第16話 猿と馬VS三天使ヨフィエル
今回派遣されたのは七番隊『騎馬』と九番隊『猿公』だが、祓魔師は同行していない。
世界のあらゆるところで天使は降り注いでいる。そして各国で悪魔憑きが戦ってる。だが悪魔憑きに対して祓魔師をつけていない国も多々ある。
確かに祓魔師は保険のようなものだ。だから祓魔師を育てることにコストを割くことなどナンセンス、それなら悪魔憑きを一人でも多く育てた方がいいと考える国が多いのだ。
世界が滅ぼされるかの一大事。世界が一つになるかと思ったが、いつの間にか強力な悪魔の取り合いになっていった。
だが強力な悪魔は日本に集まった。強力な悪魔は常に日本で召喚され続けたのだ。悪魔たちは日本を”日の出る国”と呼んだが、正確な理由はわかっていない。まあ強力な悪魔憑きが多く居るから祓魔師の制度もしっかりしているのだが、国外に連れて行こうとすると嫌がられる。
ただでさえ日本に強力な悪魔憑きが集まっているのに、悪魔憑きを殺せる他国の組織を国内に入れたくないのだろう。自国の悪魔憑きが殺されたら堪らないということだ。余計に日本との力関係に開きが出てしまうから。世界が滅ぼされそうな最中でもしっかり政治をやっているのだから大したものだ。
故に海外派遣の際に祓魔師が同行することはない。もし悪魔憑きが暴走して多少の被害を受けたとしてもその悪魔を自国の兵に憑かせる方が得と考えているのだ。
「ようこそいらっしゃいました」
ヒューストン空港を降りたところで『騎馬』と『猿公』はアメリカの悪魔憑きたちに出迎えられる。
アメリカの悪魔憑きの組織は『悪魔の扉(ディアボロス)』。所属する悪魔憑きの多さは世界一だ。その下部組織として祓魔師たちの『聖水(エリクサー)』がこじんまりとある。
「あ、俺英語しゃべれないからキョウコさん訳してよ」
「じゃあなんで派遣部隊に名乗り上げたのよ」
「だって誰も行きたくなさそうだったし、鼠と上人は喧嘩しそうだったし、そういう時に動くのが俺たちだと思ってんだよね」
「はぁ、まあいいわ。ただ訳す必要もないようなことよ。被害状況と天使の強さ、来る前に読んだ資料と大して変わらないわ。あとはそうね、派遣が遅いといったクレーム、復興のために金を出せ、遠回しに私達にアメリカ所属にならないかって勧誘、そんな感じよ」
「わかりやすくて助かったよ。で、なんて返事したの?」
「え?『死にたくないなら余計なことはしゃべるな』よ」
「わお、おっかねぇ。だからペラペラ話してた外人さんたちが急に青ざめて大人しくなったのか」
「私はこんなとこ来たくなかったから本気でイラついてるのよ。要するにアメリカが弱いのが悪いんじゃない。それなのに私が出張させられて、、、。時差ボケも出るから元の生活リズムに戻すのも時間かかるのよ。本当にイラつくわ。マジで殺してやろうかしら」
「でも祓魔師を連れてこれない海外にはキョウコさんかミナトがいないと」
「わかってるわよ。だから大人しく受け入れたんじゃない。鼠と違って」
「で、これからは?」
「このまま現地に向かうみたいよ」
「じゃあ行こうか」
キョウコとタケシを先頭に隊員も続く。『騎馬』と『猿公』からは平隊員が10人ずつ派遣されていた。互いの隊の副隊長や席次がついている強力な悪魔憑きは東京に置いてきてある。
隊長格が2人いなくなることは日本にとって相当な戦力低下だ。だからこれ以上悪魔憑きを出すわけにいかない。
だが平隊員といえど一応は悪魔憑きではある。サポートぐらいは出来る。そしてそれだけで十分だ。今回の作戦が成功するかはキョウコ、タケシの両隊長にかかっている。
現地に着くとすぐに悪魔の扉ディアボロスの連中は人払いの結界を張るために周囲に散らばった。
『騎馬』と『猿公』の隊員たちもサポートに回る。
そして今、天使と向かい合っているのはキョウコとタケシだ。
「はぁ、悪魔臭いのがまた来たの?私に向かって来てもどうせ死ぬんだからもう諦めたら?」
呆れたようにヨフィエルが二人を見下ろす。
「じゃあキョウコさんお願いします」
「わかってる。意識を共有するわよ」
「あざーす!」
―遊ぼうぜ、酒呑童子―
タケシが悪魔を呼び出す。
『おい、今回は楽しめそうなのか?』
「これまでで一番な」
『そりゃたまらねぇな』
酒呑童子に憑かれたタケシは日本刀を持ち、着物を着崩している鬼の姿となる。
「死になさい」
問答無用でヨフィエルは雷を落とす。しかしタケシは雷が落ちることをあらかじめわかっていたようにゆうゆうと避けて見せる。
「ん?なぜ避けられるのです?気付いてから動いても意味がない。それが雷なのだから」
「気付くのがずいぶん早かったんだよ」
「はぁ!?」
今タケシが感覚を共有しているキョウコに憑いている悪魔はラプラス。その能力は『未来視』である。10秒先の未来を見られるというものだ。相手が承諾すれば他人に自分の未来視を見せることも可能だ。
そして未来視を共有する時と共有を解除する時、その一時キョウコは相手の身体の主導権を握る。
故に祓魔師を連れてこれない海外遠征には鼠の『可逆』の力と同じく必要とされる。彼女が同行している悪魔憑きが暴走する未来を見たなら即座にその意識を奪うということになっている。
「そこに行くのは見えていた」
タケシは刀でヨフィエルの胸元を斬りつける。
「ちっ!あの女の能力か」
忌々しいといった感じでヨフィエルは奥に控えているキョウコを睨みつける。
「よそ見してんなよ」
更にヨフィエルはタケシに斬られる。
「クソが!」
ヨフィエルはとりあえずタケシから距離をとる。
「楽しくなってきたなぁ」
タケシは刀についた血を舐めとる。タケシに憑いている酒呑童子の能力は『強化』。ただ単純に身体能力が強化されるというだけのものだ。だがこれによりタケシの白兵戦の戦闘能力は十三槍の中で随一となった。
ヨフィエルはタケシを観察する。目の前の相手に飛び道具や特殊な攻撃はない。只々速くて強いのだ。
「あんたの能力ってそれだけなの?」
「ああ、俺に難しい力はない。ただ強いだけ。あ、今はキョウコさんの未来視もついてるか」
「やはりあの女を先に殺すべきか」
「俺を抜けるならやってみなよ」
「、、、ふふ、抜く必要なんてないわ」
ヨフィエルは能力を解放する。その能力は圧倒的な範囲と火力。タケシの一対一の強さとは違い、多対一に特化した能力だ。
―死の雨―
スコールのような爆撃が空から降り注ぐ。
「クソ!これじゃあ未来が見えても意味がねぇな」
10秒先まで見えたところでこの攻撃範囲から10秒以内には抜け出せない。タケシが見た10秒後は右足と右腕を失った虫の息の自分だ。
「私の能力は『殲滅』。その名の通り消え去りなさい」
激しい爆撃の雨が止んだころ、息があるのは2人だけだった。足と腕を失ったタケシ、そして全身火傷して虫の息のキョウコ。
両隊の隊員たちがそれぞれの隊長を身を挺して守ったのだ。だが両隊長は待っていればすぐに死んでしまうような状態。ただかろうじて息をしているだけ。
「はぁはぁはぁ、中々の力でしたが、人と悪魔が手を組んだところで神に勝てるわけがないとわかったでしょう。これで終わりよ」
―死の業雨―
さらに激しさを増す爆撃の雨が再び降り注ぐ。さっきよりも範囲の広い死の雨だ。おそらくこの攻撃でテキサス州というものから生き物は消えてしまうだろう。人払いをしていた悪魔の扉(ディアボロス)の連中も一緒に。
・・・
だがその爆撃が地上に到達することはなかった。
その爆撃そのものがなかったことのように突如消えたのだ。
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