第22話 二つの戦場

「さて、久しぶりの悪魔退治だ。腕が鳴るぜ。おい、ジュンコ。神殺しの槍(ロンギヌス)の連中は邪魔をしに来ると思うか?」




楽しそうにセイヤは振り返ってジュンコに尋ねる。




「え?来ないんじゃない?一応兄のミナトは動けなくしてるはずだし」




「もしあいつら来るんなら俺帰りたいんだけど。そうなるとめっちゃ面倒くさいじゃん」




インゼが心から嫌そうな顔でセイヤを見る。




「逆だろうがバカ!せめてあいつらぐらい抵抗してこないとつまらん」




そんなセイヤの目が一人の男を捉える。




「マジかよ。まさか最強が出てくるとは。予想外だったな」




ユキトが1人、彼らの行く手を阻んでいた。




「よう、久しぶりだな。第一使徒。あとは、、、数字よくわかんねーや。まあとりあえず使徒が3人。相手してやるよ。アンリ!!!」




「任せるのだ!!!」




ユキトとアンリが同化する。




「まさかお前が出てくるとは思わなかったぜ。おもしれぇ。一度殺してみたかったんだ」




「はぁ?俺を殺す?お前調子乗ってんじゃねーよ。足止めって言って出て来たけど、お前らを皆殺しにしてやってもいいんだぞ。ついでにこのまま聖十字協会(タナハ)も全部殺してやろうか?嫌いなんだよ、お前ら」




ユキトは虚空から背丈を超えるほどの長刀を取り出す。その刀は誰が見ても明らかなほどの禍々しい気配を放っていた。悪神アンリの厄災を浴び続けた妖刀『村正』だ。




「奇遇だな。俺もお前らが大嫌いなんだよ」




セイヤもまた背負っていた巨大な大剣を引き抜く。剣の名前は聖剣エクスカリバー。最強の滅魔剣である。




「いいの持ってるじゃねーか」




「お前こそなんだ?その禍々しい剣は」




「お前らの聖剣と正反対のものだよ」




「そうかよ。だとしてもお前、使徒3人、更に隊員たちを一人で相手できると本気で思ってるのか?」




「まあ最強だからな。と言いたいところだがもう一人いるんだよ」




「はぁ?」




ユキトの後ろからゆっくり歩いてくる男が一人。彼もまたミナトに頼まれた男だ。




「ったく!お前と一緒に戦うなんてよ。、、、イライラするぜ」




『大蛇』隊長ミツキ・ミダレである。






「ちっ!こいつも来たか。おい!ジュンコ、インゼ!俺は多分猫で手一杯だ!蛇はお前らが相手しろ!」




余裕のなくなったセイヤが後ろの二人に指示を出す。セイヤはすでに分かっていた。隊員たちがもう使いものにならないことを。セイヤの思った通り3人の使徒以外の祓魔師はその場にバタバタ倒れていった。気付かぬうちに彼らの足元には無数の蛇が動き回っており、その毒によって意識を失わされていたのだ。




蛇は13本の槍の中で最も多対一、殲滅戦に優れているというのは周知の事実だ。つまり蛇相手に隊員クラスは意味を持たない。




「ちっ!リヴァイアサンの能力か。気持ち悪りーな」




ザン!




セイヤは聖剣を一振りして自分に寄って来ていた蛇たちを消し飛ばす。




「ミツキ、あの二人を任すぞ」




「そっちの第一使徒でもいいんだが―




「先にケンカを売られたのは俺だ」




「わかってるよ。俺はあの雑魚二人で我慢してやる」




「殺されるなよ」




「当たり前だ。バカは口を開くな」




「はぁ!?お前だけは絶対俺よりバカだろ!」




「なんだと!?」




猫と蛇が言い合いをしていると痺れを切らしたかのようにセイヤが一歩前に出る。




「じゃれ合ってるとこわりぃーけど、俺らもダラダラしている暇はないんだよ。さっさと始めよーぜ」




「ダラダラしてもらいたいんだが、しょうがない。ミナトからの依頼を達成しようか」




ユキトは真剣な顔でセイヤと向き合う。




「じゃあ俺は残りをやるとするか」




ミツキはジュンコとインゼの方へ視線を移す。




―来い、リヴァイアサン―




『御意』




リヴァイアサンと同化したミツキは巨大な龍となって空に浮かび上がる。そして第六使徒と第八使徒を上空から睨みつける。




「はぁ、さっきからずっと雑魚扱いなのはさすがの私もそろそろイライラしてきたわ」




「めんどくさいのは嫌だけど、悪魔憑きごときに舐められるのはイラつくね」




祓魔師対悪魔憑きの戦いがここに始まる。











そしてこちらではまた別の戦いが始まっていた。






今日のボス戦だ。




戦いながらザノザとマモンはカナタとのチャットを行う。




ノザノ《タナカ殿、悪魔を呼ばない詳しい理由を教えて欲しいでござる!拙者もまた同じ悩みを抱えていた者。相談に乗れると思うでござる》




マモン《タナカきゅん、私も結構ヤバな悪魔なの~。でも今ではこうしてネトゲにいそしんでいるの!悪魔は恐れなくていいの!》




タナカ《実はー






カナタに憑いている悪魔の名は『サタン』。能力は『不可逆』。兄であるミナトとは正反対の能力と言える。




これは過ちを正せないこと。何も元に戻らないこと。壊れたらそのままで何も治らないことを意味する。




再生能力に特化している天使たちでも彼に与えられたダメージは一生回復しない。








ある日カナタは『窮鼠』の任務で出動した。現場につくと今まさに天使から力を押し付けられた人間が人を殺そうとしていた。カナタは人を守るために天使に憑かれた人を攻撃した。だが実はこの人間は完全に天使に憑かれていたわけではなく、まだ助けることが可能だったのだ。でも不可逆の力のせいで致命傷を治すことはできなかった。ミナトでさえもだ。




サタンの『不可逆』とルシファーの『可逆』は矛盾する。だからこの二つの能力は同居できない。『可逆』を行使されたものはそれ以降『不可逆』は意味をなさない。逆も然り。つまり早い者勝ち。




この日を境にカナタは悪魔を降ろすことを辞め、引きこもってしまった。そしてネトゲにのめり込んでいく。理由は現実を忘れられたから、そして嬉しかったから。




カナタはネトゲの中ではヒーラーである。何も治せない自分が仮想世界の中では他人を治せることが嬉しかったのだ。






という話を聞いたザノザとマモンが思ったことは一つ。






"思ったより重い"






「マモン、これどうする?」




「人間のことなんだからお前がなんとかしろよ」




「いや逆に悪魔からの、外からの意見の方が響くだろ」




「無理無理。なんか重いもん。引きこもりのネトゲ廃人だからどうせ働いたら負け系の、というか俺らみたいな感じだと思ってたのに。こいつ立派なエピソード持ってんじゃん」




「ああ、それは俺も思った。でも説得できないとこのゲームから永久にログアウトすることになるんだぞ。もうどんな手使ってでもいいからタナカに悪魔を降ろさせろよ。とてもじゃないけど俺らに心の傷とか癒せるとは思えない」




「そりゃそうだ。なら方法は一つだけだな」




マモンは真剣な表情をする。




「方法なんてあるのか?」




「タナカの悪魔も無理やり常時顕現型にすればいい」




「そんなことでできんの?」




「タナカに憑いてる悪魔って何だったっけ?」




「確かサタンだったな」




「ちっ!あいつかよ。でもまあやりやすい方かもな」




「知ってんのか?」




「まあな」




「それでどうすんだよ」




「基本常時顕現型の悪魔ってのはより宿主と繋がっている状態だ」




「いやそれなら余計無理じゃね?ずっと呼んでさえいないんだぞ?」




「だが顕現する理由は悪魔によってそれぞれだ。俺がネトゲをずっとやってたかったから顕現したようにな」




「そうだったな。お前って俺が言うのもなんだけどすんげぇしょうもない理由で顕現してるんだったな」




「はぁ!?お前が俺に人手不足だからパーティに入れって言ったのが始まりだろーが」




「あ、そう言えばそうだった」




「普通ネトゲ手伝わせるために悪魔呼ぶ奴なんかいねーぞ。まあそれはいいとして、悪魔によっては自分の欲望のために顕現する奴もいるってこと。かなり強力な悪魔じゃないと無理だがサタンなら問題ないだろ。契約を結んだ時点でもう道はできてる。サタンの意思で無理やり顕現することも可能だ」




「でも何でサタンを釣るんだよ」




「そんなの決まってるじゃねーかよ。俺と同じだ」




「まさかここでもネトゲ?」




「そりゃそうだろ。という訳で俺がサタンをうちのパーティに勧誘してくる」




そう言ってマモンその場から姿を消す。




「今回マジでネトゲが軸なんだな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る