第18話 三原則カエデ・ニイナ

また会議に呼ばれた。最近多くてウザいんだよな。内容はこの前アメリカ旅行に向かった猿と馬の遠征組が隊長だけ残して全滅したと。あと三原則のヘイシのおっさんが現れて助けたと。それでこれからどうするかと。




「取り急ぎ『猿公』と『騎馬』の人員補給を行わねばならん」




「人員補給なんてどこから連れてくるんだよ?元から人手不足だろうが」




ミツキが空気をあまり読めてはいないが正論を言う。




「その通りだ。だから一時的に『猿公』と『騎馬』の任務の一部を三原則の一人カエデ・ニイナに受け持ってもらう」




上人の言葉と共にダルそうに歩いてくる妖艶な女性が一人。




「げっぷ。そういう訳でよろしく。とにかく適当によろしく」




三原則の三人はそれぞれ理由があって俺たちの上に位置している。




ヒイロのばあさんは『知』、ヘイシのおっさんは『力』、最後の一人この飲んだくれの女は『心』として君臨してる。ちなみに年齢は不明だ。




「カエデ姐さんが?大丈夫なのかよ」




ミツキの意見ももっともだ。カエデさんは基本酔っぱらっているところしか見たことがない。




「ああ、大丈夫、大丈夫。気にしないで。上手いことやるから」




そう言ってカエデさんは酒瓶を煽る。




「実力は確かじゃ」




さすがの上人のジジイも苦笑いを浮かべながらフォローにはいる。




「え?私って信用されてないの?ヒック。じゃああんたら全員でかかってきたら?」




いきなりの真剣な声に空気が一気にピリつく。




「やめろ。カエデ」




上人がカエデさんを止める。




「ちょっと~。みんなそんなマジになんないでよ。冗談よ、冗談」




すぐに元のカエデさんに戻ったが、確かに一瞬隊長たちが気圧されて動けなくなっていた。




「俺はやってもいいですけど?」




「俺もやるぜ?」




「やめなよ、ユキト、ミツキ」




ウザかったから煽ってみたらミツキも乗ってきて、すぐさまミナトに止められた。




「そっか。あんたたち三人は私とも戦えるか」




「酔いすぎですよ。カエデさん。落ち着いてください」




冷たい声でミナトがカエデに言い放つ。




「、、、怖い怖い。ミナト君を怒らせると怖いもんね」




「はぁ、一応言っておきますけど、今度僕の幼馴染たちに殺気を向けたら死んだことも気付かせずに殺しますよ?」




ミナトはカエデさんに凄まじい殺気を向ける。




「ふふ、私を殺すって?それは少し調子に乗り過ぎじゃないかな?」




カエデさんもまたミナトへと殺気を向ける。いや、ミナト以上の殺気を。




「鼠もカエデもやめろ!ここで争って何になる!カエデ、貴様は酔いすぎじゃ!」




上人が二人を叱りつけなんとかこの場は血が流れることなく収まった。




「少し酔いが回り過ぎていたみたい。今日はもう帰った方がいいわね。私もあんたたちと本気で戦いわけじゃないから」




そう言ってカエデさんは振り返りフラフラしながら会議室を出ていった。




「じゃあ今日の会議はこれにて終わる」




俺たちを集める意味あったのかよって感じの会議が終わり、俺は呆れながら帰路につくことになる。アンリは結構前から俺の影の中に入って寝ている。




この前に『絶対悪』を使ってから俺とアンリの繋がりはより強くなったらしく俺の影の中に入れるようになった。それでも基本俺に肩車されているのだが、寝るときは影に入るようになった。どうやらやっぱり肩車では寝にくかったらしい。




帰り道の途中に酒を飲みながらフラフラしているカエデさんが立っていた。




「待ってたわよ。ユキト」




「今日は随分元気じゃないですか」




「話したいことがあってねぇ。少し飲まない?」




「俺は未成年ですけど?」




「はっ!あんたがそんなこと気にするタイプ?それにそんなの今ではカビが生えたような法律よ」




「ハイボールがうまい店を知ってますよ」




「好き者じゃないの」




俺はカエデさんを連れて行きつけのバーへと行く。店について二人無言で一杯飲み干してすぐに二杯目を注文する。その二杯目を一口飲んでからカエデさんは口を開く。




「ユキトはこの神との戦いをどう考えてる?」




「人間が滅ぼうが別に知ったことではないですね。ただ神を殺してやりたいとは思っていますよ」




「それが私たちのためであったとしても?」




「親が子供のためだと思ってすることは大体が的外れなんですよ。子供は基本楽しく遊んでいたいだけなんだ」




「ふふ、そうね。ならよかったわ。だが神を知った時、神殺しの槍(ロンギヌス)が割れるかもしれない」




「神の側につく奴らも出てくるってことっすか?」




「うん、神だからねぇ。そのカリスマ性に魅せられるものも出てくるでしょう。たとえ隊長格だとしても」




「ならそいつらごとぶっ殺すだけですね。そもそも俺あいつらあんまり好きじゃないんで」




「、、、勝てるの?」




「負けると思うんですか?」




「とう!」




影の中からアンリが元気よく飛び出してきて俺の肩に乗っかる。




「我らは最凶で最狂で最強なのだ!」




「起きてたのか?アンリ」




「一番かっこいい登場シーンまで我慢して待っていたのだ!もちろん今のセリフも熟考した末の自信作なのだ!」




「アンリ、そう言うのは言わない方がいいぞ」




「そうなのか?だがバッチリ決まったのだ!」




まあアンリが楽しそうなんでいいか。




「カエデさん、神が相手だろうと俺に憑いてるのは悪神アンリ・マンユですよ?一歩も引けを取らない」




「そうだね~。だが敵が神だけとは限らないわよ」




「どういうことですか?」




「裏も表も溶けてしまえば一緒ってことよ」




そう言ってカエデさんは目の前のジョッキを一気に飲み干す。




「そんなときのために俺がいるんですよ」




俺も目の前のグラスを飲み干す。




「最強の悪魔憑き、灰猫のユキト・ハイイロか」




「はい」




「三原則と上人も本物の最強。だから今日あんたと話したかったのよ。この5人の行動如何によってはこの戦争はあっさり決着がついてしまう」




「俺が寝返ると?」




「そうは思っていない。でもハッキリと本人の口から聞きたかったのよ。私だって怖いのよ」




カエデさんは微笑みながら俺の頬を優しくつねる。




「ちょっと、カエデさん!」




「本当あっというまに大きくなっちゃうんだから。ノリムネにも見せてあげたかったよ」




「ジジイは立派に死にました。どうせ先に死ぬんだから関係ないでしょ。結局俺たちを最後までは見れない」




「うん、そうよね。だけどミナト君はそうは思っていないわね」




「あいつは少し違う。あいつにとってジジイこそが神だった。神を殺した世界に復讐しようとしている。これから神殺しを行おうとしている俺たちと始めからスタンスが違うんです」




「思い直させようとは思わないの?」




「、、、神は殺せても奪えない。あいつから神を奪うことは無理だ。俺にそんな権利なんてない」




「、、、うん、うん、そうね。私が間違ってたわ」




「まあ、あれですよ。今日は飲みましょうよ」




「いいわね!聞きたいことも聞けたし、ここからは飲みまくろう!!!」




そこから朝まで付き合わされ、起きた時には外はもう夕暮れだった。




「うっぷ。酒に関してはあの人、間違いなく最強だな」




「ユキト!我と遊ぶのだ~!」




アンリが寝ている俺の上に乗っかってグイングイン俺を揺らしてくる。




「アンリ、マジでそれやめて。頭どころかなんか全身痛いし吐き気と腹痛もえぐいのよ」




「昨日はあの女と遊んでいたのだから今日は我と遊ぶのだ~!」




「うっぷ。ほんとマジだから、これはマジでヤバいやつだから」




この日は何もできず1日中ベットの上で過ごすこととなった。

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