第19話 ミナトからの頼み

あの会議からしばらくして俺の携帯が鳴った。相手はミナト。だが話の内容は天使関連ではなかった。




「ユキト助けてほしい」




「はぁ!?」




「カナタを助けてほしいんだ」




ミナトの切羽詰まったような声を聞いたのは初めてでちょっと驚いた。カナタってのはミナトの血のつながった弟だ。二人一緒にジジイに引き取られた。




そしてミナトが今回助けを求めてきた理由は、そのカナタが聖十字協会(タナハ)の討伐対象になろうとしているということだった。






悪魔憑きは定期的に悪魔を降ろさなきゃいけない。それが悪魔にとっての報酬なのだから。悪魔たちは五感も感じられない地獄から現世に顕現できることこそが何よりもの快楽なのだ。快楽を超え、自分は生きていたのだと気づける瞬間。




だから契約したのに一定期間悪魔を降ろさないとその悪魔憑きの身体は完全に悪魔のものになる。




期間はそれぞれが結んだ契約による。アンリのような常時顕現型は例外だが、悪魔というのは契約したなら降ろさなければいけない。




めったにないことだが長期間悪魔を降ろさず契約違反をして悪魔に身体を乗っ取られることになれば、それは聖十字協会タナハの討伐対象に認定される。カナタの危険度はMAXのレベル5に認定されたらしい。そして6はない。5の次は悪魔だ。




もうすでに祓魔師は動き出していて、親族であるミナトの動きも制限されているらしい。




「という訳でね、僕は動けないんだ。うちの弟は君のとこのザノザと一緒で引きこもっててね。まあ怖がりな弟だから戦いたくないならいいと思って何も言ってなかったんだが、まさか悪魔さえ降ろしてなかったとは。弟を放っておいた僕の責任だよ。だからこんなこと頼める立場じゃないのかもしれないけど、でも僕が頼める相手は君しかいなくてね。ごめん」




冷静ぶって話してるけど、明らかにいつもと違った。少し早口で焦っているのが分かった。




「謝るなよ。俺しかいないなら俺がカナタを守ってやる。絶対にだ!だから少し待ってろ」




「すまない」




「だから謝るなって」




「ごめん」




「、、、わかったよ」






テンションに任せてミナトに言ったものの、どうすればいい。




「どうするのだ?ユキト、うりうり!」




俺の肩の上でアンリが頬ずりしてくる。なんか嬉しそうだ。




「俺が誰かを助けようとするとアンリはなんでそんなに嬉しそうなんだ?」」




「だってユキトと一緒に誰かを助けられるから!ずっとしたかったけど我は1人では絶対にできなかったのだ」




アンリは厄災を振りまく悪神だ。俺と一緒になって初めて自由に動けるようになった。人を助けるなんていままで出来るわけがなかった。




「、、、そっか。じゃあ頑張るか!」




「おお!なのだ!」




悪神であるアンリは”悪”そのものだ。その場に存在するだけで厄災を世界に振りまくもの。それこそ今の神と大して変わらない。世界を滅ぼすものだ。




だが神と違ったのはアンリの心はそれを望んでいなかったこと。アンリは自分を虚空に封じ込めた。そして俺たちはそこで出会ったのだ。




「とりあえず時間もないから急がないとな」




「それなら引きこもり仲間のザノザに聞いてみたらいいのだ!」




「いや、引きこもりという点は同じだが引きこもりな時点で絶対に接点ないから」








・・・








「カナタならパーティメンバーだが?」




接点あんのかーい!




「パーティーメンバーってなんだよ」




「同じネットゲームで毎日一緒に狩りに行ってる」




「マジかよ」




「ちなみにうちの優秀なヒーラーだ」




「まあいいや。とりあえず緊急事態だ。カナタが危ない!ザノザ部屋に入れろ!」




「、、、まあ優秀なヒーラーを失うのは痛手だ。入れ」




久しぶりに部屋に入るがまあ変わってはいない。真っ暗の中にPCの光だけがある。まさにネトゲ廃人の部屋。




目の下に隈を作って死んだ魚のような目をしている黒の超ロン毛がザノザ、その横のPCの前に座っている金髪の少年がマモン。ザノザと契約している悪魔だ。そしてアンリと同じ常時顕現型の悪魔でもある。




「よう!マモン久しぶりなのだ!」




「ん?アンリかよ。久しぶり。元気してんの?」




「我は元気なのだ!」




「それならよかったよ」




「マモンは元気なさそうなのだ!」




「もう3徹中だからね」




「しかし同化したりして力を使わなければ眠くなったりはしないはずなのだ」




「アンリは何もわかってないなぁ。ネットゲーム内での戦争はラグナロクを遥かに超えるんだ。さすがの僕も3日寝ずに戦い続ければこうなるさ」




「そ、そうなのか。ネットという世界はすごいのだな」




「アンリ、話し五分の一ぐらいで聞いとけ」




「そんなことよりザノザ!この忙しい時になんでこいつらを部屋に入れてるんだよ!」




「緊急事態だ、マモン。うちのヒーラーのカナタがインできなくなりそうな事態に陥っている」




「カナタがインできない!?それじゃあこのあとのボス戦どうするんだよ!一大事じゃねーか!」




「お前らはそれしかねーのか」




とりあえず細かい内容をネトゲ廃人どもに説明する。




「そういうことか。きっとカナタはネトゲに集中し過ぎて悪魔を呼ぶのを忘れてただけだろう。今すぐ教えてやれば済むことだ」




「ザノザは俺が常時顕現しててよかったな!思いっきりネトゲに集中できるもんな!」




「そう言われるとそうだな。俺もお前じゃなかったら呼び出すのを忘れそうだ」




「いや、だからカナタと連絡取れる方法がないんだって」




「何言ってんだ、お前。さっきまで一緒に狩りをしていたところだ。カナタはインしてるからチャットで言えばいいだろ」




「え、マジで?そんな感じで解決するの?今回」

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