第11話 神と七天使

虚ろな目をした老人が座る玉座、その前には円卓。そして円卓には7人の天使が座っていた。




「おい、ザドキエル。なぜ勝手に動いた」




議長の席に座っている美しい女性が天使長ミカエルだ。今回勝手に動いて地上を攻め、撤退させられてきたザドキエルの行動について7天使は集められていた。




7天使と言っても力関係は完全に2つに分かれる。まず神が最初に生み出した天使、そして最後まで神の元に残った四大天使。ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルの四人だ。リーダーはミカエルだが、それは指揮系統の話であって、4人は対等である。




次に第2世代として生み出された天使たちの中で残った3人が三天使と呼ばれる。サマエル、ヨフィエル、ザドキエルの3人。彼らも対等である。




だが四体天使と三天使は対等ではない。四大天使の配下として三天使がいる。




本当はもっと多くの天使がいたが、神の最高傑作と言われた元大天使長ルシファーが兄であるサタンと反乱を起こた。そしてなんとほとんどの天使が彼らについたのだ。この戦いは神が勝つことになるが、多くの天使は悪魔となってしまった。




それから神は天使を作ることはやめた。最高傑作だと思って可愛がった存在に裏切られたのだから。そして神は思った。完璧なものなんて作らなくていい。今度はもっと弱く、一人では生きていけない不完全なものを作ろう。




そうして神は人間を作った。




だから世界を終わらそうとしている今でさえ、自我を持つ天使を生み出すことはしていない。




話は会議に戻る。




「あなた達がまだ動けないようなので私が動いたのですよ」




議長であるミカエルに聞かれザドキエルが悔しそうに反論する。




今まで人型の天使が地上に降りられなかったのは、神が最後に残った7天使たちを天界に縛り付けているからだ。そう、まだ神は天使を信じられないのだ。




だから神の力がここまで弱まってきたところでやっと第二世代の3天使は自由に天界を降りられるようになった。だが第一世代の四大天使はもっと神の力が衰えないと天界を出ることができない。神からの縛りは四大天使の方が強いからだ。理由はもちろん自分を裏切った最高傑作が第一世代だったこと。




四大天使からすれば皮肉な話だ。主の願いを叶えるためには主の衰退を待たなければいけないのだから。




「違う。なぜ待てなかったのかと聞いているのだ」




そんな事情も考慮したうえでミカエルは淡々とザドキエルに聞き返す。




「神は全てを無にしろと申しておられます!」




「それでお前は全てを無に出来たのか?」




ミカエルはそう言ってザドキエルを睨みつける。




「し、しかしミカエル様!地上の連中は神の意志に反しているのですよ!?」




「次は許さん」




ミカエルはこれで話は終わりだとばかりに言う。




「、、、わ、わかりました」




ミカエルの圧にザドキエルはそう答えるしかなかった。




「でもさぁ、ミカエル。まだ僕らは動けないんだよね?じゃあこれからはどうするのさ」




ゆるい感じの女天使はガブリエル。四大天使の中で唯一人間のことが割と好きな方の天使だったが、神が殺せと言うなら従うまで。葛藤さえない。




「だからそれを決めるために会議が開いてるんだろう。黙っていろ、ガブリエル。お前は圧倒的に頭が悪い」




不機嫌そうに腕を組んでる男はウリエル。誰よりも神を崇拝しており、神以外に興味のない男である。彼にとっては人間と蟻は変わらない。それこそ区別自体がつかないほどだ。




「ぷんぷん!失礼だな!ウリは!僕は実はやればできる子なんだよ!」




「知っている」




「え、そうなの?照れるな~」




「やるとは思えないけどな」




「ん?何か言った?」




「なんでもない」




「2人共、ミカエルの話を聞きなさい」




二人をたしなめる穏やかな雰囲気の男性はラファエル。彼は何にも執着がない。天界、地上、地獄、どこにも興味がない。つまり世界というものに興味がない。ただ神に言われたことを実行するだけ。




「我々、四大天使が地上に降りられまではもうしばらくかかる。だがその時がこの世界の終焉だ」




ミカエルは四大天使最強であると同時に、サタンとルシファーの妹。3兄弟の末っ子だ。大逆者の兄妹でありながら四大天使の筆頭となってるのは彼女の優秀さゆえだ。彼女の神への忠誠は本物だ。だがミカエルは自分でもわかっている。神が自分を信じ切れないことを。




「じゃあそれまで待てと?」




三天使の1人、サマエルがミカエルに尋ねる。




「その予定だった。だがザドキエルの暴走により警戒心を与えてしまった。だから念には念を入れる。もう隠す必要もない。三天使に地上での戦闘を許可する。我らが降り立つまでに一匹でも多くの猿を殺し、神が望む世界の終焉の実行をスムーズにしておけ」




「わかりました」




「お任せください」




「今度こそ失態は犯しません」




三天使であるサマエル、ヨフィエル、ザドキエルが一礼して部屋を出ていく。




彼らを見送ったミカエルは席を立ち、神の前まで行く。そして跪き神の手の功にキスをする。




「うぐっ、うぐあああ!」




神は苦しそうな声を上げる。普段は虚ろな目をしているが、時折思い出したようにこのような声を上げる。もう神に考える力はない。本能で終焉へと向かっているのだ。この苦しみから解放されるために。




「大丈夫です。大丈夫です。父よ。私が一刻も早くその苦しみから解放します故」




ミカエルは涙を流しながら慈しみをもって神を優しく抱きしめる。











空には三人の天使が立っていた。もちろん三天使だ。




「それじゃ私はあっちの方行くわね。なんか栄えてて壊しがいがありそう」




見目麗しい女の天使がアメリカ大陸の方を指さす。三天使の一人ヨフィルだ。




「じゃあ僕は反対の方に行くよ」




ヨーロッパの方を指さした怠そうな男の天使はサマエル。




「俺はあの島に行く。前回の借りを返さないと収まらない。それに日の出ずる国を落とすのは急務だ」




日本を指さしたのはザドキエルだ。

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