言ってた」
「よし、帰ってきたらシメよう。じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
外に出るともうすでにスズネが待っていた。
「はぁ、やっぱり今日も生きてたんですね」
「本当にぶれないよな、お前」
今回ババアが天使の出現を予知したのは8か所。同時では今までにない数だ。しかもきれいに出現場所が散らばっている。
東京都内2か所に加えて北海道、山形、岐阜、兵庫、高知、福岡だ。俺たちの派遣先は北海道、函館市。行きたくないと何度も進言したが、ことごとく却下された。だから今俺は仕方なく北海道へ向かっている。
「不満そうですね」
飛行機でつまらない映画を適当に見ているとスズネが話しかけてきた。
「不満に決まってるだろ。俺がこんな遠くまで行く意味がない」
「また文句ですか」
「今回は今までのとは違う。普通に考えて同時にそれもきれいな等間隔で天使が降りてくるわけないだろ。つまり東京を手薄にしたいって魂胆が見え見えだ。なのに最強の俺を一番遠方に送るなんて正気の沙汰じゃない。上の誰かが正気を失くしてる」
「でも東京にも2か所天使の発生が予知されてますよ?」
「それがいつもの神からのやつだろ。それに合わせて何かを企んでいる奴がいる。天も一枚岩じゃないってことさ」
「神や四大天使が遂に動き出したのでは?」
「それならアンリが気付く。そうだろ?」
「上の連中が降りてくるのはまだ先なのだ!」
「ずっと聞きたかったんですけど、なんでただの天使はどんどん降りてくるのに神と四大天使は降りてこられないのですか?」
「しょっちゅう降りてきてる天使たちは産まれたばかりの者たちなのだ。だが神はもちろん四大天使も悠久の時を動かずにいた者たち。つまり人間に例えるとずっと正座してたから足が痺れて中々立ち上がれないと言った感じなのだ!」
「その例えだと一気に神と天使がファニーになるな」
「じゃあ誰がこんな事をしてるんですか?」
「七天使のうちの三天使は降りて来たよな。そんで一人生死不明のやつがいる」
「サマエル!」
「たぶんな」
「では今すぐ本部に戻ったほうがいいのでは!?」
「いやそれじゃあ北海道が大打撃を受ける。俺を釣ろうとしたんだ。それなりの用意はあるだろう。ババアが予知できるのは天使の発生場所と時間、そして規模。ただそれは数字的な予知でしかない。未来の光景を見ることはできない。ならいくらでも裏をかく方法はある」
「くっ、、、」
スズネが苦い顔をする。
「まあギリ大丈夫だろう。今回の派遣は北海道に猫、山形に兎、岐阜に馬、兵庫に虎、高知に鳥、福岡に龍が送られてる。あと東京二か所に羊と猿。まだ五匹残ってる。五匹いりゃ多分ギリ大丈夫だろう」
「ですがお嬢様が危険でしょう!早く戻りましょう!」
あ、こいつずっとユウカのことしか考えてなかったのか。
「戻りたいなら別にお前だけ戻ってもいいぜ」
「あ、そうか。一人で戻ればいいのか」
「怒られるのはお前だし」
「クビになろうが、処刑されようが構いません!お嬢様の元に向かわせてもらいます」
―インジェクション―
スズネは手刀で自分の胸を貫く。その瞬間スズネは液体となって消えていった。
「現代ジャパンで処刑はないだろう。あとクビもないな。俺もあいつも今のところ替えがきかないから。だから結局怒られるぐらいだろうな」
間違いなくユウカの元に向かったんだろうが、これはいい手かもしれない。上層部の誰かが何かしようとしているなら本部に残ってる奴らが危ない。一方俺は函館がどこまで大変だったとしても暴走するほどまでの力を使うことはない。ヒイロのババアの予知では7天使は現れないらしいからな。
「スズネは帰ったのか?」
俺の膝の上にちょこんと座りながらアンリが聞いてくる。
「ああ、だから今回は二人だけだな」
「おお!二人きりで旅行か!楽しみなのだ!ワクワクなのだ!これはもう駆け落ちと言ってもいいのだ!」
アンリがニコニコしながら楽しそうにしてる。
「じゃあ駆け落ちでもしに行くか」
「おお!なのだ!」
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