第13話 ユキトとアンリ・マンユ

「ごはっ!」




こいつはつえーや。ミツキがやられたのもわかる。俺は血を吐きながら目の前の天使を見る。




「ぐはっ!アンリ・マンユめ!」




同じく血を吐いているザドキエルを。




『ユキト!このままじゃヤバいのだ!』




アンリが焦ったような声で話しかけてくる。なぜなら何度攻撃を与えようとザドキエルの傷は一瞬で消えていくのだから。




ザドキエルの能力は『再生』。いくら攻撃してもすぐに元の姿に戻る。そして戦ってみた感じこの再生に限界はないらしい。息をするように再生していく。




「わかってる。このままじゃ勝てねーな。一撃で命を絶つしかない。だけどそれにはもっと深く同化するしかない」




『だがそれをするとお前が!』




「お前もだろ。でもこのままじゃどうせ死ぬんだ。一か八かやってみる方がいいだろ」




『しかし!』




「、、、愛してるよ、アンリ」




『え!?わ、我ももちろん愛しているのだ!』




「じゃあ頼むよ」




『、、、わかったのだ』






―絶対悪―















2人が出会ったのはまだユキトが子供だった頃。




孤児院に入る前、ユキトは7歳から8歳までの1年間、監禁されていた。両親と弟は殺されユキトのみが生かされた。




犯人は40過ぎの男。少年好きの変態だ。




ユキトの事を気に入り遠くから眺めているだけの男だったが、彼に転機が訪れる。天使に出会ったのだ。




天使はたまに人を喰らい、たまに人に力をバラまく。強い加虐心と共に。




天使に力を与えられた男は自分の欲望のままに、まずは邪魔だったユキトの家族を喰った。




そしてユキトを閉じ込め楽しんだ。何度も犯されたし、何枚も爪をはがされたし、何本も骨を折られた。男はユキトの叫び声を聞くたびに喜んだ。




『お前の叫び声を聞くだけでイキそうだよ』




ユキトの耳にこびり付いて離れないほど何度も聞かされた言葉だ。






恐怖、怒り、恨み、苦しみ、後悔、悲しみ、憎悪、諦め、絶望






全ての負の感情で破裂しそうになりながらも死ぬことも許されない。




どうしようもなくなった心は完全な空虚となった。




その何もなくなった世界で自分さえもいなくなった世界で、ユキトは聞こえるはずのない声を聞く。






『誰かいるのか?』




『いない』




『ここに来た者は初めてだ。なにがあった?』




『ない』




『そんなことがあったのか』




『何も言ってない』




『我にはわかるのだ』




『そう』




『へへへ』




『・・・』




『生まれて初めて会話をしてしまったのだ』




『そう』




『というかお前人間ではないか!このままでは消えてしまうぞ』




『いい』




『我が嫌なのじゃ!せっかく1人じゃなくなったのに、初めて話が出来たのに!また一人になるなんて耐えられない!』




『そう』




『お前のせいなのだ!”1人ではない”を知ってしまった』




『そう』




『お願いなのだ!我ともっと一緒にいてくれ!もう一人は嫌なのだ!』




『そう』




『何かやりたいことはないのか?我と一緒にやろう』




『やりたいことなんて、、、いや、一つある。あの男を殺したい』




『お前を痛めつけている男か?』




『いや、殺すだけなんて生ぬるい。この世で一番の苦痛と屈辱と恥辱と悲しみを永遠に味合わせてやりたい』




『そうすれば我と一緒にいてくれるか?』




『え?』




『我にはそれができる。地獄が天国に感じるような苦しみを永遠に与えてやろう』




『、、、わかった。そうしてくれるなら俺は君と永遠に一緒にいるよ』






ユキトは現実に戻ってくる。男は息を荒げながら自分を犯している最中だった。




「おい!ユキト!どうしたんだよ!いつもみたいに苦しそうな声を上げてくれよ!こんなんじゃイケないぞ!」




ブチン




「うぎゃああ!!!俺のが、俺のがぁぁぁ!!!」




男は股間から血を流してのたうち回る。ユキトは千切り取った男の性器を尻から抜き取ってその辺に投げ捨てる。


「うるせぇな。寝起きなんだよ。少し静かにしてくれ」




酷く冷めた目でユキトはのたうち回る男の前へとゆっくり歩いていく。




「ユキトぉぉぉ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!今まで生かしておいてやってなのに!もう殺してやる!」




「豚の言葉はよくわからねぇ。何か言ったか?」




ユキトは男の頭を踏みつける。




「ユキトぉぉぉ!!!」




「もしかして今俺の名前を呼んだか?」




グシャ!




「あ、いけねぇ。踏みつぶしちゃった」




ユキトはトマトを踏みつぶすかのように男の頭を踏みつぶした。




「悪い、アンリ。ちょっと間違った。もうワンテイクいいか?」




『ここは我がその男のためだけに作った地獄なのだ。ユキトの好きなようにすればい』




アンリがそう言うと男の潰れた頭はゆっくりと元に戻っていく。




「うわぁぁぁ!!!はぁはぁはぁ、今俺は頭を踏みつぶされたんじゃ?」




「もう一回やろう。今度はゆーっくり頭を踏みつぶしてやる。あとお前に付き合ってくれる奴らもいるらしい」




奥からクトゥルフ神話に出てくるような怪物たちがやってきて男を囲む。そして男を犯していく。その光景を冷めた目で見ながら再びユキトは足に力を入れ、今度はゆっくりと男の頭を踏みつぶそうとする。




「ぎゃあああ!やめてくれぇぇぇ!」




ユキトの耳には男の叫び声は届いていない。




ユキトは出来るだけゆっくりと頭を踏みつぶすことに集中していたから。




「ユキトぉぉぉ!!!ユキトぉぉぉ!!!やめてくれぇぇぇ!!!」




グシャ




ユキトは男の頭を踏みつぶす。




「アンリ、これがOKテイクだ」




「わかったのだ。では今のOKテイクを100万回繰り返すととする」




アンリが作った空間の中で今の光景が何度も何度も繰り返されていく。




「もう嫌だぁぁぁ!お願いぃぃぃ!もうやめてぇぇぇ!」




「いい年したオヤジが女みたいな声出してんじゃねぇよ。気色悪い」




その空間からユキトとアンリは出ていく。




現実の世界には頭が無残に潰された男の死体が転がっている。だがその魂は今も異空間で犯され殺され続けている。




「アンリ、俺はもう壊れてる」




「壊れててもいい。我とずっと一緒にいて欲しい」




「俺も一人で立っていられる。気がしない。アンリ、すっと一緒にいてくれ」




「、、、の、望むところなのだ」




「ありがとう」




「ユキト、我らは一心同体。二人で一つなのだ」




「それなら安心だ」




この瞬間にユキトとアンリの間で完璧なる契約が結ばれた。











ユキトが監禁されてから一年と少し経って、僅かな天使の反応は察した当時の『窮鼠』が救出に向かったが、ユキトは助けられたわけじゃない。




『窮鼠』が到着した時、その場には血塗れの少年とその彼に抱き着いている少女、そして男の死体が転がっていた。




「うっ!」




その場に到着した、当時『窮鼠』隊長だったノリムネ・イシガミは鋭い目で睨んでくるその血塗れの少年に恐怖を覚えたという。その後、ユキトはノリムネが経営している孤児院に引き取られることとなる。

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