第20話 聖十字協会の十二使徒
一方そのころ聖十字協会(タナハ)大聖堂。
教皇の前に12使徒が集められていた。
「今回の悪魔堕ち討伐について話し合いを行う」
教皇の言葉によって会議は始まる。
正直な話、聖十字協会(タナハ)はそれなりにバタバタしていた。悪魔堕ちなど数十年ぶり、ほとんどの者たちが未経験なのだ。
悪魔になってしまおうが聖十字協会(タナハ)にとって討伐はそこまで難しくはない。だから今から話し合われるのはそのやり方である。
聖十字協会(タナハ)の中でも考え方は別れる。
悪魔になる可能性がある人間は問答無用で殺処分という強硬派。
悪魔となることを阻止することが大事だと考える穏健派。
そして悪魔を殺すのではなくその本質を知ろうとする研究職たちだ。まあこの人たちは置いておこう。今回の会議には関係ない。
今回の議題となるのは『今の段階で殺処分するか、まだ完全に悪魔堕ちしてないのだから悪魔堕ちを阻止するために動くか』だ。
「悪魔堕ちしそうならさっさと殺せばいいだろう。完全に悪魔になっては被害が出る可能性がある」
まず発言したのは第一使徒のセイヤ・センエイだ。彼は祓魔師最強の男。悪魔憑きなど殺してしまえという強硬派に属してはいるが、彼に悪魔への恨みや嫌悪感などはない。ただ強い悪魔憑きを斬りたいという、どちらかというと戦闘狂の部類に入る。
「それは考えることを放棄してるよ。悪魔堕ちが近いと言っても悪魔を呼び出せば解決することでしょ。なぜ呼び出さないのか、もしくは呼び出せないのか。まずはそれを調査することが先だと思う」
反論するのは第二使徒ナル・スメラギ。彼女は最終的に悪魔を祓うことには賛成でも悪魔憑きまで殺すのはやり過ぎだと考えている。
「呼び出したところで怒った悪魔が暴れたらどうするの?」
第七使徒ヨシコ・カグラザカ、彼女は強硬派だ。実にシンプル。危ういものは殺してしまえばいいという考え方だ。恐れているんだ。人間以外の全てを。
「おい、カグラザカ。契約が結ばれているんだ。それはありえねーだろ」
第三使徒コウタ・ハセガワが呆れたように言う。彼は私的な感情で動くことはない。悪魔であろうが天使であろうが生き物としてとらえている。
「契約内容は私たちにはわからない。特殊な項目があるかも」
第四使徒ミナミ・エレルカ。可愛い顔をしているが、彼女は悪魔だけではなく悪魔憑き自体も殺してしまうべきだという過激派だ。天使にも悪魔にも嫌悪感を覚えている。嫌悪感というか汚いものとしてとらえているのだ。一度でも悪魔と一つになった悪魔憑きも汚れていると感じている。彼女の潔癖さがそれを許さない。
「それらも含めて色々確認しないといけないだろ。今回は神殺しの槍(ロンギヌス)にも協力を要請した方がいい」
第九使徒ヤイタ・ヒスレ。天使に恨みはあるがそこまで悪魔に思うところはない、聖十字協会(タナハ)でも珍しいスタンスを持つ男だ。
「はぁ!?ただ殺すだけでいいことなのになんで連中の力を借りなきゃいけねーんだよ!」
机を叩いて立ち上がったのは第11使徒キョウヤ・カワサキ。天使と悪魔だけでなくそれに関わった人間にまで嫌悪を抱いている。自分も関わりを持っているのに。つまりバカだ。
「いきなり大声出すんじゃないわよ、バカ!私もヤイタの意見に賛成ね。今回は慎重に行くべきだわ」
第十使徒アヤコ・マエサキ。彼女はナルの後輩で彼女を尊敬している。聖十字協会(タナハ)に入ってからずっとナルに面倒を見てもらい、ナルを本当の姉のように慕っている。ナルもまた本当の妹のように可愛がってきた。だからアヤコの意見はいつだってナルと同じだ。
「一度悪魔にしてみようよ。試してみたい祓い方があるんだ。もしそれが失敗したとしても12使徒が揃ってればなんとかなるだろ?」
タバコをくわえながらヘラヘラしているメガネの男は完全なる研究職。第五使徒二ルラ・ハンセ。彼は最も特殊な祓魔師だ。世界なんてどうなっても構わないと思っている。彼が興味を示すのは悪魔についてだけ。誰よりも悪魔に興味を持ち、それなのに悪魔に拒否された男。
「あんたは今関係ないから黙っといて。私は今すぐにでも殺した方がいいと思うわ。後々めんどくさいし」
第六使徒ジュンコ・ヒライシは強硬派だが、そこまで過激でもない。というか結構どうでもいいと思ってる派だ。楽したいって気持ちが強い。二ルラとは違う意味で周りとずれている。
「すぐめんどくさがるのがジュンのよくないところだね。しっかり考えようよ。人の命がかかってるんだ」
優しい顔の大柄の男は第十二使徒ゴウシ・ヒライシ。ジュンコの兄だ。妹とは違い、祓魔師という仕事に真剣に取り組んでいる。だからこそ他の使徒たちと違い自分の気持ちを優先して意見することはない。
「俺はどっちでもいいから早く決めてくんない。帰って寝たいんだよ。昨日あんまり寝てなくてさ。ふわぁ」
終始眠たそうにしてる男が第八使徒インゼ・キキキ。どの派閥にも属していない。そして祓魔師の仕事もバイト程度にしか思っていない。それでも十二使徒に選ばれているのは実力が高いから。つまり天才だ。
「十三番目はどう思う?」
教皇は1人奥に座っている13人目スズネ・イシガミに尋ねる。十二使徒には数えられない最もイレギュラーな存在がこの十三番目と呼ばれる少女だ。
「私に意見することはありません。ただ命令に従うのみです」
彼女がこの会議で意見することはない。十三番目とは十二使徒から一歩引いた存在だからだ。
「そうか」
教皇は顔を伏せたまま静かにそう呟く。
天使や悪魔と関わってしまった人間が選べる選択肢は3つ。悪魔憑きとなって天使を殺すか、祓魔師となって世界の最後の仕上げとして悪魔を消す力を得るか、あとは記憶を消して日常生活に戻るかだ。
記憶、つまり天使と関わった記録を消せば天使たちを見えなくすることは可能だ。だがこの3つ目を選ぶものは少ない。確かに戦うのは怖い。だが一度あることを知ってしまった驚異の中にたとえ記憶を失ったとしても目隠しで入っていくのも怖い。だからそれらを天秤にかけて選択するのだ。
多くが悪魔憑きの道を選び、稀に現れる悪魔に嫌われる者や天使だけでなく悪魔にも嫌悪感を抱く者たちは祓魔師への道を選ぶ。悪魔も元々は天使であった者たちだから。
大抵の祓魔師たちにとって天使と悪魔は大差ない。神を殺すまで利用しているに過ぎない。
だが祓魔師になるには悪魔憑きとは違い、長年の鍛錬が必要になる。至れない者も多い。そう言った人間は強制的に記憶を消されて日常に返される。力もない人間がいても邪魔だからだ。
だからこそ十二使徒に選ばれた者たちは相当な、いや軽く常軌を逸しているような強者たちだ。もちろん十三番目も。
「意見が割れたな。多数決で決まらないときは私が決定することになっている。では言い渡す」
教皇が立ち上がる。
「抹殺だ!滅殺だ!鏖殺だ!!!殺せ!悪魔など皆殺しにしろォォォォ!!!!」
ちなみに教皇はとっくにぶっ壊れている。
「はいはい、じゃあ殺すでいいんだな。テンション上がるぜ。久しぶりに祓魔師らしいことができる」
セイヤ・センエイがいち早く立ち上がり意気揚々と会議室を出ていく。
そう、今この瞬間、カナタは聖十字協会(タナハ)にとって完全な抹殺対象となったのだ。
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